表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/104

18 デートしよう

 王子は苦笑して、部屋まで送ると言ってくれた。

 まあこうなってしまえば一人で戻りますとも言いづらい。

 ところが、廊下に出たところで、僕はすぐに人間の姿に戻ってしまった。

 王子がするりとひと撫でしただけで、だ。ポメの毛並みを堪能するにはあまりに短い時間だったと思う。


「あれ?」

 驚いて自分の体を見おろすが、間違いなく人間だ。思わず王子と見つめ合ってしまった。

「……愛情を感じると元に戻るだったか」

「古い話を持ち出してなんですかっ!」

 カッとなってすぐさま否定する僕を見て、王子は笑う。

「現在進行形だろう?」


 愛情云々は、僕の初めてのポメ化で、父上がこぼした言葉だ。

 でも、文献にも載っていないし真実は闇の中なのだ。

 出来れば否定したい。


 そのときふっと、嫌な想像をしてしまった。

 僕こそが、おもしれー男コースなのでは?


「逃げたそうだな」

「ふぇ!?」

 まさに、ヤバい逃げなきゃとか考えていたさなかだったため、僕はビクっと肩を揺らしてしまった。

 王子は笑っている。そのはずだ。だけど何だろう、背筋が寒くなるような。


 か、狩られる……。

 王子がライオンで、僕がポメラニアン。ダメだ、首を加えて持ち運ばれる図しか浮かばない。


 いや、でも待てよ。

 逃げるから捕まるんであって、彼の周りでキャンキャン吠えたら、気を変えるんじゃないか?

 原作の悪役令息ノエムートは、王子に結構アピールをしていたじゃないか。

 精一杯美しく装って、デートに誘って断られ傷ついていた。僕を見てくれと視線を浴びせかけ、全身でアピールしていた。

 そうだ!

 ここは、「押してダメなら引いてみろ」の、逆をやればいいんだ。


「……ノエム? 聞いているか?」

 答える代わりに、僕は全然別なことを口にした。


「キアノ、デートしませんか?」


 作戦名は「王子に恋しちゃったフリで聖女をあぶりだそう!」である。ちなみに今決めた。

 王子は僕の申し出を受けて、最初とまどった様子だった。「え、あ、うん……」とか彼らしくない返事をしていたもんな。


 もしかしてこれ、有効なんじゃないか。僕がぐいぐいいったら、王子の目も覚めるのでは?




 ということでデート当日である。

 奉仕活動とは違うので私服だ。僕は侍女たちに「思い切り可愛くして」と指示を出しておいた。

 王子とのデートをものすごく楽しみにしていましたよ感を出すのだ。張り切りすぎて失敗するヤツ。


「ふっふっふ」

 勝利を確信した僕だったのだが……。


「坊ちゃまいかがでしょうか」

 僕は鏡の前に立ち、しばし沈黙した。

「お気に召しませんか?」

 侍女たちが心配そうに僕を覗き込む。

「うん、いいんじゃないかな。可愛く仕上がってる」


 今更だけど、ふつう、こういうシーンは侍女任せにしないよね。

 着ていく服に悩み、ファッションショーを繰り広げ、結局考えすぎてわからなくなり濃すぎるメイクだったり大胆過ぎる服で行っちゃったりする。

 自分で暴走しなきゃダメだったんだ。


 普通に可愛い仕上がりになっちゃったぞ。

 丸襟のシャツに水色のクロップドパンツ、ストラップ付きの靴を合わせた。袖の部分は透け感のあるレースになっていて涼し気だ。

 

 問題は靴下の丈だ。

 足見せNGが貴族の文化なんだけど、今日はチラッ足首が見えている。


「これ、はしたないって言われないかな……」

 一センチにも満たない肌見せなんだけど、心配だ。

「平民に紛れ込むなら素足でもいいくらいなんですけどね」

 ライラは首を傾げるが、ヘレンやジョアンは即座にそれはダメだと否定する。

「そうですね、王子が変に興奮しても困りますよね」


 ライラの納得ポイントそこなの?

 結局、動きに合わせてチラッと肌が見えるか見えないか、みたいな位置に調整された。

 王子が試されている。

 いや、王子にそんな特殊性癖はないと思うけどね。


 あとはふんわり編んだみつあみにストローハットかぶせれば完成だ。よく見なくても、飾りのリボンは王子に貰ったものだね。

 それにしても、いつもよりだいぶラフだ。

 迎えに来た王子もいつもと雰囲気が違った。髪型が低めのポニーテールになってる。

 てかさりげなくリンクコーデじゃない? シャツは立襟だけど胸元のプリーツが一緒だし、ストローハット持ってるし。

 あ、ブローチも王子のは枝で僕のは花だけど、サイズ感や曲線が一緒!


 なんだこれ、水面下で僕のとこの侍女と王子のところの従者とのやり取りがあったに違いないぞ。そりゃ警護の関係とかスケジュールとかあるから、あるんだけれども!

 いや、それより――それよりも!


「楽しみすぎて、昨日はよく眠れなかった」

 などと言いながらキラッキラしている王子をどうにかしてくれ。

 どう考えても、浮かれっぷりで負けている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ