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5 ピンク髪

 今日はいよいよ、ポーションを試用する。

 爆発することもあるらしいから、場所は練習場だ。僕は朝からわくわくしていた。


 組になったもの同士、お互いの観察結果をレポートとして提出するまでが授業の一環だ。

 発表は一組ずつで、僕らの出番はまだ先だからのんきに見学している。


 クラスメイト達の多くは、前情報通り回復ポーションを作っていた。切り傷に効くやつだ。

 ちなみに回復ポーションには試験紙がある。わざわざ傷を作らなくていいと聞き、かなりホッとした。

 試験紙にポーションを一滴落とすと色が変わるらしい。赤は即廃棄。黄色は効果なし。水色は学生としては及第点で青が出れば合格だそうだ。


 カード探しに関しては今回で終了だけど、ポーションの授業自体は続くから、そのうち作ってみる機会もあるだろう。

 素材探しとかも行ければウキウキなんだけど、僕は薬草園ですら自分で採っちゃダメとか言われそう。かぶれるからとか言われてさ。

 

 遠い目をするうち、サンサールとマスケリーの番になった。彼らは回復ポーションじゃなく浄化ポーションを作ったそうだ。泥水を真水に変えるヤツ。イタズラっ子コンビが暮らしの役に立ちそうなもの作ってるとちょっと驚くね。


 しかも結構高評価を貰っている。負けてられないぞ。

 次は僕らの番だ。

 

 レアサーラは、ケープを持参していた。あったまいいって顔で見ていたら、ため息をついて僕にもひらっと薄っぺらい布をかけてくれた。

「それ、差し上げます」

 僕の分もあるのか。僕がそこまで気が回らないってことまでお見通しだったらしい。

 思わず「ありがとうお母さん」と口走ったら額をぺちっと叩かれてしまった。だって準備よすぎだろ。


 そのまま彼女の様子を見ていたら、素手で毛染めポーションに触れるのでびっくりした。手まで染まっちゃわない?

 いやそれよりも、レアサーラ、髪を結んだままだよ。

 彼女はいつも通りのツインテールだった。

「これで大丈夫です。全部染めるわけじゃないので」

 彼女はキッパリと答えて髪をひと房だけ染めてみせた。メッシュみたい。その手があったか!


 でもなんか変だな。

 彼女は黒色を作ると言っていたはずだ。

 けどどうみてもにごった灰色というか、緑というか……それ、ドブの色では?

「色の調合失敗した?」

「ええ、誰かさんが遠慮会釈なく粉をふりまいてくださったおかげで」


 そういや、くしゃみしてたね!?

 

「そんな! もうドジっ子イベントが終わってたなんて。爆発するならレアサーラだとばかり思ってたのに!」

 拳を握りしめて悔しがっていると、レアサーラは無言でニコッとした。僕はさっと自分の口を塞ぐ。

「なんでもないです。ごめんなさい」

 小声で話してたつもりだけど聞こえちゃってたみたいだ。周りにくすくす笑われちゃったし、先生も苦笑している。


「染まり具合は良いですね。色味は……少々」

 先生は評価の途中でレアサーラの手に目を留めた。

「手はきれいなままですね」

「はい。ギフトをまとわせています。ゴムて……薄い膜で覆うように」

 今ゴム手袋って言いかけた?

 それにしても考えたなあ。

 工夫の甲斐あって、失敗ポーションでもギリギリ合格点を貰っていた。


「次はノエムート様どうぞ」

「はい」

 先生に呼ばれて僕も準備を始めた。

 と言っても、僕の場合はポーションの蓋をあけるだけだ。

 僕はレアサーラとは真逆の発想で髪だけを染めるつもりなのだ。でも失敗するかもしれないし、ケープはありがたく使わせてもらう。


 毛先を毛染めポーションにちょんとつけてしばし待つ。実は授業が始まる前、素早く染まるように髪全体にギフトをまとわせてきたのだ。

 髪色の変化はどうやらうまくいっている。感嘆の声とともに拍手が巻き起こったからね。ふふん、うまくいったね。

「大変きれいに染まりましたね。合格です」


 念のため鏡で確認したところ、狙い通りの綺麗なピンク色にしあがっていた。

 クラスメイト達から「可愛い」の声もいただきました。


 でもね、これを見て王子は僕のことを見損なうわけだよ。君がそんな恥知らずなことをするなんて、と。

 ん? なんだろ。何か忘れているような気がするな。

 深く考える前に、リャニスの番がやって来た。

 そうリャニス、結局どうするつもりなんだ!


 リャニスが作っていたのは惚れ薬だった。自分で飲むのか、クリスティラに飲ませるのか、ハラハラしながら見守っていると、先生が鳥かごを二つ持ってきた。カバーを外すと中には青い小鳥がいた。

 警戒心の強い野鳥に飲ませて、懐けば合格ってことらしい。

 良かった、さすがに人体実験はしないらしい。時間制限付きとはいえ、薬で好感度を上げるとか何があるかわかんないもんね。


 果たしてリャニスの惚れ薬をのんだ小鳥は、ピピッと可愛らしい声を出して彼の肩に乗った。

「わあ!」

 クラスメイト達――主に女子から華やかな声があがる。わかる。正直僕も黄色い悲鳴をあげたくなった。

 だって僕の弟が、小鳥に頬をつつかれてくすぐったそうにしているんだよ。

 そりゃもう可愛いさ! 小鳥もそうだけどリャニスが可愛い!

 ギャップだよね。ふだん真面目なリャニスが、小鳥と戯れて頬を緩ませているなんて。

 絵師、絵師を呼ばなきゃ!

 もちろんリャニスも合格だ。なんなら惚れ薬が揮発して僕らも吸い込んじゃったんじゃないかってくらい盛り上がった。


 ちなみにクリスティラの作った薬をのんだ小鳥は、ピギャっと鳴いて飛んで行ってしまった。これは……不合格?

 それにしても、クリスティラも一応作ってはいたんだね。僕はそっちの方が驚きだった。

 これで全員の発表が終わった。


「兄上」

 肩に小鳥を乗せたまま、リャニスが近づいてきた。

「綺麗に染まりましたね。かゆみや痛みはありませんか?」

「うん。今のところ大丈夫。それよりこれ、似合う?」

「見慣れた色合いと違うので少しふしぎな感じがします」


 うむ、反応に困っている感じ。

 それはそう。ヒロインふうに仕上がった兄なんて見たくないよね。でも、いい感触じゃない?


「王子に見せに行かないと」

「え? 殿下にですか?」

「そうだよ。せっかく染めたんだし」


 休み時間になると三年の教室へ向かった。リャニスもついてきた。

 上級生の教室に突撃なんて、前世なら緊張したかもしれない。けど僕は長いことポメ化していたせいで温かい視線を向けられているから大丈夫!

 ……生温かいではないと思いたい。


 教室をひょいとのぞき込むと、いち早く王子が気づいて出てきてくれた。

「ノエム、その髪はどうしたんだ? ああ、それが君のポーションか」

 さすがは王子、やっぱり僕の授業を把握しているらしい。

 僕は頷いて、髪を両手でつかんでふりふりして見せた。

「どうですか?」

 すると王子はいつも通りキラッとした笑顔を見せた。

「可愛いよ」


「え!?」

 僕はそこでようやく思い至った。

 聖女の真似もなにも、まだ聖女は登場していないわけだから、今の王子には関係ないのでは!?


「ぬかった!」

「うん?」

「すみません、なんでもないですこれで失礼します!」

 早口に言ってさっと背を向けようとしたところ壁際にトンッと追い詰められる。


「どうして逃げるんだ。今さら恥ずかしくなったのか。私に会いに来ておいて?」

 うぉう、キラッキラが飛んでくるよ。

 

 横目でリャニスに助けを求めたのだが、彼は彼で小鳥を肩に乗せているせいかキャッキャと人に囲まれている。


「毛先まで綺麗に染まっていて、ポーションとしての完成度が高いな。それに、色味も繊細でこれまでにない雰囲気で品がある。非常に美しいよ。これは新たな流行を呼びそうだ」

「ありがとうございます」


 急に品評されちゃったけど、ポーションの出来の話だから素直に受け止める。

 でもその先がダメだった。


「本当に良く似合っている。元の髪色の方が好きだが、いつもと違う新鮮な君を見られて嬉しいよ。わざわざ見せに来てくれたことも含めて」

 なんて言いながら、彼は髪をひと房手に取りさりげなく口づけた。

「可愛い」

 わずかに頬を染め、彼は微笑んだ。こっちもボッと顔が燃え上がる。

 う、うわああ!

 嫌われイベントのはずなのに、どうしてこうなるんだ!




 のちほどレアサーラ相手に愚痴ったら、彼女はお茶を飲みながら当たり前の顔で言った。

「人は初めて見たピンク髪をヒロインと思い込む習性があるのです」

「染めたんだから、セーフだよね!?」

「さあ」

「あとこれ、元に戻るんだよね!?」

「騒がしいですよ、ノエムート様」


 僕のピンク髪は、そこだけ原作通り、一週間元に戻らなかった。




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