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追補 誕生日と文通と

一週間くらい粘ってみたものの、12歳になる年に入学し3年生で卒業だと、どうがんばっても14歳にしかならなかったので修正しました。

(※15歳の誕生日を迎えるまで→14歳の(略)に変更)

というわけでノエムは無事、14歳の誕生日を迎えることができるのか、引き続きポメ化令息をよろしくお願いします!

 十一歳の誕生日、王子からレターセットをもらった。この世界では基本的に、誕生日は家族で祝うものであり、親しい友人であってもカードを贈り合うくらいしかしない。


 なのでプレゼントを貰ったことに少々驚いてしまったが、これで手紙を書いてくれってことなんだろう。

 レターセットと言っても、百均で見かけるような封筒と便箋(びんせん)が数枚入っているだけの可愛らしいものではない。コピー用紙くらいの厚みのある束である。うわあい。

 王子は一足先にスクールへ入学したので、おそらく寂しいのだ。モフモフが足りないと見えるね。


 ちなみに王子の誕生日は一月で、僕は決まり通りカードを贈っただけだ。

 中身も割とテンプレートなヤツ。

 記憶を取り戻す前の僕は、とにかく王子にふさわしい存在でありたくて、失敗を恐れて当たり障りのない内容しか書けなかった。

 そして今は、母の厳しいチェックが入るので、あまり変なことは書けない。

 カードは基本的に、飾るものだしね。


 でもね、王子。

 手紙も割と検閲が入るよ。内容だけじゃなく、文字の美しさ、正しい挨拶が書けているか、失礼がないか、封筒や便せんの季節感までチェックされる。


 このあいだも『お肉が美味しかったです。あまりにも美味しかったのでおかわりしました』って書いたら、母上にため息つかれちゃったもんね。

 お待たせするよりはいいでしょうと、ギリギリセーフ判定だったけど。


「ちなみに王子からの返事は、たくさん食べろ、だった」

 勉強の時間、リャニスにそう暴露すると、彼はマジメな顔で頷いた。

「殿下が心配なさるのも無理はないかと。兄上は食が細いですからね」

「おかわりしたのに?」

「普段から、あのくらい召し上がっても良いということです」


 そうは言っても、原作通りにノエムートをやっていたころよりはよほど食べていると思う。

 アレだよ? 原作だと可愛いと思われるために肉を我慢してスミレの砂糖漬けとかかじっちゃうからね。

 僕にはちょっと無理だ。砂糖の味しかしないお菓子より断然肉の方がいい。


「とはいえリャニスとは運動量も違うからね」

 ついでに頭脳労働の量も違う。

 僕が王子を相手に手紙の練習をしているあいだ、リャニスは父上の仕事の手伝いとかしてる。

 リャニスが剣術の稽古をしているときに、僕はお茶会会場のコーディネート練習をしているんだよ。

 差よ……。

 遠い目をしていたら、リャニスがじっとこちらを見ていた。


「あ、いや、はい……。食べます。ちゃんと」

 彼の視線に気おされるように返事をすると、よろしい、って感じで頷かれてしまった。

 僕の周りはどうにも過保護が多いように思う。


 王子からの手紙は、週に一度のペースで届いた。

 スクールには温室があって、面白い植物があるのだという。王子が描いたらしい絵も入れてくれた。

「あ、サボテンだ……」

 トゲだらけの丸い植物が、植木鉢にすっぽりと収まっている。

 ボタニカルアートみたいな画風で、結構うまくて感心してしまう。


 サボテンは、魔女の国の植物なんだそうだ。手紙には『君がスクールに入学したら案内したい』と書いてある。『よろしくおねがいします』と返事を書いて、王子の絵は額に入れて飾っておくことにした。

 そうだ。いいことを思い付いた。


「母上、今度僕がポメ化したとき、絵師を呼んでいただけませんか? 王子に贈りたいです」

 夕食の席でお願いしたところ、父上が盛大にむせてしまった。

 そのせいで母上にギッと睨みつけられる。母上は父上のナイトなのである。この人を傷つけるものは息子であろうと許さぬ、みたいな目つきだ。怖っ……。

 二人の様子をうかがっていたリャニスが遠慮がちに提言した。


「いつものお姿のほうが、殿下はお喜びになると思いますよ」

「え? まさか! ポメのほうが喜ぶって、絶対」


 僕は確信しているのだが、なぜだか満場一致で却下された。みんなわかってないな。王子は相当な犬好きだぞ。

 しかもその発言のせいで、僕は自分で描いた絵を王子にプレゼントすることになってしまった。

 うーむ。楽はさせないってことか。


 うろ覚えでポメの時の僕を描いたら面白いことになっちゃったし、ここはあれだな。植物画には植物画を返しておこう。

 そしてまた、無難を選ぶ僕。


 絵のモチーフにスズランを選んだのは偶然だった。適当につんで部屋に持ち帰ろうとして、ストップがかかったのだ。

「決してお手を触れませんよう」

 侍女たちに言われてさすがにピコンとした。

 さてはこの花、毒だな。

 周りが過剰に心配するし、絵はしおりサイズでササッと仕上げた。できはともかく、署名を入れておけばそれっぽい気がする。


 そして僕はその日から、植物図鑑や毒物図鑑を眺めて過ごした。

 スズランは可愛い花なのに、結構ヤバいやつだった。花瓶の水にも毒が溶け出しちゃうのか……。吐き気や頭痛で済めばいいけど、最悪、心臓が止まってしまうって。

 ほかにも、庭に咲いている花で使えそうなのはいくつもあった。スイセンもヤバい。

 毒って普通にその辺にあるもんなんだな。


 勉強の甲斐はあったと思う。毒耐性をつけるための糸口もつかんだ。毒を薄めてギフトに混ぜて体に巡らせるという修行の始まりだ。まあ、そう簡単にうまくもいかなくて、寝込みがちになっちゃったんだけど。


 王子は、休みを利用して時々僕に会いに来た。別にわざとやってるわけじゃないんだけど、熱を出したり発疹が出たり、王子との面会をお断りすることが二度三度と続いた。そうなるとほかの集まりに出るのもなんだか悪い気がして、お茶会やなんかも断った。


 その結果、出てきたのがノエムート病弱説!

 これ、利用できないかな。

 王子は聖女と恋に落ちるし、僕は婚約破棄される運命だ。その時、僕の側に傷が多ければ婚約破棄だって進めやすいんじゃない?

 僕、なるべく二人の恋路の邪魔をしたくない。そしてバッドエンドからも遠ざかりたい。


 なのに、ぜんぜんうまくいかない!

 秋ごろ、僕は焦っていた。

 僕の計略とは裏腹に、王子は僕への興味を失わず、それどころか手紙の頻度が増えた。三日に一度はくる。

 内容も、体調を気遣うものから会いたい、顔が見たい、声だけでもとだんだんおかしくなっていく。

 返事が間に合わないと更に心配される。


 王子はさ、僕にかまけている場合じゃないと思うんだよ。なんせ王子だから、しなきゃいけない勉強だって山盛りのはずだし、忙しいはずだろう。『元気です』『大丈夫です』『ご心配なさらず』僕の返事もそんなものばかりになってしまう。

 王子は王子のすべきことをして欲しい。


 すれちがいが続いて、結局王子と再会したのはその年の終わり、舞踏会の会場だった。

 彼は少し見ないあいだにずいぶんと成長していた。

 肩ほどまでだった髪が背中まで伸びて、キラキラっぷりが増していた。


 僕がスクールに入学すると、手紙の頻度は減ったけど、王子による『俺のもん』アピールはひどくなったように思う。

 王子は手紙で約束した通り、スクールの中をあちこち案内してくれた。なかでも温室は彼の見立て通り、僕のお気に入りの場所となった。

 いや、楽しんじゃダメだった。

 それでも僕だって、自分の立場を思い出しては、身を引きますよという姿勢を見せてはみたんだよ。効果はなかったけどね。


 十二歳の誕生日は、スクールで迎えた。

 スクールに入学してからは、家族からのお祝いもカードだけになる。

 王子は手ずからカードを届けにやってきて、そして内緒だと言って琥珀のボタンをくれた。微妙に断りづらいところをついてくる。


 婚約が白紙に戻っても、聖女の存在を明かしても、僕のポメ化が悪化しても、どうしても王子を振り切れない。


 結局のところ、聖女を見つける以外に道はないってことだ。

 そうすりゃ王子も心変わりをするハズだし、聖女だって王子ムーブの前ではいつまでも意地を張っていられないハズだ。

 ……するかな?

 王子の態度を見ていると、どことなーく不安になっちゃう。


 いや、きっと大丈夫!

 とりあえず今は、すでに三通届いてしまっている手紙の返事を書かないと。

 机に向かって唸っていた僕は、ひとまずペンを手に取った。




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