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11 なにか入ってる

 僕らは次々装置を巡った。ライラとサンサールが競い合うようにして場所を示してくれる。石造りの建物の合間を縫うように進むので、僕はもうどこを歩いているのかもわからなくなってきた。はぐれたら迷子は確実だ。


「これは開けないの?」

 街灯の装置を指さすと、サンサールは両手を頭のうしろにやって、あきれた様子をみせた。


「あのなあ、この制服で妙なことしてたら目立つだろ。騎士の目だってあるし。それに――」

 サンサールはチラッとあたりを見回して僕を手招いた。なんだろうと近寄るとコソコソと彼は教えてくれた。


「本物を開けるのも無理だよ。あれは簡単に開かないから」


 サンサールは「本物」という言い方をした。装置にはかならず黒い箱がついている。ただの充電器と思いこんでいたのだが、どうやらハードウェアの役割も果たしているらしい。


 かつて誰かが装置の中身をのぞき、模造品を作ったってことかな。それが広まって生活を支えていると。

 僕はそんなことすら知らずに過ごしてきたのか。当たり前にそこにあるからと、ただ便利に使ってきたわけだ。むう、観察眼が足りないぞ。


「ちなみにノエムート様がやたらと気にしている馬糞変換装置は本物。やっぱなんかわかるもんなの?」

 僕は微笑んで明言を避けた。

 そうだったんだね。そうなるとますます興味が湧いちゃうね。だけど、なかなか近寄らせて貰えないんだよな。ほかに本物っぽいといえば、すぐに思い浮かぶのは施療院で見かけたあの大型の装置だ。あれはきっと本物。どうしよう。また見に行きたいな。


「坊ちゃま、こちらギフトを込める必要がありそうです」

 おっと気がそれかけていた。

 ライラが示したのは、地面だ。四角いマンホールのようなものがそこにあり、取っ手を引き上げると中に黒い箱が入ってる。なぜそんなところにと思うけれど、どうやら水路につながっているようだ。そして彼女の言う通りゲージはほとんど空になっていた。


「俺やるよ」

 サンサールがさっと屈み、装置に手をかざした。

「……ん?」

「どうしたの?」

「いや、なんか、なんだろう違和感が。吸い取られてる? みたいな。うーん?」


 彼はしきりに首を傾げ、やがて黒い箱に手をかけた。装置は同じに見えるのに、ふたの形状はいくつかのパターンに分かれている。これはかぶせるタイプのようだ。わずかなとっかかりに爪をひっかけるようにして、ふたを持ち上げた。

 本当に手慣れている。


「中になにか入ってる」

 最初に気付いたのはリャニスだ。なんだろう。小石?

 サンサールが拾い上げ、手のひらにのせた。

「それって」

 変換後の馬糞では?


 思わずサンサールと目を見あわ……ないね。サンサールはリャニスを見ているね。仕方ないから僕もリャニスをみる。


「イタズラでしょうか? サンサール、いつもは入っていないんだな?」

「うん。見たことない。ギフトを込めるだけなら、ふたを開ける必要もないし間違えて入っちゃったとも考えにくいよな」


 二人で相談を始めちゃったので、取り残されまいと僕は、サンサールに手のひらをさしだした。

「見せて」

 そのとたん、彼はぎゅっと拳を握りしめて石を隠した。


「見るのはいいけど、触らないでよ」

「どうして? 原材料はともかく、暮らしの必需品だろ。我が家の暖炉でもお世話になってるわけだし」

「知ってて言うからたちが悪いんだよ。俺が持ってるから、そのまま見て。ノエムート様の手にこんなもん乗せられないよ。ぜったいあちこちから叱られる」


 どうやら「あちこち」のうちのひとりはリャニスらしい。よくやったみたいな顔で頷いている。しかたない。おとなしくしておくか。


 サンサールが手にしているのは薄いピンク色の石だ。透明感も強度もないが、燃やせば燃料に、砕けば肥料になるすぐれものだ。さらに言えば、量を集めれば買い取ってもらえる。なぜそんなものを隠すんだろう。


「家に酒乱の保護者でもいるのかな?」

「なんだって?」

 急に話が飛んだからか、サンサールが変な顔をした。


「いや、貯めるために隠したんだとしても、隠し場所としてはイマイチだよなあと思って」

「兄上の発想には、本当にいつも驚かされます」

「え?」

「貯めるため、ですか。俺には思いつきませんでした」

 別に僕をからかっているわけでもなさそうだ。リャニスは妙なところで感心している。


「いや、あの……」

「酒乱とおっしゃいましたか? それはどのように考えたのですか?」


 つまり僕は『マッチ売りの少女』の父親みたいなのを想像しちゃったわけだけど、こっちの世界で読んだ書物じゃないから説明しづらい。そんなキラキラした目で見られても困っちゃうよ。


「えーと。深い意味はないんだよ。それよりこれ、どうしようか」

 目の前の問題を指し示すと、リャニスはすぐに切り替えた。

「そうですね。事情はともあれ、問題は装置に異物が入っていたということでしょう。ひとまず、殿下の騎士に預けて判断をゆだねましょうか」


 丸投げか。よし、そうしよう。

「うん。それがいいね」

「それと兄上、一度モーラスの泉まで戻ってもいいでしょうか。確認したいことがあるのです」

「うん。構わないよ。じゃあ、今日はそこが最後でいいかな。すこし疲れてきた」


 ふっと息を吐くと、それだけでリャニスは顔を曇らせた。

「いや! 本当にすこしだから! 本格的に疲れて持ち運ばれる前の自己申告だから」

 リャニスは、本当かなという顔で僕をじっと見つめたけれど、信じてくれたらしい。


「わかりました。早めに教えてくださってありがとうございます」

「約束したからね」

 笑みを交わして、僕はリャニスの手にぽすっと手をのせた。

 習性! だから手を差し出されると乗せちゃうんだって。さらっとエスコートするんだよな、うちの弟。


 無駄な抵抗はやめにして、僕はおとなしくついていった。今日の夕食はなにかななんて考えながら、僕はもう終わったつもりでいたのだ。ところが、しばらく進むとリャニスが急に足を止め、さっと僕に手のひらを向けた。なんだろう、隠れろってことかな。


「第三スクールの生徒がいます」

 彼が声を落とすので、僕もつられて息をひそめた。

 リャニスが示す先には、モーラスの泉がある。僕のいる位置からは微妙に見えづらいが、裏側に人影が見えた。赤いローブは確かに第三スクールの制服だ。


「えっと、なんで隠れるの?」

 尋ねようとしたら、手ぶりで止められる。

 リャニスがギフトを使った。向こうにバレない程度に風を操る。すると、声が聞こえてきた。


「おお、もう満杯になってる」

「やっぱここは効率がいいな。いつも誰かが込めてくれるもんな」


 それを聞いたリャニスの顔つきが厳しくなった。

「兄上はここにいてください。ライラ、兄上を頼む。サンサール、行けるか」

「うん」


 なになに、どうしたの!?

 あっけにとられるうちに、二人はパッと飛び出した。つられかけたけど、ライラに止められる。


「そこでなにをしている!」

 リャニスは声を張り上げる。第三スクールの少年たちは、慌てふためき逃げ出そうとした。

「おっと、逃がさねえよ!」


 サンサールが足をかけ一人を止め、リャニスが風を操って二人を転ばせる。騎士が出てきて三人を拘束すると、リャニスはようやくこちらを見た。

「兄上、終わりました」

 うん。鮮やかだね。けど、いったいどういうこと。僕は疑問でいっぱいだった。


「あったよ、リャニス」

 サンサールが装置から取り出したのは、ピンク色の小石だ。

 そこではじめて思い至る。

 もしかして、装置にイタズラしてたのが彼らだったってこと?


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