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騙す女騙される女  作者: 二階堂真世
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騙す女騙される女

出会いは突然、恋に墜ちるのは必然。若くて可愛い女の子から、就職活動の相談に乗って欲しいとアポイントメントを入れられたらちょっとハイテンション。

最初は就職のアドバイスをするために近くのカフェで待ち合わせをした。同じ大学の後輩らしいが、学部が違うし、20歳以上も年齢が違うので、共通の知っている先生もいない。卒業生の就職状況を検索したら、津田浩の名前が出て来たのだと言っていた。なので、会社の説明会を受けて、興味を持った増田桃子が先輩の津田に連絡して来たらしい。男子の後輩からはよく就職活動のアドバイスを求められてはいたが、女子から電話は珍しい。

大学時代野球部だったので、スポーツ推薦もあって、上場企業に入社できたが、正面からでは、きっと受かってはいないだろう。今は現役は退いて、監督を任されている。なので、野球部の後輩から、よく就職活動のアドバイスを求められているのだ。

最近は女子の雇用が多くなっていて、ネットで検索できるので、津田に女子大生から連絡があったりするのかも知れない。とはいえ、時間をわざわざ取って、見た目も性格も悪い女子なら、適当にお茶を濁して帰ろうとも思っていた。

子供も受験前で、家の中もビリビリしている。子供中心の生活で、浩の居場所もない。息子は反抗期なのか?口も聞かない。何を考えているのか、全然わからないので出来るだけ接点を持ちたくないので飲み歩くようになる。奥さんもコワイ。子供が出来たら、妻から母になるようで、色気も何もない。結婚3年目に「子供はいらない」と言われた。そこから、夫婦関係は無くなった。どちらも、子供を作らないなら、夜の営みは疲れるだけだと思っている。「家庭には、仕事とセックスは持ち込まない」と先輩から教えられた。夫婦というものは、そういうものだと思い込んでしまった。なので、まだまだ男盛りの浩はキャパクラ通いや商売女で欲求を満たすようになっていた。

2,3度浮気もしたが、だいたいが修羅場。妻に土下座して許してもらうとか、家族を贅沢な海外旅行に連れて行ったり、妻に高額なジュエリーをプレゼントさせられたりと、ろくな事はない。心は空虚だが、お金で、その場凌ぎの女性を買った方が後腐れなく、家庭も波風立たないと学習していた。それでも、【据え膳食わぬは男の恥】などと勇み足で、女の色香に惑わされると、地獄を見て来た。

増田桃子はテニスが趣味で就職活動中だと言う。長い黒髪に白い肌、大きな瞳でまっすぐ自分をリスペクトして話を聞いてくれる。

いつもよりお洒落なバーにも誘い、『あわよくば』と下心でホテルに誘うと案外簡単についてきた。「こんなところ初めて。大学生になっても彼氏一人いなくって、この年まで処女なんて恥ずかしくて津田先輩ならって、思っていたから何だか夢みたい」とはにかむ桃子が愛おしくて、つい関係を持ってしまった。初めてなので痛がって、欲求不満のまま朝を迎えたが、それがまた新鮮で夢のようだった。

男盛りの浩には毎回、キャパ嬢や商売女にかまける程のお小遣いがあるわけでもない。玄人相手は、なかなかタイプの女の子にあたることがない上、その行為のためだけなので後で空しくなる。男の性だから仕方ないが、まさかこんなに若くて可愛い女の子が恋人になるなんて考えてもなかった。

週末の温泉旅行も奮発した。結婚する前は、まだ収入も少なかったので、行けなかった贅沢な温泉だ。家族で行くタイプではなく、広い林の中にあるコテージのような部屋には、それぞれ温泉があり、食事も部屋食で他の宿泊者と顔を合せることがなく秘密のデートには最適だった。奥さんと子供たちは夏休みで実家に行っていて、たぶん1か月は帰って来ない。夏のボーナスも入ったところなので、以前から雑誌で見ていた、この宿を早くから予約していたのだ。しかし、待ち合わせをした増田桃子は、いつもと様子が違って笑顔も寂し気だった。「津田先輩、お話があるの。実は津田先輩とのこと父にバレて、勘当されそうなの」と。「それに、どうも赤ちゃんができたみたい。どうしていいのかわからなくて」と目に涙を溜めている。『まさか?。関係したのは1度だけだし、それもちゃんと出来たわけじゃない。あんなことで子供が出来たりするのだろうか?』と頭の中が、真っ白になる。「3ヶ月だって、お医者さんに言われて、墜ろすなら早い方がいいと言われたのだけど怖くて。それに、津田先輩の子供だったら産んでもいいかな?って思って。でも、奥さんやお子さんのこと考えると、やっぱり無理ですよね」大事そうにお腹に手をやりながら、悲しそうに眼を伏せる。 「桃子」振り向くと、そこには強面の50歳くらいの男が立っていて突然首元を鷲掴みにされて殴りかかってきた。「お前か。桃子を、こんな目に合せたのは」と怒鳴られて驚愕して言葉も出なかった。「やめて、お父さん。こんな所で、皆が見てる。」叩かれた頬が痛かった。口の中も噛んだみたいで血の匂いがした。周囲の目を憚って、近くにあるカラオケボックスに移動することになった。「津田先輩大丈夫?」と桃子は心配して頬を、その小さな手の平でさすってくれた。カラオケボックスに入ると、父親の怒声が響く。「うちの娘と結婚してくれるつもりはあるんだろうな」と。津田は「すいません」と謝ることしかできなかった。散々怒られ、津田が所帯を持っていることなど、飽きれるばかりの状況に父親は怒りを越えて無口になった。「お父さん、ごめんなさい。私も津田さんと結婚なんて考えていない。これから就職だってしたいし、この子には悪いけど、シングルマザーで育てていける自信もないから。堕ろすしかないのよ。今日は津田先輩にサインだけ書いてもらおうと思って書類持って来たの」桃子は、書類を津田に見せ、サインをするようにとボールペンを差し出した。「これだけのことを娘にしておいて、慰謝料は払ってくれるんだろうな」と父親はすごんだ。「当然、出来るだけのことはさせて頂きます」と言って津田はサインをした。

次に、近くのコンビニに行って50万円引き出して来て桃子に渡した。「病院にはついて行ってあげられないけれど、とりあえず病院代」と言って押し付けて来た。「助かります」と言って受け取った封筒を父親がサッと取り上げて中身を確認する。「これだけで済ませるつもりか?」と言って叩きつける。「限度額があるので、今日のところはまずこれで。病院に行ったら、また改めて話をしよう」と津田が言うので、父親も腹立だしそうに津田を睨んで、先に駅の方に歩き始めた。桃子も、津田からお金入ったの封筒を受け取ってすまなそうに会釈して父親の後を追った。

1週間後、桃子からメールが届いた。津田は別れてから何度も電話をしたのに繋がらないので心配していた。これか始まる甘美な恋愛を夢見ていた津田には、温泉旅館も当日キャンセルして天国から地獄。たった一夜の浮気がもたらした不運に後悔するばかりだった。『家族や会社に知られたらどうしよう?それより、慰謝料はどのくらいいるのだろうか?本人だけならいいが、あの父親が納得いく金額は?』

弁護士の友人にも、さりげなく聞いてみた。相場は幅広くてわからないが、以前50万円払ったのだから、あれでは納得してもらえそうにないので、あと100万円用意しておく。大学の後輩だし、もしかしたら同じ会社に入社するかも知れない。初めての経験で子供が出来たら、あの若さで負った心のキズはいかほどか測り知れない。

メールには、【入院しているので、電話に出れない】とあった。次の日、桃子の携帯から電話がかかってきた。急いで出ると、相手は父親だった。「子供をおろしてから、具合が悪くずっと入院している。もしかしたら、子供の産めない体になるかも知れない。」と押し殺したような声で言った。「どこの病院ですか?お見舞いに行きたいので教えて下さい」と言うと「もう、娘に会わないで欲しい。心も体もキズついて見ていられない。あと1か月くらいは入院が必要らしいので、その分の慰謝料くらいは払ってくれるんだろうな。まだ学生なんだから手持ちが無くて困っているんだ。入院費は後で保険を請求すれば返って来るのだけど。とりあえず100万円ほど入れてくれ。ウチには、そんな余裕がないから、桃子の口座に入金してくれ。」と言ってきた。「わかりました。メールで口座番号教えて下さい。」と言うと、すぐに口座番号が送られてきた。「100万円取り急ぎ送ったよ。体大丈夫?お大事に。本当にごめん。辛い思いさせちゃって悪いと思っている」とメールした。

「ありがとう」とだけ返事が来た。数日後メールをしようと思ったができなかった。携帯電話も現在使われていないということだった。

冷静に考えてみると、本当に子供は出来ていたのかも疑わしい。もしかしたらハメられたのでは?劇場型詐欺だったのでは?と考えるが、内容が内容だけに誰にも相談できない。もし本当だったら、大事になる。下手につつけばどんな蛇が出てくるかも知れない。変に浮気心を出した自分が悪かったのだ。150万円の出費は痛いが、買い換えようと思っていた車を数年我慢するしかないと諦める。


「150万円か。たった3日で。日給50万円とは割りがいいな」と男が言った。「たった1日で、しかも数時間で50万円のアルバイトもボロイでしょう?こっちは嫌な相手と一晩共にしてるんだから。もうちょっと好みの男性だったら楽しめたんだけどね」と微笑した。桃子というのも、もちろん偽名だ。大学の後輩などでもない。以前、カフェで見かけた就職活動の一環で、先輩に色々質問していたら、横の席で話していた男が津田だ。若い大学生の後輩らしい女の子をホテルに誘っていた。会社で忠犬になっているようで、人事にも影響力があると自慢していた。だから、自分と付き合った方が得だと言わんばかりで嫌な感じだ。女の子も、若いがそれほどかわいくない。この程度の女の子にもスケベ心でセクハラしてくるのだから、とんでもない男だ。結婚指輪もはめているのに。2人がカフェから立ち去った後に、津田の名刺は置き去りにされていた。多分女の子は2度と連絡など取る気がないからだろう。

「同じ大学の増田桃子と申しますが、津田先輩に就活のご指導頂きたくてお電話させて頂きました。先日友人がカフェでお話したと聞いて、失礼かと思ったのですが連絡先を聞いて直接お電話させて頂きました。お時間頂けますか?」と津田に電話すると、すぐに乗ってきたのだった。


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