表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/671

57 傾いだ柱

 戦闘開始を告げる合図と同時に、大舎卿(だいしゃきょう)と浩一郎が激しくぶつかり合う。

 それを横目に、彰人(あきひと)が後方へ走り出した。


「彰人くん?」


 彼は、学生時代毎年陸上の選手に選ばれるような人だ。

 辺りに立ち上ったむせるような強い気配に息を呑んで、京子は暗闇の奥へ消えそうになる彼を必死に追い掛けた。

 背中から「気を付けて下さい」という綾斗の声が聞こえ、すぐ後にドンと衝撃音が鳴る。


『死ぬなよ、お前ら』


 イヤホンから緊迫したマサの声が届いた。

 彰人の背中が闇に飲まれそうになったところで、突然殺気が湧き上がる。

 警戒すると、彼のいる位置から空へ向けて細い光が跳び上がった。


「何する気?」


 光は勢いのまま闇を真っ二つに裂くように、白い軌跡を空中に貼りつけていく。アルガスを囲う高い壁を超える位置にまで上り、暗い闇に溶けた。


 吸い込まれるような沈黙を何かが起きる前触れのように感じる。

 ただそれも一瞬で、恐怖に似た衝動に悲鳴を上げたのは数秒後の事だ。


 ズズ、と重量のある堅いものが擦れる音が響いて、敷地の端に(そび)え立っていた鉄塔がぐらりと宙に(かし)ぐ。

 ラッパ型のレーダーを備えた長く太い鉄塔だ。それが塀のすぐ上から二つに分かれ、上半分が落ちようとしている。


 京子はぞっとして足を止めた。重い鉄塔の先端が、アルガスの外へと落ちていく。


「駄目っ!」


 京子は趙馬刀(ちょうばとう)を腰に差し、銀環を()でた右手を高く掲げた。

 落下速度が少しだけ緩むが、人の重さとの比ではない。

 鉄柱が轟音を立てて地面を打ち付ける様は、スローモーションのようであっという間の出来事だ。

 姿勢を崩す程に地面が軋んで、京子は体勢を整える。


 ──『俺の家に何かあったら許さねぇからな』


 少しでも被害が小さいことと、逃げ遅れた人がいないことを祈る。

 そんな京子に向けて、今度は闇から光が飛んできた。身体のサイズよりも遥かに大きな球に狙われて、京子は咄嗟に防御する。


「彰人くん……?」


 鉄塔の崩壊など、彼にとってはウォームアップのようなものなのかもしれない。

 予想以上の力に跳ね飛ばされ、身体が数メートル先に叩き付けられる。全身で受けた衝撃に声にならない悲鳴を上げると、すぐ側に彼の気配が迫った。


「無駄だよ」


 薄れた視界に目を見開くと、彰人が刃を振り下ろす。京子は驚愕して体を(ひね)った。


 かろうじて第一打を逃れ、そのまますぐに立ち上がる。

 痛みを堪えて生成した趙馬刀の刃で、二打目をガンと受け止めた。


 怖がっている暇さえない。立ち止まったら死ぬだけだ。


「口から血が出てる。可愛いのに台無しだよ」


 言われて初めて口の中を切っている事に気付いた。

 鉄臭いどろりとした感触を片腕で拭い、京子は押し出すように彼の刃を弾く。


 砂埃(すなぼこり)硝煙(しょうえん)が混じったような匂いが鼻を突き、京子は倒れた鉄塔を一瞥(いちべつ)した。


 (えぐ)られた壁の向こうは丸見えだ。鉄塔は外側に隣接する工場の屋根をつぶすように倒れ、白い煙を立ち昇らせている。

 頭に浮かんだ工場主の顔に「ごめんなさい」と小さく詫び、京子はジージーと(うるさ)いイヤホンに眉をひそめた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 鉄塔が倒れてくるシーン、凄い迫力ですね。 音が聞こえてきそうです。 彰人が余裕綽々なのが不気味です。次はどうなるんだろう。 大舎卿と浩一郎とハナの間に何があったのかも気になります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ