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スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択  作者: 栗栖蛍
Episode4 京子【06関東編・陰謀】
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350 戦地へ

「松本君、お疲れ様。会いに来てくれて嬉しかったよ」


 横たわる松本の手を(ほど)いて、宇波(うなみ)が細く開いた彼の瞼を(てのひら)で閉じた。

 スゥと松本の気配が消えていくのが分かって、美弦(みつる)は自分の胸をぎゅっと抑える。


「ヒデちゃん、(まこっ)ちゃんと仲良かったもんな」


 浩一郎が松本に笑みを落とした。

 改めて見る松本の身体は、全身が傷だらけの血塗れだ。ついさっきまで戦っていたのが嘘のように、穏やかな顔をしている。

 大舎卿(だいしゃきょう)が施設員から受け取った毛布を彼の首元までそっと被せると、宇波がそこに居るキーダーを見渡して小さく笑って見せる。

 


「ホルスの人間で居る事に(こだわ)った松本くんの想いを、私は見届けないとね」

「向こうへ行くつもりですか?」

「えぇ。護衛を頼みますよ」


 平野(ひらの)は目を丸くしつつも長官の意向には逆らえず、「分かりました」と苦い顔で(うなず)いた。宇波が戦地へ(おもむ)くとなれば、それなりの人数が居るだろう。

 美弦は同行させて欲しいと思うが、回復が万全だとは言い難い。向こうは敵の数こそ減っているだろうが、忍が何をしでかすか予想が立てられない状況だ。


「私がここに残ります」

「いや、わしが残る」


 遠慮しなければならない気持ちを、大舎卿が(さえぎ)った。


「行きたいじゃろ? さっきヒデに言われた事、綾斗(あやと)に伝えてやれ」

「いいんですか?」

「行ける体力が残っておるのならな」

「行けます!」


 キーダーとして現地へ行かぬまま終わらせたくなかった。

 「無理するなよ」と気遣う平野に「はい」と返事して、美弦は「ありがとうございます」と全員へ向けて頭を下げた。


「けど、(かん)ちゃんもいけば? 俺が残るよ?」

「お前はせがれにきちんと説明して来い」

「そっちの理由かよ」


 浩一郎は面倒そうな顔をしつつ、「分かったよ」と後ろに居た施設員に車の手配を任せた。ヘリは目立ちすぎるだろうという理由で、陸路を選ぶ。


 大舎卿が「おい」と田中を呼んだ。


「お前は先に美弦を向こうに連れて行ってやってくれんか?」

「分かりました」

「宜しくお願いします!」


 美弦は最後にもう一度松本を振り返る。

 安らかな顔に手を合わせ駐輪場へ走る田中を追い掛けると、ふと長官室の前で聞いた話を思い出した。


 ──『今回の事が落ち着いたら、九州へ行かないか?』


 宇波から異動命令を受けた綾斗は、この戦いが終わったら遠い地へ行ってしまうのだろうか。

 急に不安が込み上げて、美弦は小さく唇を噛んだ。





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