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スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択  作者: 栗栖蛍
Episode4 京子【06関東編・陰謀】
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337 敵を知る味方

「松本さん……」


 泣きボクロのある目がそっと美弦(みつる)を捕らえた。


 相手から(にじ)み出る能力の気配が、一方的に答えを突き付けて来る。

 綾斗(あやと)が訓練で漂わせていた気配も相当だったが、それが敵のものだと理解した途端、全身が委縮(いしゅく)してしまう。

 平野(ひらの)を呼んでいる余裕はない。


 ──『わしが戻るまで持たせてくれるな?』


 そんな大舎卿(だいしゃきょう)の言葉を、美弦は頭に繰り返した。

 もし敵の攻撃が本部に及べば迎え撃つ気は満々だった筈なのに、武器を構える事もできずにただ足を震わせている。


「ちょっとアンタ、こんなとこで何突っ立ってんだよ」


 逆の方向から掛けられた声は、駐輪場から来たバイクの男だ。

 あまり話したことはないが、アルガスで何度か顔を合わせた事のある施設員だった。やせ形で背が高いのが印象的で、名前も記憶している。


「田中さん……ですよね?」


 男は美弦の顔を見るなり()()の悪い顔をして「すみません」と頭を下げた。美弦がキーダーだからだ。

 彼は松本や倒れた護兵(ごへい)には気付いていないらしい。

 警戒心のないその振る舞いに美弦は幾分か正気を取り戻し、歩み寄る影を待ち構える。


「誰だ?」


 美弦の視線を追って、田中が先に問いかけた。けれど、その顔がみるみると恐怖に満ちていく。

 腹部を黒く染めた血塗れの相手に、田中は声を震わせた。


「松本秀信(ひでしな)……」

「知ってるの?」


 田中はキーダーじゃない。解放以前からアルガスに居る年齢でもない。

 一介の施設員がその顔を認識している事情を、美弦は知らなかった。

 そんな二人のやり取りに、松本が田中を見て「あぁ」と(うなず)く。


「また会ったな。そっちの彼女はキーダーか?」

「そうよ」


 美弦は前に出て、横目で田中を(いぶか)しげに睨んだ。アルガスの人間とホルスの人間は紙一重だ。仲間だと思っていた人間がそうとは限らない。


「貴方まさかホルスの人間だとか言うんじゃないでしょうね?」

「言いませんよ。俺は、この人に殺されかけた事があるんですよ」

「人聞きの悪い言い方だな。別に怪我させたわけじゃないだろう?」


 松本は足取りはしっかりしているが、どこか(うつ)ろな目で二人を交互に見つめる。

 田中に関して詳細は分からないが、今は彼が大舎卿(だいしゃきょう)を連れて来た事実を前向きに捉えるしかない。

 美弦は手の汗を握り締める。「修司(しゅうじ)」と呟いた声は、胸の奥に染みていった。


「貴方はホルスの松本秀信さんで間違いありませんね?」

「あぁ、そうだ」

「なら私はこれ以上あなたを進ませる事は出来ないわ」


 キーダーとしての仕事をする──美弦は松本に向かって大きく両手を開いた。







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