表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択  作者: 栗栖蛍
Episode4 京子【06関東編・陰謀】
628/671

331 病室の2人は

「もしもし、分かりますか? 自分の名前をフルネームで教えて下さい」

保科修司(ほしなしゅうじ)。ったく、どんだけやらせんだよ」

「何度だってやりますよ。大事な事なんです!」


 病室に入ってから何度目のやり取りだろうか。

 監視役にと一緒に連れて来られた龍之介(りゅうのすけ)が、颯太(そうた)の置いていった紙のマニュアルに従って何度も名前を聞いて来る。

 脳震盪(のうしんとう)を起こした修司へ向けての意識確認という名目だが、必要以上に多い気がしてならない。


「本当にこんなにやれって書いてあるのか?」

「回数の指示はないですよ。けど、もしもの時の為です」


 いつになく頑固な龍之介は、ベッド横の椅子に腰掛けてじっと修司を見つめている。

 ただでさえベッドに寝かされて窮屈(きゅうくつ)だというのに、こうも距離が近くては心が全く休まらない。


「俺は大丈夫だって。先生も一晩様子見て退院だって言っただろ? 伯父(おじ)さんも戻ったし、お前も帰って良いんだぞ?」

「そうはいきませんよ。修司さんが抜け出さないように見張ってるのが、今の俺の仕事なんですから。修司さんは安静にしてて下さい」


 「心配してるんですよ」と口を酸っぱくする龍之介が、(ひざ)の上でぎゅっと両手を握り締めた。

 彼の相棒の『さすまたくん』は、今颯太(そうた)が戦場で武器として使っている。


 今思い返しても、颯太が期限付きとは言えキーダーに戻ったのは、修司にとって衝撃的だった。(しのぶ)と互角に戦っているのを見て、キーダーを嫌がっていたのが法螺(ほら)だったのではと思ってしまう。

 さっきも修司の検査に付き合って、結果を聞くなり颯爽(さっそう)と現場へ戻ってしまったのだ。


「俺はもう自分勝手に出て行ったりしねぇよ」


 修司は自分への戒めの言葉を吐いた。

 松本が現れて有耶無耶(うやむや)になってしまった(りつ)との戦いは心残りだが、流石に二度目の脱出は気が引ける。これ以上心配させてしまうと、颯太が更に無理をしかねないだろう。


「龍之介、付き合って貰ってサンキュウな? 本当は朱羽(あげは)さんのトコに居たいんじゃねぇのか?」

「そうしたいのは山々ですけど、あそこに行っても結局何もできないんですよ。むしろこうやって役割を貰えただけで有難いです」

「そういうもんか」


 とはいえ龍之介は『朱羽の事務所の雑用』という肩書に見合わない仕事をしているのは事実だ。

 本当ならこんな所まで入れる立場ではないが、前回の戦いの時もちゃっかり朱羽に随行(ずいこう)していた。


「お前本当に朱羽さんと仲良いよな」

「まぁ──」


 そんな二人の関係を修司は少しだけ羨ましいと思った。去年の夏に初めて会った頃は、二人がここまで距離を詰めるとは思っても見なかった。


 修司はベッドサイドのスマホに手を伸ばして、美弦(みつる)にメールする。頭を打って病院に入っていると耳にすれば、彼女はきっと心配する筈だ。


 『無事だよ』と一言だけ送信する。

 向こうの様子が分からない状況では、その短文が精一杯だ。

 少しして『良かった』と返事が返って来る。ホッとした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ