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スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択  作者: 栗栖蛍
Episode4 京子【06関東編・陰謀】
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326 走馬灯が映す彼女は

 (しのぶ)が開けた穴の縁を(つか)んで、桃也(とうや)は必死にしがみつく。

 ぶら下がった状態から屋上の様子は分からず、()まれた右手の感覚はもう(ほとん)ど麻痺していた。


 ──『今日は君の誕生日だろ?』


 まさかそこに合わせて来るとは夢にも思わなかった。

 『サヨナラ』の言葉を残した忍は、地面に盛大なダメージを刻んで去って行く。屋上の床が再び崩れるのは時間の問題だ。

 忍はこの状況を楽しんでいるのだろうか。だとしたら、どこかでこの無様(ぶざま)な姿を笑って見ているのかもしれない。


「アイツ……ふざけるなよ」


 高所からパラシュートなしで降下する訓練は幾度となくしてきたが、着地点の様子が闇に隠れて見えない。予測のつかない状況は、難易度が跳ね上がる。


「ここで死ぬわけにはいかねぇんだよ」


 闇の底からは、風の抜ける音が不気味に響いた。

 破壊のエネルギーに仲間が危機を読み取るのが先か、床が落ちるのが先か、体力が尽きるのが先か──


「一か八か跳んでみるか?」


 何もしないまま終わってしまうよりも、自分の運と生命力に()けたい。

 成功を祈ってぎゅっと目を閉じると、何故か懐かしい風景が頭を過って行く。


「俺に走馬灯(そうまとう)を見せる気かよ」


 まだキーダーになる前の、京子と過ごした平和な記憶だ。


「桃也」


 思い出は残酷だ。

 すべて終わらせたはずなのに、頭に響く彼女の声が昔の自分を誘ってくる。


「京子……」

「桃也!」


 桃也はハッと目を見開いた。

 辺り一面にさっきまでなかった気配が満ちている事に気付いて、同時に彼女の姿が視覚の全てを支配する。


「桃也、助けに来たよ!」

「京子!」


 温い肌の感触が桃也の右手を掴む。


「足元を能力で固めたから、今引き上げるよ!」

「その方法があったか……」

「そんなに長くはもたないから、しっかり掴まって!」


 念動力の応用だ。

 急な情況を飲み込んで、桃也は京子の手を握り締めた。声に合わせて左手を添えると、身体がずるりと屋上へ滑り込む。


「助かった、ありがとうな」

「ううん、桃也がこんな事になってて心臓止まるかと思ったよ」


 桃也が穴に引っ掛かる足を引き寄せて、体制を整えた時だ。視界の端で、何かがキラリと光ったような気がした。

 京子が桃也の手を握り締めたまま「あぁっ」と悲痛な声を上げる。


「何だ? どうしたんだよ」


 突然の叫び声に耳がキンと響く。また忍が現れたのかと警戒したが、京子はふるふると首を震わせて思いがけない言葉を口にしたのだ。


「指輪が……」


 呆然(ぼうぜん)とする京子に、桃也は「はぁ?」と眉を寄せた。





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