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スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択  作者: 栗栖蛍
Episode4 京子【06関東編・陰謀】
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318 彼女の声が聞こえた気がした

 吸い込んだという表現が正しいかどうかは分からない。

 隔離壁(かくりへき)を盾に見立て、綾斗(あやと)は松本の放った光を防ぐ。 


 どちらもバーサーカーとして90パーセント以上の出力だ。暴走が起きる一歩手前、絶妙なバランスで均衡(きんこう)を保った力は、どちらかが気を緩めれば一瞬で大爆発を起こすだろう。


「別にこんな廃墟が無くなっても問題ないだろう?」

「廃墟だけで済む保証なんてどこにあるんですか!」


 二つの力がわんわんと音を立てて、波のようにしなっている。松本の威力が徐々に増し、綾斗もそれに合わせて出力を上げた。

 このまま耐久レースを続けても、共倒れするだけだ。

 残りの力を出し切るチャンスは一回しかない。そこに全てを掛けることが出来れば勝利が見える。


 素早く頭でシミュレーションするが、先に攻撃を仕掛けたのは松本だった。

 彼の手を離れた光が、ドンと隔離壁にめり込んだ。

 松本が地面を蹴り、衝撃を(こら)える綾斗の懐に飛び込む。振り上げた脚が、今度は綾斗を光ごと宙へ放り投げた。

 受け身を取るのに一瞬遅れて、綾斗は空中で「くそ」と無我夢中で軌道を変える。


「綾斗!」


 どこからか京子の声が聞こえた気がしたが、確認する暇はなかった。

 着地の衝撃に隔離壁がパンと霧散(むさん)し、光が(かせ)を失って後方にある廃墟へと突っ込んでいく。耳を刺す轟音が地面を揺らし、建物の右半分が粉々になって地面へと沈んだ。

 松本の出力を半分以上吸収したつもりだが、それでもダメージは大きい。


 辺りに立ち上った砂煙(すなけむり)の向こうに海の闇が露出して、綾斗は息を飲む。口の中に血の味が広がって、蹴られた腹がズキリと痛んだ。

 けれど、まだ戦えるだけの意識は残っている。


 能力に頼り切っている訳ではないが、足技に足技で返す義理もない。

 綾斗は腰にある京子の趙馬刀(ちょうばとう)に刃を付けた。趙馬刀の刃は、使う能力者の力に比例する。

 いつもの倍以上の長さに伸びる光を構えて、砂靄(すなもや)の奥に隠れる松本に挑んだ。

 切っ先が相手の胸部を捕らえるが、松本もまた防御を取ったのは確かだ。


 これ以下もこれ以上もない。

 全てを込めた一発に視界が消え、暫くの間闇を(うつ)す。

 ようやく晴れた視界に、松本の姿は残っていなかった。








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