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スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択  作者: 栗栖蛍
Episode4 京子【06関東編・陰謀】
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310 帰りたいの──?

 直前の戦いでできた壁の穴を(くぐ)って、(しのぶ)は松本と廃墟の中に入った。

 建物の表側へ出ようか考えて、すぐ側にあるバックヤードの非常階段を上って行く。特段主張している訳でもないが、足を踏み込む音がガンと大きくなった。


「さっきのオジサンは、ヒデと一緒にキーダーだった人?」

「そうだ。キーダーなんか辞めたいって言って出てった奴だよ。俺がトールにした筈なんだがな」

「どんな心境の変化だよ。どっから()()()()のか知らないけど、薬を使うならウチの味方してくれてもいいのにね」


 キーダーの少年と戦ってそろそろとどめをと思った時、突然割り込まれた。会話の様子だと少年の身内らしいが、それよりも松本がその男を(かば)った事が気に食わない。

 キーダーは後輩を守るもの──そんな事を言って、戦闘を中断させられたのだ。


「ヒデはもうキーダーじゃないんだよ?」

「だよな。何であんな事言ったんだろうな」


 反論でもしてくれれば言い返せるのに、松本は(うれ)いを帯びた目を宙に漂わせ、ぼんやりと首を傾げてしまう。

 『帰りたいの──?』音のないその言葉を、今まで何度彼の背中に投げ掛けたか分からない。


「昔に戻ったつもり? 俺を置いていくなよ」

「懐かしい顔見て思い出しただけだよ。俺はキーダーに戻る気はないんだ」

「なら最後くらい俺のこと考えて死ねば?」

「勝手に殺すなよ」


 ふっと小さく笑う声が暗闇に響く。

 鈴木の家を出てから松本とずっと一緒だった。なのに彼はいつもどこか上の空で、心がアルガスへ行っている気がする。


「さぁ、そろそろ後半戦の始まりだよ」


 曇りガラスの向こうに暗い夜が見える。

 忍は重い鉄扉を押し開いて、屋上へと踏み込んだ。圧倒的だったホルスの戦力がキーダーの数に迫る程に減ってしまった。

 今ホルスとして戦っているのは、戦闘経験も何もない若者ばかりだ。


「少しはマシになるかな」


 忍はトントンと地面を蹴り「いいね」と呟いた。「何が?」という松本の問いには答えず、今度は海側を振り返り、暗い闇に動く影を見据える。

 (しばら)く前に呼び出したホルスの戦闘員たちがそこに待機している。(ほとん)どはノーマルだが、素人とは違う訓練された精鋭たちだ。


「いいのか? これで全部だぞ?」

「いいんだよ。俺はヒデが居てくれたらそれでいい。彼等に残ってもらう必要はないしね」


 悪い事をたくさんしてきた。

 ホルスの資金源が枯渇(こかつ)していたのは、人を増やすためだ。目的など関係ない、金さえあれば動く人間は幾らでもいる。


「大金はたいたんだから、頑張って貰うよ」


 ヒーローになれる薬で集められるのは、若い子たちだけだ。大人に同じことを言ったら警戒されてしまう。


「さぁ始めようか」


 忍が空へ向けて再び光を放つ。

 音のないその合図に続くのは、ドンと目の覚めるような太い銃声だった。








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