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スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択  作者: 栗栖蛍
Episode4 京子【01選択】
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8 見られてた

「私、キーダーですよ?」


 どうにも引かないナンパ男を牽制(けんせい)して京子は銀環(ぎんかん)を見せつけるが、相手には全く効果がなかった。


「知ってるよ。だから声掛けたんだもん」


 前に綾斗(あやと)が『ノーマルから見たキーダーの女は怖いだろう』と話していたが、『銀環(ぎんかん)を付けるだけでモテる』とも言っていた事を思い出す。キーダーへの解釈は人それぞれらしい。


「だから声掛けた、って。怖くないんですか?」

「全然。強いし可愛いなんて最高じゃん? それが本物かどうかはギャンブルみたいなものだったけど、タイプの子が失恋して落ち込んでたらチャンスって思わなきゃ。優しくしてあげたら俺のものになるかもしれないでしょ?」

「なりません!」


 威嚇(いかく)するように睨みつけると、男は「もぉ」と甘い声で拗ねた。


「怖い顔しないでよ、冗談だからさ。で、君の彼が遠くに居るってのは分かったけど、そんな辛い顔させる相手ならやめた方がいいんじゃない?」

「…………」

「初めて会った俺じゃ説得力ないんだろうけどさ。遠くの親戚より近くの他人って言うじゃん? 恋人だって同じだよ。したいときにできないなんて寂しいでしょ」

「そ、そんなこと、言わないで下さい」

「またまたぁ。俺の言葉、グッと来たんじゃない?」

「来てません!」


 言い返してみたものの、彼は楽しそうに会話を弾ませるばかりだ。

 あまり身長差のない彼の視線は、避けようと思っても正面からグイグイと入り込んでくる。


「なら俺と楽しいことする?」

「しません。放っておいて下さい」

「じゃあ、また会えたらもう少し深い話をしようよ」


 こんな場所で偶然会って、またなんて事があるのだろうか。

 万が一の偶然──彰人と再会した時も、偶然ではなかった。


「私、行きますから」

「ちょっと待って。ここで待ってて貰える?」


 背を向けようとした京子にそう言い置いて、男は側の自動販売機へ走った。

 このまま逃げてしまう事も出来たが、言われた通りに留まると、すぐに彼は戻って来る。


「今日、夕方から冷えるって言うから持ってって」


 缶コーヒーを差し出されて、京子は「えっ」と目を見開いた。


「警戒しなくていいよ。俺、(しのぶ)って言うんだ。君は?」

「……京子」


 忍は京子の手に熱い缶コーヒーを押し付けて、満面の笑顔を寄せて来る。


「またね、京子」


 京子に逃げる隙も与えず、忍はそっと耳元で囁いて去ってしまった。



   ☆

 そんな二人のやり取りを、数十メートル先で目撃していた人物が居た。

 アイドルグループ・ジャスティが今日から東京駅をジャックするという事で、ハイテンションの(ゆずる)に放課後拉致されて、はるばる東京駅まで来た修司(しゅうじ)だ。

 ヲタ活の()()、乱れる能力の気配に気付いて京子を見つけた。


「ちょっ」


 目を疑う光景に思わず声を出すと、柱に貼りつくえりぴょんのポスターにデジカメを向けていた譲が「なになに?」と修司を振り向く。

 あちこちの柱や壁に新曲の衣装を着たジャスティのメンバーたちが溢れていて、もう何枚写真を撮ったのか分からない程だ。他にも似たような男子が多くいるせいで、いつも浮きっぱなしの譲がその場に溶け込んでいる。


「いや。あれ、京子さんだよなと思って」

「あ、ほんとだ。声掛ける?」

「止めろ」


 向こうに行こうとする譲の腕を慌てて掴んだ。

 彼女に会っても、掛ける言葉が見つからない。


 今京子は一人でいるが、数秒前まで見知らぬ男と一緒に居たのだ。

 恋人の桃也(とうや)でもなく、いつも一緒の綾斗でもなく、他のアルガスメンバーでもなく、茶髪にスーツのチャラい男が別れ際彼女の頬にキスしているように見えて、修司は動揺を隠せなかった。





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