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スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択  作者: 栗栖蛍
Episode3 龍之介
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48 ガイアの確信

「京子さん、危ない!」


 綾斗(あやと)が叫ぶ。

 ガイアの構えた竿の先端が何の前触れもなく突然リーチを縮め、京子を狙って真っすぐに伸びた。


 「きゃあ」と間一髪で横へ逃れ、受け身をとった京子の身体が砂の上を転がる。そこからすぐに立ち上がり、趙馬刀(ちょうばとう)でガイアを責めた。

 「やるじゃねぇの」とガイアは鼻で笑うが、隙を突いた攻撃を左腕で受け止めて、裂けたアロハシャツの袖口が血で滲む。血を拭った手が武器の竿を赤く染めた。

 しかし戦力を削ぐダメージには繋がらず、攻防戦は勢いを増していくばかりだ。


「綾斗さん、さっきの攻撃分かったんですか?」

「気配が一瞬で強くなったからね。あれに気付けないなんて、京子さんも興奮しすぎ」

「けど、あの時の女ってどういう──」


 攻撃の直前で、ガイアが京子に放った言葉の意味が龍之介には分からない。


『アンタ、あの時の女じゃねぇだろ』


「そう言う事だよ」


 綾斗は詳細をくれず、激しくなる二人の戦闘に見入った。

 空には雲が広がって、薄暗さに映える光が一層青を強める。蛍光管のようにくっきりと光る趙馬刀は、能力で生成されたとは思えないような金属音を鳴らしていた。


「俺、キーダーが剣で戦うなんて知りませんでした」

「まぁ、そうだよね」


 綾斗は不安と苛立ちからか眉間に皺を寄せたままだ。何かあればすぐに飛び出そうとスタンバイしているのが分かる。


 龍之介は暗い公園を見渡した。

 七年前の大晦日、この公園の殆どがバスクの力で一瞬で消えてしまったというなら、ここで隠れていることが無意味な気がしてくる。ガイアが本気を出せば、同じことがあり得るのかもしれないのだ。


 京子の強さは目に見えて分かるが、どこか受け身な感じが否めなかった。

 銀環を付けたキーダーとバスクの違いかもしれないが、それ以外にもどこか攻撃することに遠慮しているように見える。

 決着の付かないまま京子の攻めで慰霊塔の周りを一周したところで、ガイアが攻撃を逃れるように高く跳び上がった。


 着地のタイミングを計ったように、辺りに設置されたライトが白銀の塔を一斉に照らす。

 「五時か」と時計を見る綾斗。


 急に戦意を緩めたガイアに、京子が「どうしたの?」と怒り口調で詰め寄った。

 ガイアは強い目で京子を見据える。


「やっぱり別人だ。ウィルを倒したのはアンタじゃねぇ」

「私は正真正銘、田母神(たもがみ)京子だよ」

「だったらその名前がダミーってことか」


 ガイアの確信に、京子が彼を睨みつけた。

 「京子さんじゃないんですか?」と龍之介が眉を上げると、横で綾斗が無言のまま趙馬刀に刃を付ける。


「綾斗さん?」


 何事かと驚く龍之介に「待ってて」と言い置いて、綾斗はそのまま広場へと一歩踏み込んだ。

 慰霊塔の向こうにはもう一つの青白い光が揺らぐ――朱羽だった。


「来ないで!」


 しかし張り上げた京子の声に二人が留まる。

 同時に鳴り響いたのは、地面を軋ませる爆音だ。


「修司?」


 綾斗の声に、それが公園の後方からだと理解する。一斉に顔を向けると、暗い空に緋色の炎が立ち上った。


「綾斗は向こうに行ってあげて!」


 京子が早口に指示して、ガイアとの間合いを広げる。


「シェイラの仕業(しわざ)? アンタじゃないよね?」

「俺はここにいんだろ。別に俺はウィルさえ出してくれれば、戦う相手が誰かなんて関係ねぇし、ここでやめても構わねぇんだ。ただ、シェイラはそうじゃないってことは覚えておきな」


 ガイアの語尾に重ねてイヤホンがザッと音を立てる。


「龍之介くんはそこにちゃんといるんだよ?」


 少し離れた位置からマイクを通して綾斗の声が届く。

 まるで子供への『お約束』だが、それを守ることは簡単なようでいてそうではないことを龍之介は自覚している。

 けれど、「はい」と答えた。


「俺は、シェイラ(アイツ)を守らなきゃならねぇんだ」


 再び構えるガイアと対峙する京子に向けて、綾斗が叫ぶ。


「京子さん、ここには誰も眠ってなんかいませんよ。遠慮しないでやっちゃって下さい」

「綾斗……そうだよね。分かってはいるんだよ……」

「京子さんが倒れたら、誰も救われませんよ」


 強張(こわば)った表情を少しだけ緩めて、京子は黙ったまま大きく頷く。


「朱羽さんも気を付けて下さい」


 後方で構える朱羽にそう伝えて、綾斗は広場を離れた。





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