表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択  作者: 栗栖蛍
Episode3 龍之介
239/671

45 捕らわれの姫

 犬を抱いた女を誘導する施設員と別れると、急に辺りが静けさに包まれた。

 爆発騒ぎがあったとは思えない程で、鳥のさえずりさえ聞こえてくる。

 けれど龍之介がホッと息を吐いたのとは対照的に、綾斗(あやと)は緊張を走らせて道の奥を見据えていた。


「ガイアの気配がしてるんですか?」

「たぶんね。ここに来て急に強くなった。向こうもこっちに気付いて挑発してるつもりなんだろうけど」


 たぶん、と言ったのは個々の気配を区別するのは難しいという意味らしい。

 ノーマルの龍之介にはさっぱり分からないが、京子も横でこくりと相槌を打つ。


「俺、ここに来たの初めてなんです。大晦日の白雪(しらゆき)のことも詳しくは知らなくて」

「龍之介くんは地元だよね?」

「はい、ここから結構近いですよ」


 かつて閑静な住宅地だったというこの場所が、七年前の大晦日に跡形もなく消えてしまった。

 黙ったままの京子をチラと見た綾斗が、彼女に遠慮しているように見える。七年前だと彼はまだアルガスには居なかった筈だ。


 少し間を置いてから京子が口を開く。


「いまだに詳細は出してないから、知らなくても仕方ないよ。この風景が(から)になって、私が来た時には全部終わってた。何もできなかったことが悔しくて、雪の中で泣いたんだ」


 京子は朱羽(あげは)の同期だ。アルガスに入って間もない彼女の過去を責める気なんてないけれど、一介のノーマルが『京子さんが悪いわけじゃない』と慰めるのも違う気がして、龍之介は俯いたまま口をつぐんだ。


 公園の広場へと伸びた木々のアーチが途切れたところで、綾斗が「俺たちはここまで」と龍之介に声を掛ける。

 「分かりました」と答えて茂みに入り込むと、綾斗は小さなイヤホンを一つ龍之介に差し出した。支持されるままに耳に着けると、ザーという耳障りな音が小さく流れている。

 「外さないでね」と言われて龍之介は嫌顔にも頷いた。


「気を付けて下さい」


 綾斗が京子を見送って、龍之介は全体が露わになった白銀の塔を見上げた。

 七年前に起きた『大晦日の白雪』を供養する慰霊塔の巨大さに圧倒させられる。円錐(えんすい)の直径は二十メートルほどだろうか。鋼鉄の塊が天を突き刺すように細長く空へ伸びていた。

 龍之介が息を呑むと、京子が塔のたもとで「ガイア!」と声を張り上げる。


 一瞬シンとした空気に龍之介が辺りを探すと、常設された献花台の横に朱羽を見つけた。

 叫びそうになる衝動を先読みして、綾斗が「静かに」と人差し指でサインする。

 それでも駆け出したくなったのは、地面に横たわった彼女の手足がぐるぐると縛られ、『捕らわれの姫』よろしく食い込んだ紐に拘束されていたからだ。

 龍之介は弾かれたように一歩足を出すが、綾斗に腕を掴まれた。


「駄目だよ」

「すみません」


 綾斗に従う事が、ここへ来れた条件だ。

 騒めく心臓を必死に抑えつけて、もう一人の人物へ視線を移す。

 龍之介が過去に二度見た時と変わらない、茶髪のアロハ男──予告通りガイアが居た。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ