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69 坊主頭の男

 桃也(とうや)が防御の幕を正面に生成し、修司はその奥へと目を凝らした。

 ぼんやりと透き通る光の向こう側に敵がいるのだと理解して、修司は恐怖を必死に抑えるが、それらしき影も気配も感じ取ることはできなかった。張り詰めた緊張と逃げ出したくなる衝動は、山でヘリを見た時の心境に似ている。


「修司は先に行ってくれるか? 三階のロビーで京子と落ち合う予定だ」

「そんな。桃也さんも一緒に行きましょう」


 一人で中に入るなど、想像したくもなかった。京子の所へ無事に辿り着ける気がしない。


「相手はバスクだ。ヘリを失うわけにはいかねぇんだよ。大丈夫、お前の乱れまくった気配に京子が気付く筈だから。アイツの所に行ってやってくれないか?」


 光の壁の内側で、桃也が趙馬刀(ちょうばとう)を腰から抜く。両手で握り締めた(つか)から、刃が真っすぐに伸びた。

 両手を広げた程の長い刀身に見惚(みほ)れると、修司の視界の隅で何かが一瞬(きらめ)いた――そう思ったのも(つか)の間、暗闇に影が揺れる。

 桃也が素早く趙馬刀を横に構えると、ヘリの音を一瞬搔き消す爆音が地面を(きし)ませた。闇に膨らんだ丸い光が、こちらを目掛けて飛び込んでくる。


 悲鳴を上げる余裕もなく、修司は恐怖に畏縮(いしゅく)した。

 轟音(ごうおん)(とどろ)かせて光の壁がその衝撃を受け止めるが、敵の攻撃が優勢なのは目で見てはっきりと分かった。

 めり込んだ光の威力に壁がじりじりと力を失い、パンと音を立てて霧散(むさん)してしまう。

 その音に死すら垣間見て、修司は「うわぁ」と声を上げた。これが銀環の有無の差なのだろうかと敗北感すら味わうが、それ以上の衝撃は訪れなかった。


 (まぶた)の隙間から捉えた光景に、修司は「桃也さん!」と目を見開く。

 壁を突き破った光は半分程に(しぼ)んで、頭上に構えた桃也の趙馬刀に受け止められていたのだ。脳天を突き刺すようなギンという音を立てて、グルグルと回転する。


 物理的な光の強さに足をジリと滑らせつつ、桃也は苛立った様子で闇を見据えた。


「出て来ねぇなら、こっちから行くぞ」


 言い終わらないままに、桃也が趙馬刀を振り払う。光は宙へと弾かれて、打ち上げられた花火のように散り散りになった。

 「よし」と修司が緊張を緩ませたところで、トスリと足音が響いてようやく敵が暗がりから姿を現す。


 人相の悪い男だ。

 坊主頭に黒地のスーツを着て、緩んだ派手なネクタイを首にぶら提げている。桃也へ向ける目は、ニヤニヤといやらしい。

 ここに来てようやく修司も気配を感じ取ることができた。彼の手に銀環はない。握り締められた身長ほどの長い木の棒は、ぼんやりと白い光に包まれている。武器なのだろうか。


「それに力をため込んでるのか。趣味が悪いっつうか、チンピラにしか見えねぇな」

「チンピラだ? 上等じゃねぇか」


 米神に刻まれた複雑な模様の入れ墨に加えて鼻と唇の丸いピアスは、まさにそうだと思える。


「俺がこんなトコでやられるかよ。修司、お前は下へ急げ」


 趙馬刀を構えたまま、桃也は修司に下へと指示する。


「その余裕、後悔するぜ」


 入れ墨坊主男は細い目を見開いて光を帯びた木の棒を振り上げた。同時に桃也の左手が修司の背を強く押す。


「修司、行け!」


 轟音を立ててぶつかった二つの力から光が吹き上がる。

 その指示に従う以外に何もできない自分を受け入れて、修司は(かせ)が外れたようにその場から駆け出した。

 震えた声で「気を付けてください」と叫んだが、返事はなかった。




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