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68 お迎え

 到着まで十五分程だと教えられて、その速さに驚く。

 新幹線でこの距離を移動したことはないが、駅までの移動を考えてもヘリの使用は緊急時やむを得ない手段だと思った。

 パラシュートやロープでの降下というリスクさえなければ、桃也(とうや)が言うように空は快適だ。


 褐色(かっしょく)に光る東京タワーに寄り添うように『大晦日の白雪』の慰霊塔(いれいとう)が白く映える。

 下から見上げると空を突き刺す感じがするのに、ジオラマを上から(のぞ)くようなヘリからの(なが)めは、各所にあるランドマークでさえ街の明かりに溶け込んだイルミネーションの一部に見える。高さが六百メートルを超すスカイツリーでさえ小さく思えてしまった。


 まばゆく光る夜景の向こうに地平線があって、その線を横に辿ると真っ黒な海へと繋がる。

 時折(ときおり)吹く強い風に機体が(あお)られ、シートベルトをきつく握り締める修司に、桃也が「落ちねぇよ」と声を掛け、進行方向を指差した。

 大きな白い立方体の建物は、色さえ違うがアルガスに良く似ていた。それが目的地だと理解して、ホッとする気持ちと緊張が交錯(こうさく)する。


 少しずつ高度が下がり、建物の正面に少女たちの顔が並んでいるのが見えた。(ゆずる)から送られてきた写真の背景に映っていたツアーの巨大看板だ。

 時間はまだ八時前。中に(あふ)れんばかりのジャスティファンがいるのだと思うと、この計画を怖いとさえ思ってしまう。


 着陸寸前に機体は一度前へ大きく振れた。涙目の修司とは対照的に、桃也はシートベルトに片手をかけて下りる準備をしつつ、首を大きく振って辺りを凝視(ぎょうし)する。


 機体が地面に触れた感触が足に伝わって、桃也が「行くぞ」と扉を開けた。修司は操縦席の二人に頭を下げてから彼に続いてヘリを下りる。

 中へ繋がる階段へと急ぎ、扉に駆け込もうとしたところで桃也が足を止めて修司を振り返った。


「なぁ修司、セナさんも言ってたけど、お前は美弦(みつる)の事守りたいのか?」


 唐突(とうとつ)に聞かれて修司は返事に困った。


「そうは思いますけど。正直俺はまだ、そんなことできる自信なんてありません」


 そんなひ弱な返事をすると、桃也が「だよなぁ」と薄く笑んだ。


「俺も京子に勝てるとは思ってねぇし」


 同じですねと言える立場ではないし、彼と自分の能力差も大分あるだろう。けれど、桃也は「やっぱ俺たち似てるのかもな」と一人で納得していた。


「けど、俺みたいにのめり込むなよ?」

「えっ……?」

「いや、程々に頑張れって事だ」


 笑顔を(にじ)ませた桃也に、修司は「はい」と返事する。

 生まれながらの生粋(きっすい)のキーダーである京子に、バスク上がりの桃也。その関係を自分たちに当てはめてみるが、美弦に対して彼と同じように振舞(ふるま)える自信はなかった。

 気持ちだけで戦える訳でないことを重々承知の上で、修司は腰の位置で触れた趙馬刀(ちょうばとう)を抜いて、胸元に握り締めた。


 いよいよ戦いが始まると意気込んだ所で、桃也が屋上へと(きびす)を返す。修司を(かば)うように前へ出て、「ヤロウ」と吐いた鋭い視線が屋上全体を見渡した。


「どうしたんですか?」


 状況が読めずに修司が小声で尋ねると、桃也は闇を見張ったまま構える。


「一人いるな」


 桃也は胸元に広げた右の掌を闇へと返した。

 手中にじわりと光を(にじ)ませて、真横へと滑らせる。彼に操られた白い光は増幅しながら四方へと放射し、手の動きに合わせて平面の壁を作り出した。背の高い桃也を遥かに超える大きさだ。

 敵がいるのだと理解して、修司は闇へと目を凝らした。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めてなのに過酷な戦いになりそうだけど 修司君頑張って!!
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