表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/671

15 万が一の偶然か

 京子と同期でアルガスに入ったのは朱羽(あげは)しかいないが、マサの時は彼を含めて四人だった。


久志(ひさし)は一年遅れだったけど、いっつも四人でつるんでたんだぜ。確かに数は多いなって思うけど、キーダーが生まれるのは偶発的(ぐうはつてき)だし、俺たちの次が京子と朱羽だからな』


 そんなマサの言葉を思い出して、京子は彼以外の三人の顔を頭に思い浮かべながらいつもの駅を目指した。

 マサ以外全員が現役(げんえき)のキーダーだ。少々癖の強いメンバーだが、彼等の存在がマサを今もアルガスに留めているような気がする。


 翌日からの出張に備え、京子は『送るわよ』と言ったセナの申し出を丁重に断り、学校帰りの桃也(とうや)を呼び出した。足の腫れは引いていて、一人で歩くことに問題はない。


 黄昏(たそがれ)時の空が一変して雨が降り出す。

 駅の出口で彼を待つと、ポケットのスマホが着信音を響かせた。

 モニターに出たのは、幼馴染の名前だ。


「ごめんね、陽菜(ひな)。突然メールして」


 出張先の仙台に入るのは明後日だが、マサや大舎卿(だいしゃきょう)に甘えて一日早く出発することにした。明日は実家に泊まり、彼女に会おうと思う。


『いいよいいよ、久しぶりじゃん。夜は暇だから、私も嬉しいよ』


 小中学校が一緒だった彼女は、未だに交流のある数少ない地元友達の一人だ。


「ありがとう。明日の夜、駅前でいいかな?」

『前行ったトコ? オッケー。ところで仕事でって書いてあったけど、一人で来るの?』

「あ、いや……。もしかしたらもう一人連れて行く事になるかも」


 綾斗(あやと)とは仙台で待ち合わせする予定だったが、彼が前日からの同行を希望した。

 初出張の後輩を無下(むげ)にすることもできず、結局二人で京子の実家に泊まることになったのは、年始でどこもホテルが満室だったからだ。


『まさか仕事場のオッサンとか? それはやめてよ』

「オッサンじゃないよ。もっと若い男の子」

『なら大歓迎。楽しみにしてる。こっちはもう雪だから、あったかくして来るんだよ』


 あっさりと快諾(かいだく)した陽菜は、『そういえば』と声を弾ませた。


『今ね、彰人(あきひと)が東京に行ってるんだって!』

「そうなんだ……」


 その名前を聞いただけで、胸がドキリと反応してしまう。


『この間、彰人(アイツ)のパパに会ってさ、仕事でそっちに行ってるって教えてもらったの。会って来たら?』


 朝夢に見た、初恋の彼だ。京子が陽菜と小学校で出会う以前から、彼女と彰人は家が近所で仲が良かった。


「会ってどうするの? 連絡先も知らないし」

『教えるって。久しぶりとかでいいんじゃない?』

「ムリムリ。そんな度胸ないもん。もう昔のことだし、今は恋人がいるって言ったでしょ?」


 動揺した声が周囲の視線を集めて、京子は慌ててトーンを抑えた。


『あはは。年下くんだったね。じゃあ、そのことも明日色々聞かせて』


 それじゃあね、と陽菜は楽しそうに電話を切った。京子は胸に手を当ててゆっくりと息を吐く。

 今朝夢を見たせいだろうか、心臓の鼓動がなかなか治まらない。

 彼が東京に来ているとは言っても、約束もなしに会うことなんてまずないだろう。地元より面積は狭いが、東京は広いのだ。


 偶然なんて万が一の確率もないだろうと自分に言い聞かせた瞬間、京子は「えっ」と息を呑んだ。

 視線が一人の人物へと吸い寄せられる。


 初詣(はつもうで)客が多く行き交う中、道の向こうから緑色の傘を手に歩いてくる男がいた。スーツの上にコートを羽織り、改札のある京子の方へと向かってくる。


 万が一の偶然なんて、ないに等しいのに。

 六年の時間が刻んだ表情も、昔を思い起こさせるには十分だった。

 記憶とちっとも変わらない顔が、彼をそうだと確信させる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ