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63 彼に良く似た男

 食堂に桃也(とうや)の姿はなかった。

 マダムと目が合って、修司は(はや)る気持ちを(おさ)えながらカツカレーを受け取る。颯太(そうた)に会えるチャンスだというのに、頭が彰人(あきひと)でいっぱいになってしまった。


 足早に地下へ下りると、細い廊下の奥に護兵(ごへい)見張(みは)る部屋があった。

 「お疲れ様です」と敬礼(けいれい)され、修司もまだ()れぬ挨拶(あいさつ)に同じ言葉を返す。開かれたドアの奥へ()み込むと、テーブルで読書中の颯太が「よぉ」と修司を迎えた。


「思わぬヤツが来るもんだな」


「今日は(いそが)しくて人手不足なんだって」

「ほぉ。いつもはフリフリエプロンのお姉さんだけど、お前が来るのは嬉しいもんだな」


 普段と変わらぬ表情にホッとしつつ、修司は夕飯のトレーをテーブルの中央に乗せた。

 颯太の希望かマダムの計らいかは分からないが、ほうじ茶の他に炭酸水が添えられている。


 修司はここを牢屋(ろうや)のような部屋だろうと想像していたが、自室として与えられた二階の部屋とそう変わりはなかった。むしろベッドがある分こちらの方が居心地良さげに感じてしまう。

 地下であるが(ゆえ)風景は見えないが、明るい照明のせいか閉塞感(へいそくかん)は薄い。


「普通の部屋なんだね」

「ここは地下牢じゃねぇよ。解放前の俺が居た頃も、監獄なんて言われちゃいたが鉄格子が()めてあった訳でもないし、ここと大して変わりなかったぜ。悪魔みたいに呼ばれたキーダーでも、一応人間として見てはくれてたんだな。けど、ここから出れない苦痛は当事者じゃないと分からねぇよ」


 颯太は「いただきます」と手を合わる。よほど空腹だったのか、みるみるうちに半分までなくなり、「そういえば」と手を休めた。


「上が人手不足になる程忙しいって、何があった?」

「詳細は聞いてないけど、キーダーは俺ともう一人以外みんな出てるらしいよ」


 「そうなのか?」と眉をひそめて、颯太は腕を組んだ。


「悪い予感しかしねぇな。キーダーが束で動くなんてのは、なかなかない事だぜ?」


 美弦(みつる)の無事を気にしつつ、修司は彰人の話題をぶつける。


「ねぇ伯父さん。この間の夜駅で会った時、俺と一緒だった男の人が居ただろ? あの人が実はキーダーらしいんだよね。遠山彰人(とおやまあきひと)さんって言うんだけど」

「あぁ、綺麗な兄ちゃんか? じゃあ、あの女のトコに居たのは潜入捜査(せんにゅうそうさ)だったのか」


 そうだ。彰人はあの日の行動を「仕事だから」と(こぼ)したのだ。


「でも、銀環(ぎんかん)はしてなかったよな?」

「そうなんだけど、銀環ってこの形だけじゃないらしいんだ」


 颯太も彰人の手首はチェックしていたようだ。

 修司は自分の銀環を見せて、桃也の言っていたことを説明する。


「何だそりゃ。藤田さんの仕業(しわざ)か──って、まだいる訳ねぇよな」

「藤田さんって、前に伯父さんが話してた人だよね?」


 颯太が過去の話をした時、技術部の天才だと言っていた人だ。趙馬刀(ちょうばとう)や銀環の制作に関わっているらしい。


「そうだ。アルガスの技術部は昔から変なのが多いって専らの噂だ。現役の奴等もそうなんだろうよ」


 そしてぐるりと首を(ひね)った所で、颯太は「ああああっ!」と突然声を上げた。


「あの顔、まさか……」


 颯太の記憶がアルガス解放まで(さかのぼ)ったところで、とある人物の顔が彰人の顔と一致(いっち)する。

 掘り起こされた颯太の過去が告げられて、修司は勢いのままに立ち上がった。


「ごめん伯父さん、俺、行ってくるから」


 駆け出す修司を「おい」と颯太が引き留める。


「ちょっと待て。お前今日、学校の進学説明会だったろ。行けなくて悪かったな」


 突然の謝罪に、修司は「気にしないで」と首を振った。


「そう思ってもらえるだけで大分嬉しいから。それと――」


 普段見せない面食らった表情の颯太に、修司は急ぐ気持ちを抑えて向き合った。


「俺、キーダーになってもいいかな?」


 反対される覚悟はしていたが、颯太は(あきら)め顔を見せつつ「しゃあねぇな」と笑う。


「お前、何か楽しそうじゃねぇか。けど、俺より先には絶対に死ぬなよ? それが条件だからな」


 颯太は「約束だぞ」と笑って、銀環の付いた(こぶし)を修司の肩に突き当てた。



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