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42 彼だけが気付いていた

「それと、もう一つ。保科(ほしな)さんには銀環(ぎんかん)をはめてもらいますからね」


 綾斗(あやと)がテーブルの上で組んだ手に唇を押し当てて、(とげ)のある声でそんなことを言う。

 「えっ?」と漏らした修司の声が、美弦(みつる)の声と重なった。ぱちくりと開いた彼女の大きな目が、颯太(そうた)と綾斗を交互に見つめる。


「銀環、って。伯父さんが?」


 その意味を理解することができない修司に、颯太は乾いた笑い声を零す。

 彼は元キーダーで、アルガス解放の時に自らの意思でトールになったと言っていた。銀環は能力者の力を抑制(よくせい)するもので、罪人を縛るものではない筈だ。


「ふと気配が()れる時がある。アルガス解放でここを出る時、細工でもしましたか?」

「はぁ? そんなのするかよ。俺は今だってトールになったことを悔いちゃいねぇ。戻りたいと思った事なんてねぇし、キーダーなんて真っ平なんだよ。いいか、こればっかりは俺の意思じゃない。力だってほんの僅かだ。光なんて出せねぇぜ?」

「この力は化学じゃない。百パーセントの理論なんてないんです。一度縛った力が(よみがえ)る前例はありませんが、それが暴走を引き起こす可能性だってないとは言い切れませんからね」

「そう思うなら、もう一回縛ってくれればいいぜ。完全なトールになる意思なら幾らでもある」


 綾斗の説明に、疲れた息を吐く颯太。

 語られる事実に衝動を抑えきれず、修司が割り込んだ。


「伯父さん本当なの? 力が、って。キーダーに戻ったって事?」

「ンなわけないだろ。ただ、お前の気配だけ分かるんだよ。ここ一年くらい何となくな。そんなんでアンタ等には俺に力があるって分かったのか」

「綾斗は()ぐ力がずば抜けてるんです。とりあえず銀環を付けてもらえますか?」


 京子はぽかんとする美弦に、「私も分からなかったんだよ」とこっそり伝えた。


「結局、上の判断待ちって事か。そりゃ格好の研究材料になるだろうよ」

「そういう意味ではありません。けど貴方が(おっしゃ)る通り、上の指示待ちです」


「あっ。だから伯父さんはこの間、あの駅に居たのか?」


 山で(りつ)たちと過ごした帰りの記憶が蘇って、修司は急に声を上げる。

 今考えると酔った颯太が普段使わないあの駅で偶然居合わせたことは、やはり不自然なのだ。むしろ待ち構えていたと言われた方が納得できる。


「あの駅で飲んでたのは偶然だけどな。お前が来るのが分かって、朝帰りの相手を見ておこうと思ったんだよ」

「朝帰り?」


 驚いた美弦が裏返った声で叫ぶ。


「ちがっ。朝帰りなんてしたことないからな? 夜だよ、夜!」


 (さげす)むような美弦の視線に、修司はむきになって否定する。


「そうか? 相手のホルスさんは美人だったから仕方ないよな。まぁ、俺にはそれくらいの能力しかねぇんだよ。それでも銀環で縛ろうっていうなら――」


 そう言って颯太はポケットから袋を抜いた。ここに来る前あらかじめ準備していた布袋だ。

 こんな展開は予想済みだったという事らしい。

 テーブルに金属音を立てて転がったその中身は、二つの湾曲(わんきょく)した銀の帯だった。銀環にも見えるが、綺麗に真っ二つに割れている。


「俺が昔はめてた銀環だ。どうせならと思ってよ。コイツもまだ使えるだろう?」


 これに関してはアルガス側も想定していなかったらしい。


「持っていたんですか。ちょっと失礼します」


 京子と顔を見合わせた綾斗が、割れた銀環に手を伸ばす。表裏と調べてから二つを合わせると、ぴったりと円に合わせることができた。「すごい」と横から女子二人が歓声を上げる。


「ここに未練なんかなかったのに、手放せなかった。俺がキーダーだった唯一の証だ」


 颯太は少しだけ悲しい目を漂わせ、京子と綾斗に「任せるわ」と苦笑した。



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