表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/671

40 笑顔の裏の本音

桃也(とうや)に会えるのは嬉しいよ。けど、やったぁって思う気持ちは、今日のお昼くらいまでだった気がする」

「まだ会っていないのに?」

「だって、会えたらもう次はサヨナラだから」


 介抱する綾斗(あやと)を相手に、京子が神妙な顔でぽつりと話す。

 押し黙って胸を押さえるその仕草に、修司は息を潜めた。


「重い女だと思うでしょ?」

「重たいって言うんですか? そういうの」

「違うのかな? 顔を合わせたら「好き」って言うのに、もう別れる時の事考えて寂しくなってる。次に会えるのが何ヶ月先になるのか分からないんだもん。二人の時間を楽しまなきゃって思うのに、全然そんなことできなくて。ヤな女だよね……って、何か変な話しちゃった。ごめん」 


 「いいえ」と首を振る綾斗は、睡魔に瞬きを繰り返す京子に少し困った笑顔を向けた。


「どうしたいか考えろって、朱羽(あげは)に良く言われるんだ。もうそういう時期なのかな」

「京子さんの気持ちの問題じゃないんですか? 急ぐことじゃないですよ」

「気持ち……か。なら、もう少し様子見てみようかな」

「うん」

「言いたいこと言ったら落ち着いた。ありがとね、綾斗」


 京子の恋愛の話だというのは、修司(しゅうじ)にも理解できた。ただ、彼女のすぐ側で見守る綾斗の表情も、仕事だけの関係には見えない。

 けれど、(かん)ぐるのは良くないと自分に言い聞かせて、修司はそれ以上の好奇心を閉じ込めるように唇を真横に結んだ。

 

 安心しきった顔で、京子はそのまま寝息を立て始める。獣とまではいかないが、少々荒々しい(いびき)が静まり返ったホールに響いた。


「あぁ、寝ちゃった」


 「しょうがないな」と零して、綾斗が修司を振り返る。


「予想と違った?」


 やはりバレていたらしい。

 唐突に聞かれ、修司は「はい」と二人に近付いた。


「年に何度かアルガスの各支部から代表を集めて、飲み会があるんだよ。一応、交流会って名目だけどね。ノーマルの幹部(かんぶ)たちも居るんだけど、大酒飲みばっかだって話。京子さんも弱いのに好きだからね」

「そうなんですか。京子さん大丈夫なんですか?」

「久々に酔ってご機嫌だから平気。もう少ししたら部屋に連れてくから気にしないで」

「部屋って」

「あぁ、自室の事ね。別に家はあるんだけど、忙しい時とか何だかんだ理由付けて、すぐここに泊まろうとするんだよ。食堂に行けばご飯も食べられるしね」


 苦笑して、綾斗は京子から少し距離を置いて座り直した。


「それより、君がキーダーになるかは別として。ここに居る間は教育係を付けさせてもらうよ。明日そのトレーナーがここに来るから」

「もしかして、さっき話してた桃也(とうや)さんって人ですか?」

「そう。忙しい人だから期間限定になるけど。キーダーで、京子さんの……恋人だ」


 「やっぱり!」と思わず上げた声に、京子の(いびき)が重なる。


「桃也さんの拠点は一応ここなんだけど、外での仕事が多くて(ほとん)ど居ないんだ。今回も半年振り。けど君のトレーナーって事で少し長く居れそうだから、京子さんも嬉しいんだよ」


 キーダーの中でも仕事は色々あるらしい。修司は話を聞きながら何度も大きく(うなず)いた。


「あと、これは俺からの個人的な頼み。来たばっかりの君に余裕なんてないだろうけど、美弦(みつる)の事色々気に掛けてもらえないかな?」


 思い悩んだ表情を浮かべて、綾斗が肩を落とす。


「トレーナーの俺には弱音吐いてくれなくてさ。真面目だし能力はあるのに、彼女の中の目標値が高すぎて、実際とのギャップに自己否定気味なんだよ。そんなに急ぐ必要ないのにね。君には何でも言えるみたいだから、側に居てくれるだけで彼女も発散(はっさん)できると思うんだ」

「発散……ですか」


 発散とは当たり散らすことじゃないだろうか。

 美弦が修司に対する『何でも言える』の意味は、綾斗の言うものとは大分違う気がする。


「俺のできる範囲なら」

「それでいいよ」


 彼女が自分に本音を吐露(とろ)してくれるとは思えないが、力になれたらとは思う。

 少しずつ芽生え始めたキーダーになりたいという気持ちは、世界平和や英雄の称号(しょうごう)の為ではなく、美弦と同じ位置に立って事情を共有したいからだ。


 それが颯太(そうた)の思いを振り切ってしまうことだとしても……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] お久しぶりの京子ちゃん 泥酔いびき(*´Д`) 桃也君とは結構厳しい感じなのかな……切ないね 修司君はもう美弦ちゃんが結構大きな存在なんだな このまま恋心になっていくのか(*´∀`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ