返品
俺は一度、荷を引く代わりに半額にする、その代わりアントナイトの調度品やインゴットをオークションに出すので、オークションで落札して欲しいとお願いした。もし値段が吊り上がれば差額は返却するという条件だ。
荷を引き上げ、オークションに参加する手間を掛けさせるので、値段は半額とした。その値段じゃ利益はほとんど経費で消えてしまうが、ユーバシャールで商売が出来なくなって逃げかえるよりマシだろう。
オークションは1週間後。それまではこの件をガイガー商会に秘密にして欲しいと、ドミンゴさんにはお願いしておいた。守ってくれなければ終わるが、その時は諦めるしかない。嘘だ。それまでに逃げ切ってやる。アントナイトを欲しがっていたロドリゲス男爵にはドミンゴさんが上手く言ってくれるという。
ユーバシャール一の高級宿『天馬の導き』から、昨日アントナイトを持ち込んだ荷馬車2台が出て行く。その2台を見送ってから俺達は、4頭のロバを引いて『天馬の導き』から出る。
2台の馬車は昨日と同じ物だが、荷馬車と御者は外部から雇った。彼らには『天馬の導き』の廃品を積んで、『黄金戦艦』まで持って来てもらう契約をした。帰り掛けに襲われる事を懸念して念のため雇ったが、彼らには悪い事をした。俺の探知スキルに依ると、あと10分も進めば襲われるだろう。
俺はヴァルブルガ、ニクラス、そして傭兵団『貨幣の収穫』の二人、シグチーとオグナスと共に、革袋に入った調度品を載せたロバを引いて進んだ。
敵が成り済ましに気付くまで、20分の距離を開ける事が出来る。今のうちになるべく距離を稼いで、敵を撒かなければいけない。俺達は荷馬車とは反対方向、俺達が泊る宿『黄金戦艦』と反対へと向かった。すぐに大通りには出ず、裏通りを通って目的地まで向かう。
しばらくすると敵は荷馬車と遭遇した様だ。だが、すぐに『天馬の導き』へ向けて動き出した。成り済ましがバレたか。荷馬車の御者達の反応は消えていないから、殺されてはいないのだろう。それはよかったが、俺達も見つからない様に逃げなければいけない。
「少しスピードを上げるぞ。」
「ご主人様、敵が近付いてるのか。」「ホントかよ。」
ロバを引いて不自然にならない程度に早足で進んでいたが、もう取り繕う余裕はない。速度を上げる指示をすると、ヴァルが気を引き締め、シグチーが胡散臭さ気な顔をするが、とにかく俺達は足を速めた。
だが、敵の足が速い。一人がかなり先行して走っているのだろう。後ろに5人はいるが、先頭から遅れながらも必死に追い縋っている感じだ。たぶん、先頭の奴はザンとか言う長剣の男だ。残りは普通の傭兵だろう。
ヤバイ。ザンだけは振り切れそうにない。ユルゲンさんのハンゼン商会までもうすぐなのに。ダメだったか。あと1歩でハンゼン商会のある大通りに出られる所だったのに。俺達の後ろに2mはある長身の細マッチョの男が辿り着いた。まだ、長剣は抜いていない。
「おい、外国人。
随分逃げ足が速いじゃないか。久しぶりに兎を狩る猟犬の気分になれたぜ。」
ザンはそう言うと、くっくっくっと笑う。
「アンタ、俺はちゃんとガイガー商会に金を返して商品は引き取って来たぞ。
見逃してくれるんじゃなかったのか。」
「はん。」
男はそう言うと剣の柄に手を掛けた。
「今だーっ!」
俺は男が踏み出すタイミングを探知スキルで認識すると、合図を出した。
バキ
今の一瞬、ニクラスが身長程の棒を俺の前、腰の高さに踏切の棒の様に出すと、ザンは踏み込みと同時に切り落としてさらに俺に近付く。ザンはニクラスを蹴り飛ばしながら踏み込んで、さらに俺の前に立つヴァルへと剣を振り下ろす。彼女はギリギリで自分の剣でザンの剣を受け止めた。
タイミングが分かって、2人掛かりで一手しか止められなかった。
「調子に乗るんじゃない、どぉ。」
だが、そこで『貨幣の収穫』の二人が迫る。
「うぇ。」
シグチーの腹がザンに斬り付けられた。
「てめぇ。」
オグナスの両手斧がザンの頭上に振り下ろされるが、ザンは軌道を見切って間一髪で躱す。オグナスの斧が地面を打って、飛び散らせる。
ダダダダ
さらにザンの後ろから5人の傭兵が近付いて来た。万事休すか。そこに声が掛かる。
「おい、お前達。何をしている。
そこを動くな。」
二人組の衛兵が近付いて来る。だが、これで助かるとは思えない。エトガルは衛兵に鼻薬を利かせている。むしろ敵が増えた様な物だ。ザンが衛兵へと警告を飛ばす。
「俺達はガイガー商会の者だ。
お前達は帰れ。」
ヤクザの組の様だ。これで衛兵は帰るか。
「そうか。
だがギルベルト中隊長は実家に呼ばれたと言って、取り巻きを連れて帰ったぞ。
何でも東の果てのヘンゲン男爵領が魔族に襲われたとか言ってな。
今ならお前達を守る者はいない。」
「チッ。お前達、帰るぞ。」
意外な展開に呆気にとられる俺だったが、それを聞いたザンは迷いなく帰って行った。助かったのか。ふと見ると、声を掛けた衛兵は昨日の若い衛兵に似ていた。もう一人は昨日の男とは別人だったが。
「酷い有様だな。おい、大丈夫なのか。」
若い衛兵がシグチーへと近付くが、オグナスがそれを手で制した。シグチーの腹は剣で切られていたが、幸いにも脂肪と筋肉で止まっていて内臓までは達していなかった。




