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あれ、探知スキルが効きません。

 魔法というのを初めて見た。まるで爆弾の様だ。いや爆発したと言うよりも炎が膨れ上がったと言う方が近いか。5人は全身に炎が引火して燃え上がり、悲鳴を上げながら転げ回っている。今日はこれまでバルナバスさん達が敵を殺すのを見てきたが、5m以上は離れていたせいか映画でも見ている様であまり身近かには感じなかった。だが、今回は距離が離れているとはいえ、人に火が点いて転がっているのだ。嫌な臭いもするし、痛みが長引くのか悲鳴が長い。それに敵が全て倒れて緊張が解けたせいか、気分が悪くなってきた。(うずくま)る俺の横で会話が聞こえる。


「お嬢様、拘束しますか。」


「兄上だけは止めを刺し、他は拘束しろ。」


「はっ。」




 俺は吐きながら、会話の中身を考える。お兄さんだけ殺すのか。他は拘束という事は、お兄さんを殺すことでお家騒動に決着が付き、お嬢様の安全が確保されるという事かな。逆に生かしておくと、また何か仕掛けてくるかもしれないから、さっさと殺すというところか。何というか、殺伐としているな。


 ん?何であんなところから急に!ヤバイ。バルナバスさんもフリッツさんもこっちを見ていて気付いていない。


「ん、あっ。」


 俺はまた、お嬢様を引き倒した。そしてお嬢様が一瞬前までいた所を矢が通る。バルナバスさんとフリッツさんが、すぐさま矢が飛んできた方向とお嬢様の間に入り壁となる。


「レン、敵はどこだ。」


 俺は倒れたお嬢様の股間に埋めていた顔を、お嬢様自身に頭を掴まれて横に退()けられながら答える。


「矢が飛んできた方向にいたのですが、矢が飛ぶ前までは気づきませんでした。

 それに今、矢を飛ばされた後はまた見失いました。」


「ギード、こっちに来い。

 お嬢様、私とギードの間に身を隠して、馬車のところまで()がって下さい。

 フリッツはレンを連れて射手を仕留めてこい。」


 直前まで気づかなかったのはともかく、気づいた後に見失うとかどういう事だ。こんなのこれまでなかったぞ。いや、探知無効とか隠蔽(いんぺい)の様なスキル持ちなら、俺の探知からも隠れられるのかも。

 と、(あぶ)ねぇ。俺はフリッツさんと矢の発射位置を目指して走っている最中に、後ろへとひっくり返る。矢が今度は俺を狙ってきやがった。それにまた、発射の一瞬しか場所が分からなかった。いや、発射の一瞬が分かるなら避けられる。あと70mか。




「ここです。」


 俺はフリッツさんと矢の発射地点まで辿り着いたが誰もいない。人が踏み歩いた(あと)はあるが、どっちに行ったんだか。ヤバイ。つい今まで、敵の位置が全て分かっていたのに、それが無くなってどこに敵が潜んでいるか分からないってのは、すげ~~~こえぇ~~~。どこなんだよ。フリッツさんも、近くの藪などから人の歩いた痕跡を探そうとしている。

 ん。上?頭上を通り過ぎる陰に、俺は考え無しに上を見上げた。しかしそれは(すずめ)の様な小さな鳥が飛ぶ陰でしかなかった。何だよ。ビビらせやがって。だが、その瞬間俺の背にゾクリと怖気(おじけ)が走る。上を向いた俺の真下、見えないが俺の足元に敵がいる。そしてこの距離では(かわ)しようがない。

 この至近距離で奴は矢を放った。俺の頭を狙った矢が俺の(あご)に到達する。俺の体感時間が何倍にも拡大され、ふっと体の力が抜け、俺はゆっくりと倒れこんでいく。


 ザシュ。


「ごあぁっ。」


 矢は俺の(あご)(かす)めて(そら)へと飛んでいった。異常を感じたのか、まるで瞬間移動の様に俺の傍まで来ていたフリッツさんが、俺の足元の敵に剣を突き刺した。

 俺は漫画の様に足を広げたまま、背中側に両手をつっぱらせて体を起こす。俺の足の間には、ボウガンかクロスボウの様な機械弓を持った男が、フリッツさんに腹を刺されて死んでいた。



 俺は腰を抜かしていた。立ち上がれない。だが、それが良かった。鳥の陰に上を向き、体を()らせていた為に、腰を抜かして仰向(あお)けに倒れる事でギリギリ矢が外れた。これは俺が意識的にした事ではない。完全に偶然に助かっただけだ。


 ふと見ると、死んだ男の頭のすぐ横に頭蓋骨が落ちている。呆然とそれを眺めていると、不意に自分が左手で手をついている物が気になった。首を曲げそれを見ると、それも人の頭蓋骨だった。もちろん頭蓋骨だけではなく、草叢(くさむら)の積み重なった枯草の間からは人骨の他の部分もチラチラと見えている。そこら中に人骨が散乱していた。そうか、ここは亡者の門だったな。

 俺もさっきの矢で死んでいたら、ここの亡者の仲間入りをしていたという訳だ。ここには何百年も前から魔物ではなく、人間同士の襲撃によって死んだり、返り討ちされたりが繰り返されているのだ。


 俺は甘く考えていた。いや、探知スキルの有用性に気づいてから最初の警戒心が薄れ、気が緩んでいた。探知スキルさえあれば攻撃を食らうことはない、目の前で戦いが繰り広げられていても俺は傍観者でいられる、無意識にそんな風に考えていた。だが、探知スキルなんてものがあるなら、それに対抗するスキルや魔法があるのは当たり前だ。

 そう、魔法もそうだ。俺はお嬢様の事を怖いが、戦闘力は皆無だと思っていた。この7日間お嬢様の魔法の話は聞いた事が無かったが、おそらく隠し玉だったのだろう。お嬢様に対して警戒していなかった事も含めて、急に魔法を使われたら探知スキルがあっても避けられるか分からない。そう。この世界に来てからずっと、探知スキルでは避けられない危険が、俺の身の回りにあり続けていたのだ。


 どうせ腰が抜けて動けないのだ。俺は仰向けに寝転んで空を見た。俺の顔に影が掛かる。雀の様な鳥だ。あれはさっきの鳥だったのだろうか。

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