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公都ユーバシャール

 ユーバシャールに着いた日は、全員疲れが出て飲み明かす事も無く早々に床に就いた。俺達が投宿したのは、微妙な名前だが『黄金戦艦』という中級の宿だ。荷馬車二台に金貨300~400枚(3~4千万円)相当の商品を積んでいるので、宿に隣接した納屋を貸し切りに出来る宿を選んだのだった。




 翌日、俺自身も起きるのが遅かったが、全員が起きたのは正午になってからだった。そこで今日の各自の予定を打ち合わせる。初めての街でもあるし、他国でもあるので外に出るのは2組で固まって行く事にした。

 1組目は俺とヴァルブルガ、クルト、ニクラスの俺の奴隷達3人で、アロイジア公女に紹介された菓子店に訪問する。公女付きの薔薇(ローゼン)騎士(リッター)エリーザさんによれば、その菓子店に元食品大手、現在ユーバシャールで第8位の商会長がいるらしいので、有力者の紹介をしてもらえるかもしれない。

 2組目のカリーナ姉妹と傭兵団『(アイロン)(シールド)』の4人には、ユーバシャールの街中に出て酒場を巡って、今どこの国の船が来ているとか、流通の多い商品、少ない商品、何が話題になっているとかの一般情報を収集してもらう。残りメンバは宿の留守番兼荷馬車の警護である。




 その菓子店は大通りから少し横道に入った所にあり、4、5名も客が入ればいっぱいになる様な小さな店だ。だが、店からは外側まで砂糖の甘い香りが漂っていて食欲を刺激される。俺はクルトとニクラスを外に待たせ、ヴァルブルガと二人だけで中に入る事にした。

 だが俺は入る前に探知スキルを使わなかった事を後悔した。いや、普通菓子屋に入るのにそんなに警戒しないよな。


 そこには剣呑な雰囲気を(まと)う一人の老婆と3人の男達がいた。老婆は品のいい老婦人といった雰囲気で涼し気な微笑みを浮かべているが、何か只者では無いオーラの様な物がある。

 そして男のうち一人は髪を整え、身なりもしっかりしているが身長は2m近く、腰に下げた長剣と鍛えられた体付(からだつ)きから明らかに堅気でない事が分かる。次の男も服こそ小奇麗だが、シャツが破れそうな程筋肉で膨れた大男で、武装はこそ見当たらないが荒事を生業としている奴だろう。

 最後の男は前の二人の主人なのだろう。金髪で豪奢な服に身を包み、身長は180㎝程。華奢という程では無いが、明らかに戦闘職ではない体の造りをしている。しかし、老婆同様笑みを浮かべているものの、それは人を見下す様な酷薄な笑みであり、露骨な威圧感を放っている。


 やだなあ、本当の意味での修羅場に突っ込んじゃったじゃないですか。俺はそっとその場を離れようとしたが、次の会話が俺の足を止めさせた。


「マルゴット。

 クロウから離れ一人になったのは貴女の失策ですよ。

 こんな簡単に決着が付くとは私も運がいい。」


「そうかい、エトガルのぼうや。

 でも、最後のお客さんにはご迷惑は掛けない様にしなきゃダメだね。


 お客さん、悪いが今日は店仕舞いのようだ。

 帰ってくれないかね。」


 後の言葉は俺に向けられたものだろう。俺はその勧めに従って、帰るつもりだった。


「いやいや。

 今日、この店に客は来なかった。

 残念ながらね。マッシュ、捕らえろ。ザンはマルゴットだ。」


 冷笑男の言葉に無手ゴリマッチョが俺の方に足を向け、長剣マッチョが老婆へと向かう。あっ、ヤバイ、完全にヤル気だ。逃げるぞ。


「ヴァル、俺を店から引っ張り出せ。」


「承知。」


「いや、伏せろ。」


 ヴァルが返事と共に俺の腕を掴み、扉の外へと引っ張り出そうとする。だが、後ろから接近する気配を感じた俺は指示を出し直す。ゴリマッチョ・マッシュが俺を追おうするが、俺達が伏せると同時に俺達を飛び越えて店に入る者がいた。


「無事か、ばあさん!」


 その男の身長は180㎝くらいだろうか。店の中のマッチョマン達と違いそこまで筋肉質という訳ではなく、寧ろ細身と言えるがその両手には小剣が握られ、空気を震わせる様な気迫を放っている。

 恐らくこの男がクロウなのだろう。彼は老婆の前の長剣男・ザンに小剣を振るう。


「てめぇ、クロウ!」


 ザンは振り返って長剣で小剣を受け止める。


 ギンッ、ギンッ、ギンッ、ギンッ、ギンッ。


 次の一瞬で数合打ち合わせるが、ザンは追い込まれる。技量うんぬんの前に長剣が狭い店内で振るい(にく)いのだ。金髪男エトガルがザンの不利を見て取って、ゴリマッチョに命じる。


「マッシュ、お前もマルゴットをやれ。」


「分かりやした。クロウ、潰してやるぜ。」


 二人掛かりとなった事で、両手小剣の男は老婆の前に立って防戦一方となる。こんな昼間に表通りの店で堂々と人殺しをするか、とも思うが金髪男は完全に老婆やクロウ、そしてたまたま居合わせた俺を殺す気の様だ。恐らく貴族か何かの後ろ盾があって、揉み消す準備が出来ているのだろう。

 既に俺達は店の外に出ているが、金髪男の注意はクロウに向いており気付いていない。だが、たぶんあの老婆が死ねば、外国人の俺などいつでも殺せる奴なのだろうし、逆に老婆が生きていれば奴も動きづらいのだろう。

 だったら俺のやる事は決まっている。俺は探知スキルで店の中様子を伺い、老婆、用心棒2人、金髪の立ち位置を確認。もうっちょっと、右だ、右に動けよ。そう、今だ。


「クルト、このまま力の限り真っ直ぐ突っ込め。」

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