聖地巡礼
「それでは、レンよ。さらばなのじゃ。」
「ああ、気を付けて行けよ。」
ミスリル銀を採掘する冒険者クラン『銀蟻群』を作ってから、3ヶ月の間は俺も鉱石を運ぶ為にペルレ大迷宮に入っていた。採掘奴隷を警護するメンバは俺と奴隷女騎士ヴァルブルガ、オークの様な奴隷の大男クルト、そして金髪の女神官フリーダ。
インゴを失った冒険者パーティ『大農場主』の若者ヨーナスとむっちり田舎娘エラは、唯一の『銀蟻群』傘下の専任パーティとして俺達とは別に迷宮で採掘奴隷を警護したり、クラン『赤い守護熊』の下で訓練を受けたりしている。ちなみに俺は冒険者パーティ『冒険商人』と兼務であり、ハルトヴィンさんも『赤い守護熊』の幹部と兼務で『銀蟻群』のクランリーダーをしている。
その後、俺は奴隷や雇った人間に迷宮での仕事を任せて、外で『銀蟻群』の管理を始めた。その頃にフリーダは住み込みで俺と愛人契約、日本では不法行為だが、を月金貨2枚(約20万円)で結んで迷宮には入らなくなる。夜以外は自由にさせていたら、ペルレで星の神の布教をしていたらしい。
そしてさらに3ヶ月後、『銀蟻群』結成から6ヶ月後に聖地巡礼の資金が貯まったからとフリーダはペルレを出た。惜しいとは思ったが、引き留めはしなかった。美人は3日で飽きるというが、3ヶ月は飽きなかった。特に最後の夜は凄く頑張ったが、フリーダは余裕そうだった。Oh, yes! Come on!
「レンさん、最近暇なんじゃないですか。」
「いえ、貧乏暇なしで毎日忙しくやってますよ。
今日は何の御用ですか、ユリウスさん。」
それからしばらくして、俺は金属大手のダーミッシュ商会の会頭の次男ユリウスさんに呼び出された。暇とは失礼な、1日2時間位は仕事してるっちゅうねん。はい、すいません。調子に乗りました。
用事はミスリル銀のオマケと言うか、表向きの『銀蟻群』の採掘物である青い金属アントナイトの在庫がダブついて来たので、遠くに売りに行ってくれというものだった。アントナイトは採掘の開始から半年で、ペルレだけでなくカウマンス王国中に広まって値崩れを起こす予兆がある。ユリウスさんはヴァルヒ商会とも相談の上、値崩れ前に余剰分のアントナイトを港を持つマニンガー公国まで行って、海外へ行く商船に売り付けられないかと考えていたのだ。
これは『銀蟻群』としての活動の一部であり、馬車や護衛はダーミッシュ商会が用意するので、俺には『銀蟻群』の投資家の代表としてマニンガー公国まで行って在庫を売り切って来てくれというのだ。所要日数は往復でおよそ2ヶ月、4輪の馬車2台に金貨300~400枚相当のアントナイトの装飾品、調度品、インゴットを積んで運ぶ計画だ。この仕事の俺の取り分は売り上げの1/4だと言う。
俺はミスリル銀の鉱床を狙っていたユリウスさんを出し抜く形で、ヴァルヒ商会や『赤い守護熊』を巻き込んだので、ユリウスさんの顔を立てる為にもこの面倒な依頼を断る事が出来なかった。
俺は不在中に『銀蟻群』の俺の持ち分を取られない様に、誰かを留守に残そうかとも思ったが、どうせユリウスさんやヴァルヒ商会に対抗出来る部下など居なかったので、ユリウスさん自身の信用に掛けてお願いしますと、全て任せる事にした。
ユリウスさんの用意した護衛は専業の傭兵4人という事だったが、これは馬車2台と金貨300~400枚相当の物品の護衛としては少ないので、俺が自費で用意する戦力も見込んでいるのだろう。俺も武装した戦力が全てユリウスさんの手の者というのも怖いので、同じくらいの戦力は用意したい。ヴァルとクルトがいるのであと2人以上か。
隊商の出発までの1週間、俺はマニンガー公国とそこまでの経路の情報を集めると共に、追加の戦力を探した。
「何だどぉ、ヴァルヒ商会の仕事かと思って来てみりゃ、こんなガキの護衛かどぉ。」
今、俺の前にいるのはヴァルヒ商会のイーヴォさんから紹介された傭兵団『貨幣の収穫』のシグチーという男だ。もう一人オグナスという男が後ろに立っているが、今はそれしかいないらしい。
「今回の隊商のまとめ役はこの『銀蟻群』のレンですが、
積み荷にはペルゥゥゥレッ一のヴァルゥゥゥヒッ商会ィィィも関わっているのです。
この仕事も今後の護衛の参考にさせてもらいますよ。」
シグチーは身長175㎝程度だがプロレスラーや相撲取りの様な筋肉デブで、イーヴォさんがそう言っても俺に顔が付くほど近寄り睨みつけて来た。
「ケッ、『銀蟻群』だか『銀蝗群』か知らねぇがどぉ。
月に一人金貨4枚出すっていうなら、仕事をしてやるどぉ。ちゃんとな。」
俺は一人月金貨3枚で依頼していたのに、それを混ぜ返して来た。金に汚い男だ。俺は断固それを断った。
「おめぇ、1枚の銅貨を笑う者は1枚の銅貨に泣くって言葉を知ってるかどぉ。
ああっ。」
シグチーがさらに威圧して来るが、俺は黙ってそれを見返す。1~2分後だろうか、シグチーは俺から離れ、顔をにやけさせる。
「ケッ、マジになるなどぉ。おめぇ冗談も分からない程、頭が固いのかどぉ。
ちゃんとやってやるから心配するなどぉ。
おめぇ、シシシッと笑う者は、既にシシシッと笑っているって言葉を知ってるかどぉ。
シシシッ。」
ムカつく男ではあるが、ヴァルヒ商会での護衛実績もあり、今後もヴァルヒ商会の仕事を受けたがっている。時間もあまりないし仕事自体はちゃんとやるだろうと判断した俺は、『貨幣の収穫』の2人を月金貨3枚/人で雇う事にした。




