銀蟻群
「直近のミスリル銀の月産目標は8㎏。
先程の買取価格から考えて金貨200枚相当でしょうか。
私の想定している投資の割合は、ヴァルヒ商会さんとダーミッシュ商会さんがそれぞれ4割。
私と『赤い守護熊』がそれぞれ1割。
ただし、投資のほとんどは金貨ではなく現物を考えています。
ヴァルヒ商会さんとダーミッシュ商会さんには採掘を行う奴隷、
クランの事務所や倉庫、会計を行う人員、探索に必要な物資等。
『赤い守護熊』には採掘場や鉱石運搬時の護衛。
私は採掘場の情報と採掘の管理の労務等ですね。
ただ、実務は私がするものの、
クランリーダーにはハルトヴィンさんに就いて頂きたいと考えています。」
ミスリル銀は金貨にも匹敵する高価な金属だ。この採掘場を俺の様な個人行商が握っても、他の冒険者に脅し取られるか、大商会に騙し取られるのが落ちだろう。だったら、彼らと協力してその分け前を貰う側に回った方がいい。
鉱石ならダーミッシュ商会が専門だろうが、ユリウスさんに話を持ち掛けても多少の手付を貰ってすぐに追い出されるだろう。だから食料品大手などという門外漢を抱き込んで、両方から会計の人員を任せた。それでも二つの商会が手を結べば俺を追い出すのも容易いが、利益の大半を最初から受け取っている上に同規模の商会と権利を二分しているのだ、ここで下手な手は打たないと願いたい。
そして他の冒険者への牽制として、ペルレの最大クラン『赤い守護熊』からクランリーダーを迎えてその傘下の様な立場になる。その為に俺と同額の報酬を引き渡す。儲けは10分の1になるが一気に採掘規模を増やせるし、経済的・武力的後ろ盾を得られる。これが俺の最適解だった。
ダーミッシュ商会が最初にミスリル銀の情報を知れば、俺はユリウスさんに捕まえられたかもしれない。だから2日後に降参する様な格好をしてユリウスさんを出し抜き、ヴァルヒ商会と『赤い守護熊』と話を着けて来た。こちらにはミスリル銀の現物があったので、話は割合あっさりっと決まった。
それから俺は計画の詳細を3人に話した。ここで俺は最初から第8区に採掘場がある事を話した。有力者3人が知っている金ヅルで、その利益のほとんどを差し出しているのだ。ここで俺を排除したりはしないだろう。
俺は大迷宮に2か所のキャンプ地を作る事を考えていた。まず、奴隷5人と山羊10匹のチーム5組を作り、1組目が採掘場で採掘を行う。2組目は採掘場から1時間の距離の第1キャンプで第1選鉱を行う。第1キャンプは俺が選んだ細い横穴の中の魔物のあまり来ない空洞だ。3組目は第2区と第8区の境の地下河川の石橋の前、2区側の第2キャンプ地で第2選鉱を行う。
1組目は山羊と自分達で持てるだけの鉱石を採掘すると、第1キャンプに鉱石を運ぶ。2組目は1組目と交代で採掘場に行く。1組目は第1キャンプに鉱石を置くと、2組目が選鉱した鉱石を持って第2キャンプに行く。1組目が第2キャンプに着くと、3組目は2組目の交代として第1キャンプに向かう。1組目は2組目の選鉱した鉱石を置くと、4組目が来るのを待ってから3組目が選鉱した鉱石を地上に持ち帰る。4組目は3組目の代わりに1組目の持って来た鉱石の選鉱を始める。1組目が地上に戻ると5組目が第2キャンプに向かう。1組目は2組目が戻るまで、地上で休息する。
大迷宮はとにかく危険が一杯だ。採掘場は蟻が来れば撤退しなければいけないし、2か所のキャンプを作ったのも休憩場所を増やすだけでなく、1ヶ所に鉱石を集まらない様にし、不測の事態に失われる鉱石を減らす為でもある。
奴隷1人が戦闘技量の無い農作業ができる男なら金貨30枚程、25人で金貨750枚だ。これに各チームの護衛を『赤い守護熊』から派遣してもらい、不足は戦闘の出来る奴隷を購入して補う。ヴァルヒ商会とダーミッシュ商会には奴隷の他に、事務所 兼 奴隷の休憩所 兼 ミスリル銀の選鉱所 兼 倉庫を提供してもらい、会計の人間も派遣してもらう。
俺はこのシステムが立ち上がるまで、一番危険な第1キャンプと第2キャンプ間を荷運び奴隷を先導して行き来する事になるだろう。
俺の計画は3人の有力者に認められた。ユリウスさんは出し抜かれる形になったが笑っていた。利益はちゃんと分けるので笑顔の裏で、仕返しを企んだりしないで欲しい。
それから半年、『銀蟻群』は上手く機能した。ミスリル銀の月産目標8kgは3ヶ月目で達成し、半年後に月産20kgに達した。
また、俺は迷宮に潜りながらスリの子供とか元猟師の奴隷などで俺程では無いものの、ある程度気配を察して魔物を避けられる人材を数名育てた。そうして俺の代わりに第1キャンプから第2キャンプへの先導に当てる事で、俺自身は迷宮に潜らなくても採掘が継続出来る様になった。
そうなると俺はダーミッシュ商会の用意した『銀蟻群』の事務所で、前日の採掘量だとか採掘人員の損耗を確認したり、必要な物資や人員の手配等をする様になった。俺は商人らしく朝1~2時間の事務仕事をしたり、時々商会や『赤い守護熊』等と交渉したりするだけで、毎月金貨50枚が入る身分になったのだった。




