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赤い狐

 獲物を逃がしたとなれば、彼の命も危うい。彼が周囲を見回すと洞窟の奥へと戻って行く幾つかの灯りが見えた。



 ディルクにレン達の襲撃を手引きさせたのは『炎狐団(ファイヤーフォックス)』というゴロツキ達だった。その団長は赤い長髪を(たてがみ)の様に後ろに流し、腰には凶悪そうな曲刀(シミター)()いた長身の男ザシャ。残酷さで悪名を()せ、追剥・強盗も躊躇なく行うだけでなく、被害者は生きたままその曲刀で甚振(いたぶ)られる事もある。

 副団長は身長2mの浅黒い肌のハゲマッチョ、ローマン。この男も腰の片手斧で襲撃相手を切り刻むのを好み、『肉屋(ブッチャー)』の異名を持っている。ディルクも『炎狐団』がそんな狂暴な悪党だと分かっているので、何と命乞いするか必死だった。




 何か声が聞こえた気がしてレンは後ろを振り返った。彼から300mは離れたところで2つの灯りが見え、その一方が大きく揺れていた。恐らく彼らが川岸に置いて来た松明の所まで、ディルクが戻って来てレン達が居ないのに気付いたのだろう。ディルクが持っているであろう灯りは(せわ)しなく動き回っているので、川の対岸へと何か合図を送っているのだろう。


 俺の作戦は単純だ。なるべくあの死に掛けて仲間を呼ぶ蟻の近くに鉱石等の荷物を下ろし、俺達はそこからなるべく離れる。きっと荷物の所に灯りを置いておけば、ディルク達はそこを目指してやって来るだろう。

 俺達が居ない事を不審に思うかもしれないが、奴らが狙っていた鉱石があるならわざわざ俺達を追うよりも、鉱石を運び出そうとするに違いない。だが、山羊もいないのでそう簡単に運び出せないだろう。

 そうこうしている内に蟻に包囲され、自分から手を出して敵認定され、目出度(めでた)く肉団子の材料として巣に運ばれるだろう。俺達は探知スキルで蟻の包囲を抜け出し、また蟻達が採掘場の方に戻った後に鉱石を運び直すだけだ。




 あれから3時間、俺達は山羊を連れて川下側に避難し、蟻達が帰るのを待っていた。


「ご主人様、まだ戻らないのだろうか。」


「まだだ。」


 ヴァルブルガの問いに俺はその場に座り、目を(つむ)ったまま答える。どうだろう、切れ者軍師っぽいだろうか。

 探知スキルで探って行くと、やはり荷物を置いた辺りで追剥達と蟻の戦闘があった様だが、それももう終わっている。蟻達は反応の薄い、恐らく傷付き弱った蟻は置いて行く様だ。そういう意味ではあのオレンジ色の蟻は何か特別だったのかもしれない。

 まだその辺りに生き物の反応はあるが、そのどれもが弱っていてその場を動かない。流石にそれが蟻なのかゴロツキなのか、あるいはあのオレンジの蟻かは俺にも区別できない。だが、まあそれでも危険は去った様だった。




 俺達が鉱石を置いた場所に戻ったところ、蟻の死骸はあったが人の死体はほとんど残っていなかった。たぶん、肉部分は蟻に持って行かれたのだろう。武器や服、銅貨等が散らばっている。纏めていた鉱石もゴロツキ達が持ち帰ろうとしたのか、半分くらいが元の場所から無くなり、別の場所に散らばっていた。それらをなるべく回収して、俺達は再び帰路へと就いた。


「ん?」


 俺達は10mはある大きな横穴の片側を地下河川に掛かる石橋に向かって歩いていた。その周囲に強い生き物反応は無い。無いのだが、妙な不安感を感じた。何かあるのか。


「止まれ。」


 俺は他の者達に呼び掛けた。何処だ。理由を問いた気な視線を無視して周囲を必死に探す。すると先頭、壁側を歩くインゴのさらに壁側、蟻地獄の様な砂と言うか砂利の窪み、とはいえ2mの巨大蟻を引き込む様な大きなものではなく、その半分程度の物があった。

 これまでもそんな物は沢山見て来たので、危険を感じなければ無視してた。だが、今はそれがとても気になり緊張する。インゴは自分が見られているのと思ったのか、こっちを見ている。何だか分からないが、とにかく離れさせよう。だが、その判断は遅かった。


「そこから離れろ。」


「何だよ。」


 俺とインゴの言葉は同時に出た。だが、その時砂利の山から曲刀が飛び出し、インゴの背中から肋骨の間を通す様に差し込まれて腹からその切っ先が突き出した。


「きゃあ~~~っ!」


 エラの悲鳴が洞窟内で響く。何故、この男に気づかなかったのか。待ち伏せ等をしている奴だから、探知スキルを()(くぐ)る隠密スキルの様なモノを持っているのだろか。


「フリーダ、牽制しろ。ヨーナスはインゴの手でも足でも引いて、引き離せ。」


 びゅん。


 蟻地獄から飛び出した男が、何かを俺に投げ付けた。今度は探知スキルがきっちり反応したので、俺はそれを()ける事が出来た。その男は体中傷だらけで、左腕と右足は変な方向曲がっていた。その男は長髪だったが、血だらけ埃だらけで元の色は分からない。そして目をギョロつかせて、歯を剥き出し、口からは涎を垂れ流すその表情は、まさに怒り狂っている事をありありと示していた。


「てめぇ~~~らっ、ふざけんじゃねぇ~~~ぞぉ!

 さっさとお前らが俺達に殺されないから、ローマンまで死んだじゃねぇか。

 何をしたのか分かってるのか。あああっ!」

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