俺は商人です、傭兵じゃないんです
はあぁ!? 何で褒美が労働なんだよ。そこは金だろう。もしくは貴族家の女子は命を助けられた相手に、体で返さなければならないと言う様な家訓はないのか。当然、騎士達や執事からも反論が上がる。
「お嬢様、こんな襲撃があったばかりで、そんなどこの馬の骨とも分からない者を。」
「そうです。褒美には銀貨の数枚も渡せば十分です。」
そうだ、そうだ。俺もお前と一緒なんて嫌だ。金の方がいいぞぉ~~~。
「恐れながら、私はしがない行商でして。
とても貴女様のような高貴なお方のお供など、恐れ多い事です。
どうかお許し下さい。」
「ほう、お前は私に逆らおうというのか。」
お嬢様がネズミをいたぶる猫の様な表情をする。怖ぇ~~~。逃げてぇ~~~。
「とんでもございません。
ただ私なんて、剣の腕もなく、知識もなく、礼儀も心得ていませんので、
とても貴女様のお役に立てそうもないと存じますが…。」
「外から飛んできた矢を避けられるのに、 ただの商人だというのか。
あのボケナス共よりよっぽどマシだと思うがな。」
「たまたま見えただけで、ございます。」
ボケナスと言われた騎士たちの、俺に対する視線がすげぇ~~~冷たくなっている。っていうか殺気立っている。なんで、このお嬢様は人を煽るの。そういう病気なの。
「平民が貴族の女子に触れるのは死罪でもおかしくないのだが。
知っておるのか。」
この野郎ぉ~~~。後ろで騎士達が剣を抜いている。
「そ、それはお嬢様のお命が懸かっておりましたので、
失礼ながらお守りした次第でして・・・。」
「私の供をするというなら見逃してやっても良い。」
チーーーン。終了。
「私で良ければ、喜んで。」
それを聞いてお嬢様は満面の笑みを浮かべた。だって、そう言うしかないだろう。何これ。何これ。強制イベントなの?逃げられないの?
俺はこの街で冒険者ギルドに行き、冒険者登録し、最下位のFランク冒険者となった。商人ギルドではなく、冒険者ギルドだ。詳細は省くが全てお嬢様の指示だ。そしてその場でお嬢様の出した、この街から王都までの護衛依頼を引き受けさせられた。
普通、貴族から登録したてのFランク冒険者に指名依頼が来ることはないらしい。だが冒険者登録も指名依頼も、全てお嬢様の指示で行われ誰も異論を挟む事が出来なかった。冒険者ギルドは国をまたいだ組織らしく、途中で逃げたりすればこの国からだけでなく、かなり遠方まで逃げなければいけなくなる。これにより俺はガッチリお嬢様に縛られる事になった。明確に命の危険がある仕事に強制従事というのは、ブラック企業よりも酷いのではなかろうか。
全く何で俺なんだ。おっぱいに顔を突っ込んだから、デレたのだろうか。いや、デレてない。お嬢様の俺を見る目は、満腹の猫がネズミを見つめる様な目をしている。生かすも殺すもお嬢様次第。ここで勘違いしたら、物理的に首が飛ぶ。何でこんな事になったんだか。異世界転生直後の強制イベントで選択権無しって、結構珍しいんじゃないだろうか。せめてお姫様を助けますか、と言う様な選択肢が欲しかった。いや、終わった事をアレコレ妄想しても仕方ない。まずは生き残る事を考えよう。ふう。
俺の雇い主たるお嬢様は、ジークリンデ・ゴルトベルガー。ゴルトベルガー伯爵の三女。自領から王都にいる父に呼ばれて向かう最中らしい。襲撃者の心当たりは、お前が知る必要はないそうだ。王都まではあと10日の距離らしい。そこまでお嬢様が無事たどり着けば、俺は金貨10枚(日本円で100万円相当)の報酬が貰える。
高ランク冒険者ならそうでもないのかもしれないが、Fランクで10日で金貨10枚は結構高額である。あの一番若い騎士、名前をアルノー君というらしい、が「こんな下民に」と言っていたが、お嬢様に麺棒で殴られていた。アルノー君はきっとMなのだろう。まあ、今日の襲撃をみれば、きっとお家騒動か何かでこれからも襲撃が確定しているから、危険手当的な意味で高いのだろう。何故、どこの馬の骨とも知れない商人を護衛に付けるか疑問はあるが。
俺はお嬢様に、攻撃力皆無なんですが、とはっきりと訴えたが、今はそれを後悔している。王都までの道中、時間があれば騎士に訓練を付けられる事になった。口は災いの元だと思う事しきりである。