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棺の中

 ガリ、ガリガリ、ガリ


 臭い。魔物の口は臭いと聞いたことがあったが、大型犬の十倍はありそうなケルベロスの口は犬の百倍は臭かった。俺の目の前の犬はその臭い口を三つも近付けて、俺の隠れている岩の裂け目に牙を立てて広げようとしている。

 そして足が痛い。片足の足首から先が千切れているのだから当然だが、きっと血もいっぱい流れているだろうし、顔も涙と涎でベショベショだろう。狭い岩の隙間に身を沈め、恐ろしい魔物に蓋をされ、まるで棺桶の中にいるようだ。


「ウーッギャーァッ」


 俺は時々、悲鳴を上げる。演技をしているわけじゃなくて、むしろ我慢をしなければ悲鳴が上がってしまう。何度も悲鳴を上げる俺に、ケルベロスは俺が何か叫んでも気にしなくなっているだろう。俺の探知スキルにはヤスミーンとミーナが近付いて来たのが見えた。


「俺には牙は届かない、岩の隙間に入ってる、じっくり狙え」


 俺は悲鳴に二人へのメッセージを混ぜる。俺は二人がそっとケルベロスの背後に近付くと、より一層大声を出して二人の気配を隠そうとする。すると、真ん中の首がピクリと動いて背後を見た。恐らく、二人の姿が見えたのだろう。


「「グギャァァッ」」


 左右の首がそれぞれ左右へと振り返ると、そのタイミングで槍と小剣がそれぞれの首元を下から刺し貫いた。二つの口から悲鳴が上がるが、それで死ぬことは無いようだ。ケルベロスは出鱈目に暴れるが、それをミーナが俺から離れるように誘導する。

 怒り狂ったケルベロスはきっと俺の事など頭から無くなっているだろう。


「レン様、足が」


「街に帰れば、神殿の魔法か魔法の薬で治るかもしれない。気持ち悪いだろうが、俺の足も探して持ち帰ってくれ。ヴァルは向こうの隙間に隠している」


 ヤスミーンは俺の足を見て顔を青くして、いや真っ暗な洞窟の中でランプの明かりだけじゃ分からないが、とにかく心配した声を上げるが、俺は移動を促した。片足首の無い俺と、意識の無いヴァルブルガをヤスミーンが押したり引いたりして、隠し通路から俺達を連れて行こうとする。

 途中で気づいたヴァルと協力してヤスミーンは俺に手を貸して移動を助ける。俺達はケルベロスが通れない狭い横穴を辿って迷宮の出口に向けて進んで行く。探知スキルで見るとミーナはケルベロスを引き離したようだ。ケルベロスは目標を失って、徘徊している。

 ニクラスとクルトはまだ生きている。フンババも健在のようだ。ここからだとそれ以上は分からない。オグウェノまで意識を飛ばすのはしんどいので、まずはニクラス達との合流を目指そう。俺達は心臓の間へ行く前に、ヤスミーン達と別れたところまで戻って来た。


 岩陰で俺の足を縛って血止めをしていると、ミーナが戻って来て合流できた。探知スキルで調べたケルベロスとの距離は十分離れていた。ミーナがここに戻るまでに大きく迂回してくれたお陰だろう。それでも音や血の匂いで気づかれないよう、早く離れた方がいいだろう。

 止血の終わった俺はヴァルブルガとヤスミーンの肩を借りてニクラス達の方へと近付いて行く。俺達はニクラスの近くまで行くと、少し距離をおいて様子を窺った。そうは言ってもランプの明かりは届かないので、それが見ていているのは俺とミーナくらいだろう。

 フンババがクルトを殴るとクルトが吹き飛ばされて転がっていく。だがそのタイミングでニクラスが斧槍を突き立てたようで、致命傷は避けらる。ニクラスが斧槍でフンババとの距離を取っていると、クルトが手放した鉄の大槌を拾って戻って来ると、フンババに叩き付ける。フンババの体が揺れる。


 ニクラスの横槍もあるので一対一ではないのだが、クルトとフンババの殴り合いはまるでプロレスのように受けては起きて、叩き返すように続く。探知スキルにはクルト、フンババ、そしてニクラスも全身の表面に裂傷ができ、痣で腫れ上がっているのが分かる。

 そしてニクラスが足に力が入らないように態勢を崩した時、フンババの裏拳が彼にヒットして吹き飛ばされて動かなくなる。そして次のフンババの一撃がクルトに叩き付けられ、彼を崩れ落ちさせた。フンババは倒れる二人をしばし見ていると、クルリとこちらに顔を向ける。

 のっし、のっしと前傾姿勢で四つ足を使って近付いて来る。そして俺達に前足が届く程のところで止まると、そのゴリラ顔がニヤリと笑う。次の瞬間、後ろから横薙ぎに振るわれた鉄の大槌によって頭を殴られ、フンババは倒れた。


 その後ろには満身創痍のクルトが、大槌を杖代わりにしがみ付くように立っていた。


「クルト、よく」


 俺がそこまで言った時、クルトは杖を捨て俺に跳びかかって来る。俺はヴァルとヤスミーン共々、クルトの下に引き倒された。いてぇ。何だ、と思う前に俺は探知スキルで周囲を窺う。クルトのさらに上に三つ首の大犬の姿があった。

 くそ、足が痛くて探知スキルに集中出来なかった。隙を突かれて近付かれていたか。いや、それよりもクルトの背中の肉がゴッソリと抉られていた。クルトがケルベロスを押し退けて上半身を起こす。俺達も半身を起こすと、クルトと目が合った。


「メシ、うまい、アリガト」


 それだけ言うと、クルトはそのまま仰向けに倒れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クルトが乱心したのかと。ごめんよクルト
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