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襲われた貴族令嬢には、関わりたくない

 俺が入り口に目を向けると、騎士っぽい男数人を先頭に金髪縦ロールのお嬢様がこの酒場に入ってきた。縦ロールなんて2次元の女の子や名古屋のお嬢様をネットで見たくらいで、生では初めて見たぜ。


「申し訳ありません、お嬢様。

 しかし、このような街道の途中では、これが精一杯でございます。」


 執事っぽい壮年の男が、土下座をしそうな勢いで詫びている。店の中にはお嬢様と執事の他に、騎士が5人、メイドが2人。入口の外に御者か下働きっぽいのが3人、全員で12人か。お嬢様は高慢そうだし、関わりたくないな。

 俺は目を合わせないよう、下を向いてスープの中の干し肉を口に放り込む。お嬢様達はドカドカと酒場に入ってくると、酒場の半分以上を占拠して食事を始めた。お嬢様は先ほどの執事同様、凄い剣幕で酒場の主人や給仕の女の子の事を(しか)りつけている。嫌だ、関わりたくない。こっそり他の客の様子を見渡す。他の客もお嬢様達からは目を()らしている。


 ん?


 何だか店内に不穏な空気が漂っている。1、2、3、・・・、10人。まだ、店内の男達は武器を抜いた訳ではなく、淡々と食事を続けているが、明らかにお嬢様達を狙っている。あれ、中立勢は俺の他、給仕の女の子と、お爺さん一人と商人っぽいおじさん2人だけ。店主も襲撃側か。なんかこの勢力図が分かるのが、俺の『探知』スキルっぽい。特に何も意識しなくても分かるのは、ゲームで言うパッシブスキルというやつか。お嬢様達はまだ気づいてない。

 うへっ、逃げてぇ~~~。でも、今出たらめちゃくちゃ怪しいよな。っていうか、俺が動いたらそれがトリガーとなって戦いが始まりそう。俺は息を潜める。脱出経路は2つ。騎士達と、襲撃者の間を通り抜けて入口まで駆け抜ける経路が一つ。戦いが始まれば激戦が繰り広げられそうだ。もうひとつは、カウンターを越えて、店の奥に入り、裏口から抜ける経路。こっちの方が距離は短いが例のお嬢様のすぐ横を通る事になる。下手に近づくと襲撃者の一味と間違われ、攻撃される可能性がある。なんでだよ。いきなりピンチじゃねえか。そんな事を考えていたところで、お嬢様が店の食事に文句を付ける声が聞こえ、それに襲撃者が立ち上がる。


「ふん。やっぱり、こんな街じゃ、こんなものか。」


「おいおい、どこのお嬢様か知らねぇ~が、よそ者が人の街の飯にケチ付けるんじゃねぇ~よ。」


 襲撃者の一人が立ち上がり、お嬢様へと近づく。まだ武器は抜いていないが、騎士達が立ち上がり行く手を阻む。


「この下賤な(やから)がぁ。

 それ以上、お嬢様に近づけば斬り捨てるぞ。」


 それに呼応する様に他の襲撃者達が立ち上がる。


「何だと、よそ者が偉そうにしやがって。」


「そうだ、そうだ。」


 上手いな。まだ、騎士達は男たちが最初から殺気満々で殺しに来ているわけではなく、喧嘩のつもりだと思っている。男達は十分近づいてから抜剣するつもりなのだろう。一部の男達は難を逃れようとするフリをして回り込もうとしているし。


「この野郎ぉ~~~。」


「貴様ぁ~~~。」


 ああ、始まっちゃった。俺は、う~~~ん、入口までの経路は危険だし、裏に逃げるのはお嬢様の横を通る時が危険そうだし。あっ、今一瞬、お嬢様と目が合っちゃった。やべぇ~~~、思いっきり目を()らしたから凝視されてる。どっちも今逃げるのは危ないから、壁際に寄って大人しくしよう。

 お嬢様はメイドと執事にガードされて部屋の隅へと下がり、騎士達がその周囲で襲撃者と斬り合っている。騎士は奮戦しているが、一人につき襲撃者2人が取り囲んでいるので簡単には勝負が付かない。入口の方からも物音がするので、あっちにはまだ仲間がいるのだろう。お嬢様が部屋の隅に下がったので、このタイミングならカウンターを乗り越えて裏口から逃げられそうか。よっし、行くぞ。


「ひぃいぃぃぃ~~~、俺は関係ねぇ~~~。

 逃がしてくれぇ~~~。」


 わざと情けない声を上げて、手を挙げて裏口へ走り込む。


「貴様、動くなぁ~~~。」


 騎士の一人が俺に制止の声を上げるが、襲撃者に阻まれて動けない。襲撃者達は俺を確認するが、進路を確認して無視することに決めたようだ。


「ガハッ。」


 あっ、俺を制止しようとした騎士が斬られた。騎士の陣が崩れ、一部の襲撃者がお嬢様へと殺到する。


「きゃぁぁぁ~~~っ。」


 悲鳴を上げたのはメイドだ。やべぇ、今崩れると、俺の逃走経路が塞がる可能性がある。一気に行かなくては。


「ぐほっ。」


 今のは俺の声だ。俺はカウンターを乗り越えようとして、メイドの間を潜り抜けて迫ったお嬢様に掴まれ、カウンターから引き落とされた。俺は急いで周囲を見回し、お嬢様を下から見上げる。


「な、何をするんだ。

 俺は関係ねぇぞぉ。」


「おい、商人。お前は私の盾になれ。」


 襲撃者が近づく中、俺の(そば)では口角をやや吊り上げながら冷たい目で俺を見下ろすお嬢様が、しっかりと俺の鞄のベルトを握っていた。嫌だぁ~~~、逃がせよぉ~~~。俺は関わりたくないのに、この女自分から(から)んできやがった。

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― 新着の感想 ―
面白そう!
[良い点] こんにちは! 拝見させて頂いております。 [気になる点] う〜ん、 このお嬢様わかりやすくクズですね〜 それとも世界観的に、 平民は貴族(じゃないかも?) の為に役立って師ねってヤツでしょ…
[良い点] 回避 [気になる点] 会話文の「〜」と文末に句読点が付いているのがずっと伝統芸能を見ている気分
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