恐ろしき女騎士
ヴァルブルガのポンコツぶりを不安に思った俺は、冒険者ギルドの訓練場で少し試してみた。素振りした事しかない俺とはいえ、彼女は俺の槍を全て難なく剣で捌けていた。案外頼りになりそうだった。
ちなみに彼女に俺を攻撃させる事はしていない。俺の防御なんて知れているし、だからこそ彼女には俺を守っても貰おうと思っているからだ。
彼女の技量を確認して安心した俺は、彼女を連れて大通りを歩いていた。今は、午後3時ぐらいだろうか。この国でも1年は12ヶ月で今は6月くらい。だが日本ほど雨は多くなく、特に今日は快晴で少し暑い。少し喉が渇いた。
カフェの様な物は無い様だし、露店で果物ジュースを買って適当な広場の隅に腰を下ろして一息つく事にした。
「ご主人様、ありがとう。私にまで飲み物を頂いて。
その、これから宿に行って、と、伽をするのだろうか。
私は、とっくに覚悟は出来ている。」
「うん、ちょっとそれはいいや。」
昼間っから公衆の面前で伽とか言うんじゃねぇ。っていうか、ヴァルの傷って結構酷くて、顔を見ると萎えるっす。
俺が素っ気なく答えると、絶望したような顔をしている。そう、漫画なら目の上に縦線が入る様な顔である。
何気なく周りを見回すが、この広場で今働いている人間は僅かで、割と日陰に座り込んで休んでいる人が多い。
ん、何だ?
もの凄いプレッシャーだ。息をするのがキツイ。もし今、立っていたら膝を突いてそうだ。これは探知スキルのせいか。だとしたら物凄い危険なヤツが近づいているのか。いる、そいつは近づいてくる。
「ご主人様、大丈夫か。顔が青いぞ。」
「…大人しくしていろ。」
心配して声が大きくなるヴァルブルガだが、今は目立ちたくない。俺はヴァルの襟首を掴んで、屈ませる。俺は自分も顔を下に向つつ目の端で、そいつがいるであろう方向を見る。
広場に入って来たのは役人の様な小ぎれいで質の良さそうな服を着た男と、白い服の上に金属鎧を着た騎士風の女だ。男はこの国でもよく見る様な風体だが、女はこの国の者ではない気がする。この国の人間は俺も含めて欧米人っぽい人種だが、その女はアラブかインドの様な少し彫りが深く厳めしい顔をしている気がするのだ。まあ、俺自身アラブ人とインド人の差は分からないが、何となくそんな感じだ。
女は広場を見回しているが、別に目当ての物がある訳ではなさそうだ。そして男と話しながらゆっくりとこちらに近づいて来る。何を話してやがるんだ。いや、聞きたくない。
「魔王の復活が予言された今、人類は団結して立ち向かわねばならないのに。
貴国は楽天的を通り越して無警戒過ぎる。いっそ、哀れです。」
「止めて下さい、ワヒーダ様。こんな往来で。
我が国では、貴女方の言う魔族ですら見た者はいないんですよ。」
「教皇様は、世界の為に備えよと仰せです。
神の戦士となる事こそ人の使命でありましょう。」
「それは貴女方の神でしょう。」
「神は唯一です。
貴方がたの神も唯一の神の一面でしかありません。」
「何故、そんな事が言えるのですか。」
「それは私が聖堂騎士『比類無き』ワヒーダだからです。」
俺とヴァルが顔を伏せる前を男と女騎士が通り過ぎていく。何だか知らんがコイツ等、いやこの女と関わり合うのはマズい、危険すぎる。行け、早く行ってくれ。
「ここで言っても始まらん、話でしょう。」
「そうですね。議長殿にはよろしくお伝え下さい。」
やった、通り過ぎた。背中が汗でビショビショだぜ。
「ご主人様。あの女、魔王って。
本当にいるなら、戦ってみたいですね。
あいてっ。」
嬉しそうに不穏な事を言うヴァルブルガの頭を、俺は思わず叩いた。馬鹿野郎、率先して厄介事に巻き込まれに行くな。そしてヴァルの声にあの女が足を止める。いやーん、止めてーっ。
「ほう、ここにも神の戦士がいたか。」
嬉しそうに振り返る女騎士。マズイ、マズイ、マズイ。何とか誤魔化さなくては。
「すいません。コイツ、ちょっと頭が弱いもので。
私達はしがない行商人で、とても騎士様のお役に立てる様な者じゃありません。」
だが、会話を打ち切りたいのは俺だけではない様だった。
「ワヒーダ様、お急ぎ下さい。
次の会合までお時間がありません。」
「む、そうですか。
少し惜しいですが仕方ありませんね。」
女騎士を先に促し、役人風の男は小声で俺に言った。
「商人よ、今聞いた事を言いふらせば、騒乱罪で逮捕するぞ。
口を噤んでおれ。」
「はい、勿論です。」
やった、厄介事が去っていったぞ。こうして俺は危険なフラグを叩き折った。折れたよね。




