父上
「あ、お前。もしかしてルーガか?」
「ルーガだって? オヤジ、そいつはルーガなのですか?」
ヴァルブルガの父親らしいアンスガーという男に続き、店員に連れて来られた男のうちさらに一人が声を上げた。
「兄さん、ディーデリヒ兄さん」
今度は兄貴だと。そしてヴァルの奴、家では名前の後ろを取ってルーガ呼びなのか、うごうご。そして父親も兄貴もデカイ。父親は無造作に黒髪を腰まで伸ばしたハリウッド映画の蛮族の王様風のゴリマッチョ、兄貴は短い金の短髪の映画の米空軍エリートパイロットのようなイケメン細マッチョだ。
父と兄と話し始めるヴァルブルガ。勝手に話し始めた奴隷達を店員のアルミンが止めようと動き始めたが、俺が手を挙げてそれを抑える。もう会う事も無いと思っていただろう家族に会えたのだから、それを止めるのも無粋だろう。
向こうを放っておいて、俺はアルミンに彼らの値段を聞いた。父アンスガーは金貨二百枚(約二千万円)、兄ディーデリヒは金貨百五十枚という。日本でならランボルギーニとかポルシェの値段だろう。高額ではあるが歴戦の戦士の値段なら妥当とも思える。見るからに強そうだし。
また彼らの来歴を聞いてみると、ここカウマンス王国と北の鉱石の豊富なラウエンシュタイン王国の最近の領地争いで負けて捕まったそうだ。この辺の経緯はヴァルと同じである。さらに聞いてみると、まだ少年二人と奥さんもいるらしい。
俺はここに呼んで買う流れになる前に、残りの三人の値段も聞いてみる。十五歳くらいの少年が金貨七十枚、十三歳くらいの少年と奥さんがそれぞれ金貨四十枚という。彼らが戦えるのか聞いてみると、アルミンは十分戦えるというがこの辺はヴァルに聞いてから判断しよう。
家族を全員買うなら金貨五百枚(約五千万円)か。十五の少年がベテランのニクラスと同額と思うと高いとも思う。しかし奴隷に対して奴隷紋や魔法の首輪のような強制力がない世界で、家族丸ごと購入して別々に配置すれば、嫌な言い方だがいざという時に人質として強い戦士も従わせられるだろう。
そんな事を考えているとヴァルが父と兄と一緒にこちら来た。
「ご主人様、こちらは私の父アンスガー。ラウエンシュタイン南部国境では『鉄狼』と呼ばれて恐れられていました。こちらは兄のディーデリヒ、同じく『金の若獅子』と呼ばれていました。身内贔屓ではなく二人ならご主人様のお役に立てると思います。」
ヴァルがそう言うと、アンスガーが俺に握手を求めて来た。
「アンスガーだ。ルーガの面倒を見てくれたようで感謝する。
何やら大仕事があるようだが、よければ俺を使ってくれ。
それと、その。ルーガとはヤッたのか」
「ヤッてません」
握手をしながら聞いて来る最後の言葉に、俺は被せ気味にハッキリ言った。
「あー、まあ、あの傷なら仕方ないか」
「オヤジ、会うなり衆人の前でそれはないだろう」
「だって、父親としては気になるだろうがよ」
手を離すと、アンスガーとディーデリヒがそんな事を言い始め、ヴァルは恥ずかしいのか落ち込んだのか下を向いている。しかし自分の娘とやったかとか、顔の傷のせいでやる気になれないとか、本当にデリカシーがない。そこで笑い声が響いた。
「グヒヒヒヒッ。
狼に獅子か。いや、せいぜい野犬に山猫じゃないのか。
だったら俺が狩人になってやるよ。
ウォーン、ウォーン。ニャー、ニャー」
そう言ってニヤニヤ笑いを浮かべているのは、二メートルを越えるクルト並みの上背がある巨漢ジルヴェスターだ。ただしクルトと違って体は引き締まり、動きは速そうだ。彼が笑うと獰猛な虎が笑っているようにも見える。アンスガー達と喧嘩しそうな雰囲気にアルミン氏が慌てて止めた。
アルミン氏によればこの男はある貴族の私兵だったそうで、命令をあまり真面目にこなさず、ついに堪忍袋の緒が切れた貴族に売りに出されたそうだ。強さだけなら金貨二百枚でもおかしくないが、その辺の欠点込みで金貨百五十枚になっているそうだ。
「おいおい、酷い中傷じゃーないか。
さっきはつい、からかっちっまたが、俺は真摯で真面目と評判なんだぜ、大将」
俺は大虎の言葉に肩を竦める。その時、一人の女が俺に厳しい目を向けている事に気づいた。その女は女にしては180センチ近い長身で、スタイルの良い引き締まった体のハリウッド女優のような美女だった。アルミン氏によればマニンガー公国との国境紛争で捕まった女性騎士らしい。
「私の剣が必要だというならそれを貸そう。
だが体を求めるなら私の剣が貴殿の心臓を一突きにするだろう」
「グヒヒヒヒッ。
おい、大将。この女をヤッちまいたいなら、俺が手を貸すぜ」
物騒な女だ。正直怖い。その体は魅力的だが、たぶん素手でも俺なんて瞬殺だろう。彼女はその美貌も加味して金貨百八十枚という。そして大虎はゲスい。いや、何でも絡んで来るのは結構かまってちゃんなのかもしれない。
「お前達、強い。でも獅子を倒したことないモノ、勇者と言わない」
そして最後の一人オグウェノがそう言った。彼はこの辺の国の人間ではなく、地球で言えば黒人に近い人種のようだ。彼は二メートル近い長身だが細く引き締まり、そして手足が異常に長かった。彼は言葉が通じづらいのが欠点だが、カタコトなら喋れるようで金貨百二十枚だそうだ。
俺は5人の特徴を聞いて少し話した後、購入を保留して次の5人を呼んでもらった。