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まろ

 本来なら貴族の館を訪れる際、アポイントメントを取るべきだろうが、じゃあ誰を行かせるとなると下手な者に任せるとそれも攻撃材料にされかねないので、俺が直接向かうこととした。これで今回は約束だけで会うのは後日、となってもそれで構わない。こちらは誠意を示すだけだ。

 そして昼までまだ2時間はあるくらいにエスレーベン子爵邸に訪問したが、何気に周囲の屋敷と比べると微妙に狭い屋敷だった。それでいて庭にちょっと詰め気味に人物や鳥獣の石像が置かれたり、門にはギュウギュウに意匠が飾られたりしていた。うん、予想通り品がないね。

 門で呼び金を鳴らして待つと、少しして慌てて一人のメイドさんが出て来た。何というか、イジメられてるのかと思うほどボロい服を着ているが、使用人の服が自分達の格を下げるとは思わないのだろうか。きっとそういうところは惜しんでいるのだろうな。


 要件を伝えると門の外で1時間近く待たされ、アルノー君の愚痴に疲れて来た頃に応接室ではなく、使用人の待機部屋と思われる部屋に通された。そこへ行くまでに屋敷内を見ていると、廊下も狭いわりにゴテゴテ色々と飾られ、まるで使用人に粗相をさせるのが目的かと思うほど、高そうな壺が飾られていた。

 きっとここの主にとっては屋敷は自分の物だから煌びやかに飾り立てようとするが、使用人の服は自分の物ではないし、むしろみすぼらしくした方が貴族である自分達を引き立たせるとでも思っているかもしれない。その証拠にこの使用人待機部屋は、ここだけこれまでの廊下と違う世界のように貧相だ。

 そしてお茶1つ出ること無くさらに5時間待たされた。朝から待たされてばかりのアルノー君は怒り心頭だが、本来の使用人達は決してこの部屋に来ること無く、自然その矛先は俺と向かう。俺がウンザリしているとやっとメイドさんが迎えに来た。


「子爵様が10分だけ話を聞いて下さるそうです」




 その部屋に入った俺は度肝を抜かれた。応接間かと思ったが、奥まで赤い絨毯がしかれ奥に豪勢な椅子が置かれたその部屋はまるで玉座の間だった。金糸などをふんだんに使い、特に大きな椅子にはでっぷりと太った狸のような男が座っていた。しかも眉を剃って丸く描いていた。


「妾の子とはいえ、麿(まろ)の娘を嫁にしたいとはそちかえ?」


 マロって言ったよ、マロって。リアルに言う人初めて見たよ。そして嫁にしたいなんて一言も言っていないが、伯爵に勝手に決められたんだけどね。


「お初にお目に掛かります。私、トルクヴァル商会のレンと申します。

 今回は伯爵様の取り成しで」


 俺がそこまで言ったところで、玉座の隣の同じくらい豪華で少し小さいと言うか細い椅子に座った、不気味なほど肌を白く塗りたくった女が口出す。


「あーたの名前なんてどーでもいいざまーす。

 あの汚らわしい娘は、あーたにやってもいいから出す物を出すざまーす」


 ざます、だと!? そして外面も取り繕う事無く直球で金の無心をして来たよ。


「ねぇ、ねぇ、パパ、ママ。

 ボクチン、マニンガーに別荘が欲しいじょ」


 さらに玉座から1段下がったところ、やっぱりちょっと豪華さの下がる椅子に20歳くらいの青年が座っていた。だが、その青年は年齢に似合わず知性を感じさせない顔つきをしている。そしてボクチンと自分を呼んでいる。


「きょきょきょ、そうかそうか可愛い坊や。

 では、そち。まずはマニンガーの別荘代を出しておけ。


 話はそれからじゃ」


 ゲロゲロ、コイツ等キモイ。はあ、はあ、ここに長くいたら死んでしまう。というかこの部屋、汗と脂と香水の混じったキツイ匂いがする。結局、俺は予定通り資金力の無い弱小商会である事をアピールし、金貨5枚を献上してから後日また金貨5枚を送ることにして逃げ出した。

 というか10分と言ったのに、気持ちの悪い掛け合いを1時間も立ったまま見せられて、それでいて金だけ毟り取られた上に少ないだの何だのと文句を言われ、結局お茶一つ出ること無く会見は終わった。こんな状況、アルノー君が怒りだすかと思ったが、寧ろフリーズしていたし、あちらは俺以外見ていなかった。

 何にせよ、これで王都に来た一番気が重い用事は済んだ。探知スキルとは別の意味でゴッソリ精神力を削られたが、あとは奴隷商に行って戦力になりそうな奴隷がいるかどうか見るだけだ。本当は今日中に奴隷商も行くつもりだったが、疲れたから明日にしよう。




「ぴょっこ~~~ん、いらっしゃいまっしぇ~~~。」


 翌日、以前ヴァルブルガとクルトを買った奴隷商会を訪れると、その時の店員が以前と同じように甲高い声を上げて現れた。パイナップルのような髪型の、腹だけ膨れて手足の細い奇妙な体躯の店員だ。


「私、当ツェッテル商会のフロアサブマネージャー、

 代理補佐見習い次席をしておりますアルミンと申します」


 登場から一転、いきなり渋い声と真面目な口調になるのも前と同じだ。役職も同じだったかは覚えてないが、そんなペーペーっぽい感じだったと思う。そして強い方から10人の奴隷を見せてくれと頼むと、まずは5人の男女が連れて来られた。


「ふん、俺はアンスガーだ」


「ち、父上」


 最初の偉丈夫が不貞腐れた様に口を開くと、ヴァルブルガが息を呑んでそう漏らした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 貴族と言えどピンキリよねえ てかこの子爵家なんで没落してないんだろうか? 人生山あり谷ありやね、親が奴隷で出て来たのはどっちだか知らんが
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