この、馬鹿力がっ!
今日、俺は奴隷商会から買った大男クルトを商会から連れ出した。クルト購入時の担当、パイナップル頭のアルミン氏は「今日、お持ち帰りですか」なんて言っていたが、「夕方には一度戻すよ」と言っておいた。
何をやっているかと言えば、クルトの試運転とコイツの旅の準備だ。何しろ格安商品だ。どんな不具合が出るとも限らない。そして物凄く不本意ながら、この醜い大男とデートの様に街を練り歩いている。ヴァルも一緒に連れていこうとは考えなかった。知らない人間を2人も、特に問題のありそうな2人を連れていけば、不測の事態も2倍になる可能性がある。そんなリスクは許容出来ない。
そして予測通りに不測の事態が起きた。クルトは頭が悪過ぎた。まず指示を理解するのに時間が掛かる、次に指示に従うか迷う、最後に指示を実行するのに時間が掛かる。正直、俺が主人である事を覚えているかが怪しい。
「ちょっと、あんたの奴隷がうちの芋を食ってるんだよ。
金はちゃんと貰うからね。」
「す、すいません。
このぉ、クルトぉーーーっ、何してやがる。
(バシッ)
い、痛ってぇーーーっ。手の方が痛てぇ。」
「ブモォ?」
またいつも腹を空かせている上に手癖が悪く、食べ物が目に入ると取って食べてしまう。そのせいで何度も露店に金を払う必要があった。とりあえず、今日のところは食べ物屋の近くは通らない様にし、今後は街中では覆面でも被せて目隠しをするか。
だがこれは使える特性でもある。指示に従えば食い物を渡す、このやり方で躾ける事が出来るかもしれない。
さらに古着屋でも一悶着あった。クルトに合う服が無いのだ。大きめの服を割いて、布を貼ってはどうかと言われた。古着なのに上下で銀貨40枚(4万円)も掛かると言われた。安めのリクルートスーツか。シャツとズボンだけなのに。今日は貫頭衣をそのまま着せて、服は合流した時に着させよう。そして貫頭衣も着替え用に取っておこう。
だが、期待通りの長所もあった。こいつのパワーには任せてもいい。
「こいつに丁度良さそうな。武器はありますか。
あまり金も掛けられないし不器用そうだから、
棍棒みたいな単純なのがいいと思うんですが。」
俺は武器商にクルトを連れていくと、店主にそう問いかけた。鍛冶屋ではなく、販売だけをやっている店だ。
「随分、でけーな。
こいつなんてどうだ。銀貨30枚だ。」
武器屋は、長さが1.5m程、太さが俺の二の腕程の木の棒を持ってきた。片側は滑り止めなのか革のバンドが巻いてあり、もう片側はバットの様に持ち手より少し太くなっており鉄のプレートで補強してある。
「こいつで試し切りというか、何かを叩いてみる事は出来るか。」
「おいおい、俺を信用できねぇ~ってんなら、帰りな。」
「そういう訳じゃないんだが、コイツ結構力ありそうだから。
直ぐに折れるようじゃ、しょうがないだろ。」
「もっと頑丈ってんなら、金属をもっとガッチリ巻いた奴とか、
全部金属の奴とかもあるけど、結構するぜ。」
むむ、銀貨30枚(3万円)でも高いのに。でもすぐ折れたら意味ないしな。俺は棍棒を受け取ると、両手で掴んで曲げようとしてみた。硬くてピクリともしない。クルトをチラリと見る。明後日の方を見てボーっとしている。俺は不安に思いながらも、クルトに呼び掛けた。
「おい、クルト。
これを・曲げて・みろ。ゆっくり・だぞ、ゆっくり。」
そう言いながら、俺はクルトに棍棒を手渡し、曲げるジェスチャーをする。
「もし、折ったら買取だからな。」
武器屋の主人が嫌な事を言う。だが、試さねばなるまい。何度かクルトに繰り返し言うと、クルトが棒を受け取り曲げ始める。あっさり曲がり始めた棒を見て、俺は慌てて止めた。
「ストーーップ、止め止め、止めろ。」
バキッ。
現実は無情だった。武器屋の親父が追い打ちを掛ける。
「お買い上げありがとうよ。」
クルトは不思議そうな顔をしている。俺は心で泣いていた。その後、より補強された棍棒を買った。合わせて銀貨90枚(9万円)。本当は銀貨100枚(10万円)だが、さすがに哀れに思ったのか店主が負けてくれた。この棍棒でも不安だが、総金属は桁が違うので諦めた。
棍棒はクルトに背負わせる。元々2m超えの上に凶悪な人相で威圧感があったが、棍棒を背負わせると凄い怖い。まあ、目論見通りではある。俺だったらこんなの連れている奴に、喧嘩売ったりしないぜ。
今日はここまでにして、クルトを奴隷商会に戻した。商会のアルミン氏はもの凄く残念そうな顔をしていた。




