ヴァルブルガ
俺はアルミン氏にヴァルブルガの事を聞いてみた。
ヴァルブルガは北の国ラウエンシュタイン王国の男爵の次女だったらしい。彼女は騎士としてここカウマンス王国との小競り合いに参加し、捕虜となった。女が戦場で捕まれば酷い目に遭いそうだが、貴族だったので身代金目当てに無事なまま交渉の場まで連れていかれた。
カウマンス側は父親である男爵と身代金の額の同意も得ており、後は引き渡すだけと考えていたが、引き渡しの場で彼女の顔の傷を見た父親は支払いを拒否した。彼女の実家は、嫁に出せない娘の身代金を払うほど裕福ではなかったらしい。
そうして王都の奴隷商会に売られたヴァルブルガだが、奴隷商会も扱いに困っていた。まず労働奴隷として女は買い手が見つかりにくいのだ。実際、彼女は普通の男並みに力はあるかもしれないが、先入観からやっぱり男より一段下と見られ、敬遠され易い。また、彼女の顔の傷から娼館からも敬遠される。
そんな話をしている内にオーク男クルトと同じ様に、金貨30枚スタートから20枚まで下がっていった。とはいえ俺としても悩んでしまう。彼女は確かに俺より強いかもしれないが、でも俺より強いだけである。
例えば入口にいた警備員の様な身長2m近いマッチョが斧を振りかぶってきても、盾さえあれば受け止められるかと言うと無理じゃないかと思ってしまう。チンピラに絡まれたくらいなら何とかなるかもしれないが、魔物の出る街道やペルレ大迷宮で戦力になるかと言われると微妙である。
それに護衛は見た目が怖そうというのも大事である。つまり下手に手を出したらヤバそうという雰囲気を持つ事で、戦いになる前に戦いを回避するというヤツである。しかし彼女じゃ、ぱっと見あまり威圧感が無い。微妙な顔で彼女を見ると、彼女は焦っている様だった。
「わ、私は処女だ。よ、夜伽もがんばるぞ。
そ、その代わり複数の男で回すのは止めてもらえると…。」
一気にポンコツ臭がしてきた。必死かっ、必死なんだろうな~。もう少ししたら、捨て値で鉱山か、最低の娼館に売られそうだし。でもなぁ~、こいつ連れてラウエンシュタインとか行ったら面倒が起きそうだから、北への商売は出来なくなりそうだしな~。
って、うおっ。こいつ、ビクついてるのに目力強いな。悩んでたら、めっちゃ見てるよ。よく考えたら、奴隷買ったら武装も買わないといけないから、あんまり余裕もなさそうだよな~。
ブルーノは値段もキャラも無いとして、初心者がクルトとかヴァルとかキワモノを買うのはリスク高いし、順当に考えれば2~4番目の男なんだろうな。でも、戦闘経験ある奴は金貨30枚じゃ足が出るんだよな~。
クルトは見た目の威圧感もあるし単純に力ありそうだけど、頭悪そうだし食費が心配なんだよな。値段で言うとクルトとヴァルは一考の余地あり、ていうか値切れば2人で金貨30枚も行けそうなんだよな。数は力だしなあ~。
「なあ、アルミンさん。
この女が持ってた武器や鎧って、まだあったりする?」
「おおっ、ご購入ですかな。
え~と、確かまだあった気がしますな。
一緒に送られてきましたが、その内古道具屋にでも持っていこうと思っていまして。
彼女と一緒にと言う事なら格安でご提供しますぞ。」
一気に捲し立てるアルミン氏を、俺は制止する。
「いや、まだ考え中。
まだ使えそうなら見せて欲しいんだけど。」
「ちょっと、ちょっと。
そんなブサイクより、この俺ブルーノを買いなよ。ふぅ~~~っ。」
ハイテンションでブルーノが割り込んできたので、俺はイラっとした。
「あ~~~っ、アルミンさん。
ブルーノは値段が合わないから下げてくれない?」
「畏まりました。それではヴァルブルガの武器をお探ししますね。」
「それはないぜ、ふぅ~~~っ。」
ブルーノは連行されていき、残りの奴隷が応接室に残った。2~4番の男達はチラチラとこちらを見てくるが、話しかけてこない。ヴァルは俺が武器の話をしたので、買ってもらえるものと期待してやたらと愛想を振り撒いてきた。そして、クルトは床に座り込んで寝始めた。
アルミン氏が持ってきたヴァルブルガの武装は、傷だらけの剣と草臥れて臭い革鎧だった。もともとは幾らかの板金鎧も着けていたらしいが、それは無くなっている。まあ、でもこれで少しは格好が付くか。
俺はアルミン氏との交渉を始める事にした。




