奴隷商会はハードボイルド?
俺は布問屋のヴィルマーさんに紹介状を書いてもらい、奴隷商会を訪れた。
商会の建物は、多少は後ろめたいのか貴族街や外壁門に続く大通りからは遠い裏道に在り、5階建てレンガ造りでガッシリした建物だった。商業ビルの様にも見えるが、俺の気持ちが入っているせいか、やや陰気な窓の小さい刑務所の様にも見えた。入口には守衛なのかマッチョな男が立っている。俺が近づくと声を掛けてきた。
「客かい。」
威嚇する様な雰囲気は無いが、身長も2m近く自分の身長程の太い棒を片手に携えていて、見下ろされると恐怖を覚える。
「ああ、紹介状もある。」
「それは中で見せてくれ。」
俺がビビって紹介状を出そうとすると、それを制止して中に入る様、顎で指した。俺は軽く男に会釈すると、中へと入った。入口の中はホテルのロビーの様にソファが置かれた広間となっていて、窓が小さいせいで昼なのに薄暗い。さらに奥へと続く扉の前には入口の男と似たような男が、2人立っていた。
「そこで少し待ってくれ。」
俺が何か言う前に、男の1人がそう言った。座っていいのか。躊躇している内に、聞き返すタイミングを逃してしまい、俺は仕方なく立ったまま待つ事にした。何だろうこの雰囲気。ハードボイルドなのか。
しばらく待っていると、奥の扉が開いた。俺はそちらに目を向ける。
「ぴょっこ~~~ん、いらっしゃいまっしぇ~~~。」
はぁ?何だこいつは。甲高い声で耳が痛い。
俺の目の前には、腹だけ膨れて手足の痩せた、頭頂だけ髪の生えたパイナップルの様な髪型の濃いキャラの中年男が立っていた。
「私、当ツェッテル商会のフロアサブマネージャー、
代理補佐見習いをしておりますアルミンと申します。
さて、お客様。どの様な奴隷をお求めでしょうか。」
馬鹿馬鹿しい登場から一転、いきなり渋い声と真面目な口調なりやがった。だが、こいつの肩書は何だ。偉いのか偉くないのか、いや、きっとペーペーなんだろう。まあいい、変な雰囲気も緊張も解けたし。俺はアルミン氏に護衛が出来る奴隷を見せてくれる様、頼んだ。
俺はアルミン氏に奥の応接室の1つに通され、そこでしばらく待つ。ややあってアルミン氏は6人の男達を連れて戻って来た。先頭の男が俺を見るなり、「うほっ。」と言った時、俺の全身に鳥肌が立った。
「ブルーノでぇぇぇぇすぅ。
お客様、よろしくお願いします。ふぅ~~~っ。」
一人目の男は目茶目茶テンション高く、自己紹介を始めた。2m近い体躯と筋骨隆々の体。奴隷達はみな貫頭衣を着ていたが、何故かこいつは自己紹介中に脱ぎ捨てて「どうですか。キレてるでしょ。」とポージングを始めた。俺はドン引きだったが、アルミンは満足げにそれを見ていた。
この男、見掛けだけではなく長年傭兵をやっており、ここカウマンス王国と北のラウエンシュタイン王国の小競り合いにも何度も両方の陣営で参加してきたらしい。奴隷になった理由は借金。その経歴と借金からこの男の値段は金貨80枚(800万円)だという。俺が伝えた予算は金貨30枚(300万円)なので、ファミリーカーを買おうとしたらスポーツカーを見せられたようなものだ。まあ、そうでなくてもこの男は無理だが。
こんなノリで続くのかと思ったが、2~4人目までは、まあ普通だった。値段は金貨30~50枚で高い程、多少剣が扱えたり体格が良かったりで、金貨30枚の男は一般的な農夫だった。俺の予算からするとここから選ぶのが本当は無難なのだろう。
「こいつ、オークだよね。」
5人目の男を紹介された時、俺は思わずそう言ってしまった。アルミン氏はオークって何ですか、という顔を向けてくる。5人目の男は2mを超える巨躯で、やや肥満気味。引退したプロレスラーの様な体型だ。そして特徴的なのが豚っ鼻と醜い顔。本当にオークの様に見える。
「お、おで、クルト。あんた、おでにメシくれ。」
オークが喋った。いや、多分人間なのだろう。オークじゃない、クルトは、ぼうっとしてもう目の前の事を忘れてしまった様にも見える。クルトが黙ってからは、アルミン氏がクルトをアピールし始める。馬の様に力が強いとか、体が頑丈で少々のケガでは動じないとか。
しかし、どうも頭が悪いようだし、ちゃんと言う事を聞くかとか、人一倍飯を食うのではないかと聞いてみると、アルミン氏の口の端がヒクついてきて最初金貨30枚と言っていたのが、どんどん下がり勝手に金貨20枚まで下がって言った。
とはいえ、俺も買う気になっている訳ではないので、とりあえず次の奴隷の話を聞きたいと言うとアルミン氏も素直に引いた。
最後の一人を見てみると、俺はおやっと思った。
身長は男として平均的な俺より少し低いぐらいで、体も痩せてはいないが俺よりも細いぐらいだ。顔に丁度眉間を通る様に右の額から左の頬に向けて大きな傷跡がある。髪も短髪だが、どうも体つきが男と違う様な気がする。傷は丁度目を避けているのでどちらかの目が見えないという事も無いようだ。
顔の傷に目が行っていたが、よく見ると女顔、それも結構美人だったのかもしれない。こいつ、女だ。
「わ、私はヴァルブルガと言う。
騎士として訓練を受けているし、大喰らいでもない。
護衛なら、私に任せてほしい。」
騎士なんて言っているが、声がだいぶオドオドしていて何かを恐れている様に見える。だが、俺に買われようという気は強い様に感じる。




