うひょぉ~~~っ、勝った! これで勝つる
「レンさん、ゴルトベルガー伯爵様の使いの方がお見えになってますよ。」
「おっ、ありがとう。」
俺が宿で遅い朝食を食べていたところ、宿の給仕の女の子ロミーちゃんが呼びに来てくれた。この娘は近所の皮職人の娘らしいが、彼女自身はずっとこの宿で働いていくつもりらしい。歳は15くらいに見える。明るい茶色の髪を両肩の所で結んでいて、明るく元気でなかなか可愛い女の子だ。俺も、もうこの宿に2週間もいるので、多少お互いのプライベートも話すくらいの間柄になっている。まあ、俺の経歴は嘘だがな。
さて、ロミーちゃんの事はいい。俺は朝食のプレートを見ると、スープが少しと雑穀のパンが一塊残っていたので、急いでパンでスープをふき取り口に放り込んだ。そして席を立つ。宿の入口まで行ってみると、そこにはジークリンデお嬢様の護衛副隊長だった地味な中年騎士ギードさんがいた。
「やあ、久しぶり。待たせて悪かったね~。」
あれ、ギードさんってこんなノリの人だっけ。お嬢様や他の騎士がいないと、砕ける系の人なのかな。まあ、ここでフランクに返して、急に「この平民風情が!」となっても怖いので、こちらは丁寧に返そう。
「ど、どうも。
わざわざお越し下さり、ありがとうございます。」
「ははははっ、公の場でもなければ、そんなに畏まらなくてもいいよぉ~。
バルナバス様やアルノー君と違って、僕は平民上がりの騎士だからね。
さて、こんな所で立ち話もなんだから、君の部屋で話させてもらってもいいかな。
お金も絡む話だしさぁ~。」
いい歳したオジサンの「さぁ~。」とか、ちょっとムカつくがここは穏便に行こう。無礼講と言って、本当にため口をきくと怒り出すパターンって日本でも普通にあるしな。そしてやっぱりアルノー君は貴族だったか。あと、お屋敷に呼ばれてってパターンじゃなくて、ここで渡すのね。
俺の部屋に場所を移して話を再開する。この部屋にはベッドと荷物を入れる木箱ぐらいしかないので、ギードさんにベッドに座ってもらって、俺は木箱に腰を下ろした。
ギードさんの話を要約すると、ジークリンデお嬢様は他の兄弟を押し退けて見事ゴルトベルガー伯爵に就爵。もともと正妻の子は彼女しか残っていなかったらしいが、側室の子の他の兄弟が共謀して彼女を亡き者にし伯爵家を手に入れようとしていたらしい。実際、彼女の到着がもう少し遅れれば、病に臥せっていた前伯爵も病気に見せかけて殺されるところだったと言う。
「そ、そんな話、私にされても良いのですか。」
「ははははっ、もうだいぶ噂になっちゃってるしね。
それに悪いけど、平民の君が何か言ったくらいでどうこうならないよ。
もう綺麗に掃除は終わってるしね。
ま、あまり目立つとどうなるか分からないけど。」
何気に色々怖えぇ~。絶対言わないようにしよう。
「それでさ。
君は最初の酒場とか、亡者の門とかで2度もお嬢様の命を救ったし、それ以外でもすごい察知力?で襲撃を事前に警告したりで、功績も能力もだいぶ認められてね。
召し抱えてはなんて話もあったんだけど、さすがに伯爵になったばかりで身元のはっきりしない平民を家に入れるのは、って話になってね。まあ、伯爵家ともなると仕えている平民も何代も仕えている者ばかりだからね。」
うん、仕えるなんて話にならなくて良かった。今の話だと探知スキルを見込んで、SPみたいな事をやらせるって話だよね。ずっと緊張しっぱなしになりそうでヤダな。そうじゃなくても、お嬢様の近くなんて気が詰まるし。
「それで、報酬には色を付けておいたから、悪く思わないでよ。
あと、また何かあったら声掛けるから、よろしく。」
うんうん。お金が一番いいです。そんな事を考えていると、ギードさんは革の鞄からずっしり重そうな麻の袋を出してきた。あれ、金貨10枚にしては多過ぎね?俺は袋を受け取ると、袋の口を開けて中を見た。
「あの、金貨10枚のはずでは。」
「ははははっ、さすがにビックリした?僕もビックリしたよ。
でも今回の功績は最初に期待した以上だったからね。
じゃ、ちゃんと金貨100枚(1000万円)渡したよ。
あっ、大金だから持っているのが怖かったら、商業ギルドに預かってもらうといいよ。
手数料は取られるけど、安心だからね。預かり証さえ取られなければ。
さて、僕もこれで結構忙しいからさ、今日はこれで失礼するよ。じゃあ。」
それだけ言うとギードさんは振り返りもせず、部屋を後にした。本来は宿の入口までお見送りをするべきなのだろうが、俺はベッドの上の金貨100枚を前に珍しくフリーズしていた。
数分して再起動した俺は、突然奇声を上げ、おかしな事を口走っていた。
「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ。勝った!
よし、美少女奴隷を買おう。」
その後、部屋を出た時すれ違ったロミーちゃんの目が、ツンドラだった事は言うまでもない。