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剣斧の記憶  作者: タカヒロ
ロンドン奪還
4/8

四話 会議

 四話会議


 話は、エアルフスウィスがエゼルレッドに遭遇する前に遡る。


 王の間の円卓の席で賢人会の会議が始まっていた。

 賢人会は各業界の有力者十人で形成されている。

 

 漁業業者の長、ザンドル。

 林業業者の長、フォーエン。

 農業、畜産業の長、ラヴァ―ド。

 そして商会の長ルガノフ。

 商人は以上の四人である。


 大祭司長、へフマンド。

 財政長、ゴネティア。

 行政長、ウェバル。

 司法長、ビフィロン。

 内政は以上の四人である。


 残りの二人は、一軍を率いる将である。大公エアドルマンと大騎士長エーラーンである。


大公エアドルマンは病気を理由に屋敷に籠っているらしく、今日は欠席している。大騎士長エーラーンは城の防衛任務についているためこの場にはいない。

 

この中でも、王の出陣を拒む―防衛戦論を唱えるのは、商人業者の長四人と財政長ゴネティアと大司祭長へフマンドである。

「王は出陣するべきではない、王弟殿下に任せておけば大事無いだろう」

そういうのは武器商人のルガノフである。


 ルガノフはウェセックス王国の中で最も大きい商会の長である。武器商人として知られていた。

 中年半ばの小柄で少し小太りである。


「祭司長殿が神託も王の出陣は必要ないと言っていた」

「わざわざ遠方まで兵を出す必要はないだろう」

「この期に及んで王自ら出兵など神の信託に背くつもりか」

 商人の出の人間は口々にそういった。

 また、財政長ゴネティアも、

「いまは避難民の援助や村、教会の復興に財を削っているため出兵するのは財政が厳しい」

 といっている。

「ここはアルフレッド王弟殿下に耐えてもらうしかほかに手はない」

 これが現状の案であった。


 「待て、王がまだ来ていないではないか、結論を出すのには早いだろう」

 司法長ビフィロンは制して言った。

 「今日、王は城下教会に行っておる―だがすでに決まりきったことだ、王を煩わせる必要はないだろう」

 

 「いや、出兵に関して再度一考するべきだ」

 そう言うのは行政長、ウェバルである。

 「今すぐ王自ら出陣するべきだろう。先王エゼウルフ公でも倒せなかったのだから、全師団総力挙げて異民族に対抗するべきではないのか。」

 「現在、異民族以外の外患も無い、であるなら、持てるだけの戦力を率い、侵入者を駆逐すれば国全体の士気も上がるだろう。」


 この人物―ウェパルは行政、外交や他国との交渉もやってのける敏腕宰相であった。

 しかし、度重なる異民族の侵入により、国力低下による物価の高騰の対策や、戦争難民の受け入れと援助金の配布などで多忙になり、賢者会の会議にここ幾日か出席することはできなかった。

 そのため商会の賢人達が自分たちの思うが儘に国政と戦略方針を決定した。


 ウェバルは戦争難民に耳を傾け、異民族の実態を探っていた。その話の中で生々しい戦争のありさまと被害を聞いていたので、なんとしてもいち早く異民族を撃退してこの国を守りたいと思っていた。

 「とんでもないことをおっしゃる、仮に戦場で王の御命にかかわることがあったらどうするのだ。それこそこの国民の士気にかかわるのでは―」

 「貴公、王の剣の腕を愚弄するか?」

ザンドルが半分笑いながら言ったところを、鬼の形相でウェバルは睨み返した。


 「だが、先王エゼウルフ公も剣はエゼルレッド、戦術はアルフレッドと評価なさった、で、あるなら、一兵倒す剣よりも万人を倒す技を持つものが先陣に立てばよいのだ」

 ルガノフは真顔で言った。他の商会の長も頷く。

 「王が浅慮であると言いたいのか…!」

 「そうは申しておらぬ。人はそれぞれ生まれ持った才能があり、それを生かして生きていき、人の役に立つということ言っているのですよ。それがたとえ王族でも同じ」


 「ウェバル殿、出兵のことは、師団を率いるエアドルマン大公とエーラーン殿にまかせた方がよろしい。貴公は難民のことと治安のことでも考えたまえ。それも立派なお役目ですぞ」

 商会の長たちは席を立った。


 「会議は終わりじゃ。皆の者自分の仕事に戻りなされ」

 「ルガノフ殿、なぜそのように出兵に反対される?なにか理由でもおありか?」

 ウェバルは王の間から去ろうとするルガノフに詰め寄った。

 「仮に戦になれば、武器商人である貴公に大金が回るはず―それは分かっているはずだ。なぜ頑なに反対されるのだ?」

 「私服を肥やすために手前は戦争を推奨しませぬ、めったなことを申されるな」

 ルガノフはぶっきらぼうに答えた。

 「アルフレッド王弟殿下に任せておけば万事うまくいく!以上だ」


 そう言って振り返ると王の間のドアが開いた。


 エゼルレッドが突然の入場に周りは凍り付いた。

 「…王よ、なぜここに?」


 「弟を買ってくれているのはうれしいけど、いくら何でも任せすぎだよ」

 エゼルレッドはやんわりと言った。


 「会議は今から始まるはずだけど―なぜ席を立っているんだい?」

 「今日、王は、城下の教会へ行くとおっしゃっていましたが」

 「私がいなかったらすべて勝手に決めてしまうだろう?」

 「偽りを申したのですか」

 「偽りではないよ、教会の司祭たちとの話し合いが早く終わったのは事実だ」

 「…何を話し合っていたのですか?」

 「出兵のことだよ」

 「…王よ!すでに信託は出ているのはご存じでしょう」

 「大量に死んでいる兵士や虐殺された民の前で言える?」

 「…神の信託は絶対でございますぞ」

 「それ何か根拠はあるの?」

 「神を冒涜してはなりませぬぞ、されば天罰が下りまする」

 「弟や前線で戦っている兵士とこの国の民が守れるなら喜んで受けるよ」

 「陛下!そういう問題ではありませぬぞ!」

 エゼルレッドは王の間の玉座に座り足を組んだ。


 「ごめんね、賢人会の諸君。だが―」

 やさしい顔から一転、闘志がみなぎった顔になった。

 目が爛々としている。

「貴君らは一手遅い。故に私の方で話を進ませてもらった!これからは私の指示に従っていただく!」

エゼルレッドの威厳のある声に商会の長たちは戸惑った。

「何を…この国のすべては合議制ですぞ!」

「国を守るためだよ。これ以上理由がある?」


「王に報告します!」

 突然衛兵が前に出た。

「申してみよ」

「エアドルマン大公殿、出陣完了でございます!」

「うん、二日後明朝、私も出陣するよ」

「エアドルマン大公殿は病気だったはずでは?まさか、仮病―?」

 ルガノフは歯ぎしりを立てた。


「勝手なことをなさるな!賢人会での合議制は先王エクバード公からの掟でございますぞ!」

「その“掟”とやらのせいで弟の部下たちが何人死んだと?」

「信託に背くのなら退位なさいませ」

「ルガノフ殿、おぬし何を焦っているのだ?」

ウェバルは眉をひそめた。


「神の信託に背くなど、言語道断。そして私は陛下の身を案じておるのでございます」

「ははは!確かにそれは某も案じておりますが」


高笑いして王の間に入ってきたものが言った。

黄金の鎧を身にまとった筋骨隆々の三十代半ばの男である。


入ってきたのは大騎士長エーラーンだった。

背は王の間にいる者の中で高い。


「エーラーン殿?城の防衛の任務はどうされた?」

「そんなもの、部下に任せておけば某は暇でございますからな、それより―」

エーラーンはエゼルレッドに向かって跪いた。


「若様!―じゃないですな」

エゼルレッドは軽く笑った。

「いつまでも子ども扱いしないでおくれ、もちろん今でもおぬしは私と弟の師ではあるがな」

「ありがとうございます陛下」

白い歯を見せて笑った。


「陛下!騎兵四万、歩兵七万、弓兵二万、そして陛下直属の親衛隊、“王の手”五千人、合計十三万五千人、編成整いましてございます」

エーラーンの声はいつも張りがあり、威厳がある。

「アルフレッド王弟殿下の軍と合わせたら二十万ほどになりますかなぁ」

「まて、エアドルマン大公はいかほど兵を連れていかれたのか?」

財政長ゴネティアが慌てて言った。


「おぬし何も分かっておらんな―エアドルマン殿はこのブリテンの中でも特殊戦術の使い手として名高いことを知らぬのか?このエーラーンでもあの方の足元には及びませぬ」

エーラーンの背が非常に高いため、ゴネティアは影ですっかりと隠れてしまっている。


エーラーンは王の間の全員を見た。

「エアドルマン大公殿は自らの手勢三千騎で出撃された!安心されよ。まぁ三日か四日後には異教徒の隊長の首がいくつかここに届くかもしれませんな」

「勝手に話を進めよって…こんなもの軍法会議にかけて、賢人会への反逆の罪で地下牢に入れられる覚悟があっての行いか!」

ルガノフは声を荒らげた。肥えた頬肉が紅潮している。

「あのなぁ、軍法会議どうこう以前に、アルフレッド王弟殿下が負けて、我々も異教徒どもに駆逐され、頸と胴が離れた状態になってかでは時すでに遅しなのだよ」


エーラーンはあきれ顔になった。

「ルガノフ殿、貴公も腹を決めなされ。しかと武器や糧食を我々に送るのですぞ」

「送らなければそれこそ軍法会議でございますからなぁ」

「それは…承知しておる」

 ルガノフは肩を落とした。

「某、行政長ウェバル、エーラーン大騎士長に全面賛成いたす」

「民の無念、貴公の剣と槍で存分に果たしてくだされ」

 ウェバルはエーラーンに向かって深々と頭を下げた。


「任せたまえ!お主も陛下と私が不在の間、この国の政治と防衛をお頼み申す」

「ところで、エアドルマン大公の目的地はどこなのだ?」

「物見の報告では、この城の北―エングフィールド付近に異教徒どもが陣を構えているらしい」

 エーラーンは地図を持ってきた。

「このままだとアルフレッド殿下の軍が挟み撃ちにされてしまうからな。なんとしても北方からの進行を阻止しなければならんということだ」

 「そしてあわよくば―」


 エーラーンはウェバルを見つめた。

「大公殿は北方から攻めてきた異教徒を壊滅させようと思っているようだ」

「エアドルマンならやりかねないな」

 エゼルレッドは笑った。


 「それと―弟の妻、エアルフスウィスの御父君、ブルグレド王のことも探ってくれ。エアルフスウィスが不憫でならない」

 「やさしい王になられましたな。剣を握って敵を屠っているときの陛下とは別人のようだ」

 「からかわないでくれ、エーラーンよ」

「からかってなどおりませぬ。それも王に必要な素質でございます」

エーラーンは朗らかに語った。


 エゼルレッドは玉座から立ち上がった。

 「皆の者!これより弟を救出し、外患を排除する!反撃開始だ!」

 賢人会の者たちはこぞって頭を下げた。



 今、ブリテンの大地を揺るがすような大戦の火蓋が落とされようとしている。

 

 

 



なかなか主人公が出てこない…笑

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