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JD死霊術師による異世界冒険記  作者: 清水薬子
天となりし神の腕
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神殿遺跡

 長耳族エルフの長老エンザの話によると、コクーン大森林の神殿は長い間誰一人として来訪者はいないという。


 聖教に明記されているわけではないが異端の象徴としての意味もあるらしく、その感情も含めて近隣に住む長耳族エルフに対する敵対心が強いらしい。


 神殿の内部には埃が積もっていて、外部からの風が吹く度に空中に舞う。壁面には紫色に淡く光るキノコが隙間から頭を覗かせている。


「足跡が一つ、俺たち以外にも誰かいるようだな」


 地面を見つめていたカインが教えてくれた。言われた通り確認してみれば確かに足跡が一つ、神殿の奥に進んでいる。足の大きさはおおよそ子供のものだ。


「子供かな? 長耳族エルフのものではなさそうだね」

「いずれにせよこんな所に一人で来ている。碌なやつじゃない」


 エクペレ山で戦った影法師ハイドアンドシークのミカゲを思い出す。


 転生の呪法を使用した死霊術師の可能性もある。肉体の年齢だけで判断するのは危険だ。


「どうする? こっちから仕掛けるの?」

「場合によっては、な」


 足跡を辿り、歩き出したカインの後に続く。地面に積もった埃のお陰で足音が吸収されている。


 しばらく歩くとカインが掌をこちらに向け、地面を指差した。多分ここで待機してろ、という意味だろう。


 カインは機敏な動きで曲がった足跡の手前の壁に背をつけ、音もなくレイピアを抜く。勢いよく角を曲がっていったので、その姿を見守る。


 ボソボソと話し声が聞こえた。内容までは聞き取れないが、どうやらカインと誰かが話しているらしい。


「サヤ、こっちに来い!」


 どうやらカインは敵ではない、と判明したようだ。指示に従ってカインの元にいくとそこには足跡の主がいた。


 サヤの腰ほどの身長に短く刈り上げた深緑色の髪、片耳につけた月のピアスが揺れている。手に持った虫眼鏡を壁に向けてなにかを観察しているようだ。


「うーん、やはりこの壁の仕掛けはどこかに隠されているに違いない、あぁ、何故神は我々を退けーるのか!」


 その人物は壁に頬ずりをし、地面に膝をついていた。控えめにいって不審者の行動である。


「見ての通りだ、害はない」

「いやどう見てもヤバいやつじゃん。……うわ、壁舐めてる」


 カインが肩をすくめて腕を組んだ。


「そいつは遺跡族ドワーフのロッキー。遺跡や古代の文明を調べたがる変態だ。まあちょっとヤバいやつだが、遺跡にかける情熱は本物だ」


 話を聞いてますます不信感が募る。遺跡族ドワーフのロッキーという人物は口に入ったキノコをぺっぺっと地面に吐き出している。


 ようやく会話が聞こえたのか、こちらを振り返った。口の周りについた胞子がぼんやりと光っている。


「やあ!我輩は叡智と探求に余念のない遺跡族ドワーフのロッキーと申す!よろしくな、ホモ・サピエンスども!」

「はあ、どうも。サヤです」


 絶対に関わり合いになりたくないが、自己紹介された以上返した方がいい。そう思って自己紹介したがロッキーは既に背中を向けていた。


「悪く思わないでやってくれ。あれでも他と比べればとても礼儀正しいと言える態度なんだ」


 なるほど遺跡にかける情熱は本物だとカインが評したのも頷ける。なにせ舐め回すほどのものなのだ。一族に呪いでもかかっているに違いない。


「もしかして協力する感じ?」

「あぁ、過去に聖教会が調査員を派遣したが大した成果が得られなかったという。調査好きのヤツならもしやと思ってな」


 確かに遺跡調査に命を懸けている遺跡族ドワーフが手伝ってくれるのなら二人で調査するより効率はいいかもしれない。


「なるほどね、それでロッキーさんは今何をしてるの? あれも調査の一環?」

「壁の向こうに空間があるらしい。その空間に行くためには仕掛けを解かなければならない。その手がかりを探しているところだ」


 仰向けになり、虫眼鏡で壁を見つめはじめたロッキーを二人で見守る。明らかに仕掛けも模様もない壁を一心不乱に調べている彼には申し訳ないが、絶対にここには手がかりなんてないと思う。


「……ッ!見ーつけましたよぉ!!このボタンですね!」


 ロッキーは壁の隙間に生えたキノコを毟り取り、その隙間に指を突っ込んだ。ガッコンとなにか仕掛が作動したような音が響く。


「何か鳴ったね」

「音からしてかなり大掛かりな仕掛だったな」


 地響きと共に壁が左右に収納されていく。壁の下にあった地面は他と比べて明るく、埃が一切積もっていない。その地面が一定の間隔を保って上昇していく。


 地響きが止んだ後、そこには広い階段が上の階へと続いていた。


「ふふふ、過去の叡智を先に掴むのはー我輩なのです!!」


 そう叫びながらロッキーは階段を三段飛ばして駆け上がっていった。その背中をまたも見守る。


「行っちゃったね」

「俺たちも行くか」


 ロッキーのハイテンションに呆気にとられつつも後をついていく。


 階段を登りきった先には広間があり、壁画が描かれている。下のプレートには『降臨』と示されている。どうやら聖書のはじめの部分を一枚絵に落とし込んだ宗教画らしい。


 正面から見て一番右上端に描かれた人物、足まで伸びた黒髪が片手を天に掲げている。その足元に描かれた人間たちは鍬や調理器具を持つ。左に行くにつれ武器や防具といったいかにも武人といった集団に変化していた。


 しかし左側は苔に覆われ、絵の内容を知ることはできない。恐らく人間を襲ったという悪魔が描かれていた部分は紫色にぼんやりと光るだけだった。


 聖教を信じているわけでもないのですぐに興味をなくす。カインも眺めていたようだがそれほど珍しいものでもなかったようだ。


「ウッヒョ〜、この仕掛けは人間にしか解けないのかぁ!!あ、ホモ・サピエンス。お前らの出番だぞ」


 ロッキーが背後に広がる広間の壁を拳でこんこんと叩く。薄ら光るキノコが文字を描いていた。


『誓いを示せ』


 その短文のみ。仕掛けがあるとロッキーが言うが本当なのだろうか。短文を読んだカインが訝しげに首を傾げている。


「誓いを示せ、だと?どう言う意味だ?」

「そのままの意味じゃない?誓いを宣言するとかそーいうの」


 投げやりな態度でロッキーが答えた。二の腕を掴んでいたカインの手に力が篭る。天を仰ぎ、一度呼吸することで自分を抑えたようだ。


「宣言すればいいんだな。全ての死霊術師を討伐する!これでいいだろう」


 カインの宣言に呼応するかのように壁に変化が現れた。全てのキノコが壁の隙間に引っ込み、代わりに円を描くように別の種類のキノコが飛び出した。


 青色と赤色に光るキノコの2種類である。まるで円グラフのように赤色と青色の占有率が拮抗する。


 やがてけたたましい音を出しながら赤色が円のほとんどを覆い尽くす。最後の一本、青色のキノコが寂しそうに隅っこにいた。


「うーん、惜しいね。ダメみたいだ」


 ロッキーの無慈悲な宣告にカインが舌打ちをする。こっちを見て顎で壁をしゃくってきた。やれって事か。


 どうやらこの仕組みは決意を表明すると自動で判定が下るようだ。基準がわからない以上総当たりでやるしかない。


 とりあえず一番叶えたい願いでも宣言しておこう。


「故郷に帰る!」


 けたたましい音と円が現れる。赤と青の比率は半々だった。その結果にカインが鼻で笑う。


「俺より弱い誓いだったな」


 朝のしおらしさは幻覚だったに違いない。人を見下す態度にキレそうになりつつも怒りを逃す。喧嘩している場合じゃない。相手にするな、長い間一緒にいて得た教訓だろ。この手の絡みは無視に限る。さっさと条件を絞ってしまおう。


「今夜は絶対に野宿しない!」


 晴れやかな音が響く。真っ青に染まった円を見つめたカインが青筋を立てながらこちらを睨んだ。


「え、こんなんでいいの?まぐれでやっただけなんだけど」


 壁が粒子になって霧散する中、鋭さを増すカインの視線に青ざめながら顔を背ける。


「やったあああああ!」


 こちらの雰囲気など気にもとめずロッキーは通路の先に駆け出す。


 いやぁ本当に遺跡が好きなんだな。微笑ましいなぁ!


「チッ、納得できん」


 バシン、と背中を叩かれた。いつもとは違う、かなり強い力だ。相当怒っていることが分かる。


 なんども叩かれた所為でそろそろ青あざができるのではないだろうか。ジンジン痛む背中をさすりながら奥の通路に進んだ。

こいつらいっつも険悪な雰囲気だな


更新が空いたのは詰まっていたわけではなく、blenderにハマっていただけです。

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