精霊をぶちのめそう!
唸り声をあげながら『見聞録』のページをめくる。死霊術師についての記載に目を通すが特に目新しい情報はない。
カインによるとサヤは死霊術師の特徴である『魂の穢れ』があるらしい。まったく自覚がなく、死者蘇生程度しか死霊術師らしいことをしていない。他をあげれば幽霊が見えるぐらいか。
「そもそも私、霊感とかないはずなんだけどなぁ」
ブツブツと呟きながらホリィの姿を思い出す。何処かが透けるということもなく、初めて会った時には触れることさえできた。
『見聞録』の頁をめくり、死霊術師の耳とタイトルがついたところを開く。
『死霊術師は死者の声をきく。死者の言葉をその口で紡ぐ。それは神への謀り、生命への不義理。爾今を既往で取り籠める禍根の罠。その声に耳を傾けるなかれ』
その部分を指でなぞり、再度読む。この能力で死者を見、言葉を交わすことが出来るようになったのだろうか。ホリィの言葉を思い出すが、死霊術師で精霊をどうこう出来る能力があるのだろうか。
それよりも精霊について知らないことを思い出し、とりあえず知ってそうなカインに聞いてみた。
「ねえ、カイン。精霊って闇から来たの?」
高速で腹筋していたカインが途中で動きを止める。角度45度辺り静止しながらこちらを見た。会話中にも筋肉を鍛える聖騎士の鏡のようなやつである。
「あぁ、故に邪悪な存在として説かれている。それがどうした?」
体を捻りつつ腹斜筋というやつを鍛えているカイン。
「いや、大したことじゃないんだけどさ。精霊をなんとかこう、出来ないかなあって」
腹筋が終わったのか地面から立ち上がり、ベッドに腰掛けたカインが片眉を動かす。
「そもそも精霊は実体を持たない。なにかしらしたいなら受肉させなければ意味がないぞ」
「してその受肉させる方法とは?」
手をマイクに見立ててカインに向ける。そっと手で退かされたが質問には答えてくれた。
「やり方は二つある。一つ目は魔力を与え、器となる肉体を作り上げる」
感心しながら頷く。意外と頼りになるヤツなんだなと思っているとデコピンされた。あまりの痛さに悶えていると冷めた目で見下された。
「ぬか喜びするんじゃない、馬鹿。妖精ならば人間の魔力でどうにか出来るが精霊は違う」
カインがぎゅっと拳を握ると指の隙間から炎が迸る。開いた掌に鈍色の蜥蜴がチロチロと舌を覗かせながら姿を現した。
「もしかしてこれが妖精?」
「あぁ、炎の妖精である火竜。火を司る妖精だ」
そういえば炎の魔法を好んで使っていたな。妖精の影響を受けてなのだろう。カインが再度拳を握ると妖精は煙を立てて消えた。
「精霊は妖精の上位存在だ、受肉に必要となる魔力も当然妖精とは比べ物にならない。100人の魔力を集めても足りないだろうな」
「となると一つ目は無理か。二つ目はどんなものなの?」
ハッ、と鼻で笑われた。うーん、マジでこいつ腹立つわぁ。
「二つ目はあり合わせの器にねじ込む。なんらかの方法でそこら辺の壺だとかに閉じこめてしまえばいい」
「おお、どうやってねじ込むの?」
「知らん」
日頃の腹いせに思いっきり肩をすくめて見下す。ヘッ、と鼻で笑うとカインの瞼がピクピクと動いた。
「ハハハ……、どうして急にそんな話を始めたんだ、サヤ?」
「ちょっと精霊をぶちのめそうと思ってね」
両眉があがる。ルチアと祭りの踊りについて掻い摘んで説明するとより眉をひそめた。無言で説明を聞いていたが終いには大きなため息をつく。
「やりたいならやらせればいいだろう。そもそも俺たちに関係のない話だ」
カインの言い分も正しいが頷かずに両手を広げ、首を横に振る。語尾上がりの母音を口に出しながらカインが腕を組んだ。
「いやまあ、そうなんだけどね。ほら、ルチアさんを助ければ転生の呪法について聞けるかなって」
カインが顎に手を当て、ふむと考え始める。
「『見聞録』には書いてなかったんだったな。ならば助ける価値はあるか?」
一人でに結論を出したカインは満面の笑みを浮かべながらサヤの両肩に手を置き、顔を覗き込む。
「よし、サヤ!ルチアを助けてこい、それで転生の呪法についても聞き出せ。お前なら出来る、俺はそう確信してるぞ!」
ダイナミック人任せ聖騎士くん爆誕