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精霊

 次の日、目が覚めた時に腕輪の存在に気づいた。ルチアの話やカインとのやりとりで忘れていたが腕に着けたまま寝てしまった。


 金属の煌めきから見える木目のような模様の腕輪を眺める。ウーツ鋼という珍しいもので作られている以上、高級品であるのに違いはないだろう。傷一つなく、冷たい感触が腕に伝わってくる。寝ていた拍子にぶつけて傷をつけた様子もなく胸をなでおろす。とにかく、早いうちに返却したほうがいいだろう。


 まだ寝ているカインを起こさぬよう忍び足で部屋を出る。まだ眠気の残る体を揉みながら通路を歩いていると向こうの方から見慣れた蔓薔薇を髪に巻きつけたエンザが歩いてきた。


「おはようございます。サヤさんでしたっけ、少々お時間をいただいても?」

「え、あぁ。ルチアさんにこの腕輪を返した後でいいなら構いませんが」


 エンザがチラリと腕輪を見たので見やすいように腕をあげる。


「ルチア様は本日祭りの用意でお会いになれませんよ」


 ◆◇◆◇


 村長の部屋に通され、布の奥にある椅子に座るよう促される。大人しく座るとエンザも対面する位置に椅子を移動させ、そこに腰掛けた。


「なるほど、それで腕輪を返却するタイミングを逃したんですね。つくづく優柔不断な人だ」


 図星を突かれ、俯く。そもそも初対面同然の人に優柔不断というレッテルを貼られたことに納得がいかないが口論したいわけではないので口をつぐむ。


「まあいいでしょう。良ければこちらでお預かりしましょうか?」

「ではお願いします」


 目の前に置かれた掌サイズのリングケースのようなものに収納するため腕輪に手を伸ばす。クルクルと回してみるが留め具が見当たらない。外してみようと動かすが外せない。


「どうしました?手伝いましょうか?」


 見かねたエンザに助けを求め、2人で腕輪を調べる。ピッタリと継ぎ目ひとつない腕輪を外す手段は見つからなかった。


「このことも含めて伝えておきましょう……。それよりも昨日貴女が会ったという少年について教えていただけませんか?」

「構いませんよ。背中ほどの髪の長さでオレンジ色の瞳をしていました」


 背の高さを手で示しながら説明する。エンザは話に耳を傾けながら懐から黄色い花を出す。


「信じられない話ですが私の弟、スーゼに間違い無いようですね。あの子の耳、丸く短かったでしょう?」

「ええ、そうでした。その、弟さんは教会の人間に殺されたと」


 エンザはため息をつくと花を机の上に置く。茎に刻まれた魔法陣、おそらくこれによって長期的な保管を可能にしているのだろう。


「森に捨てられていた人間族の赤子、その子をスーゼと名付けて育てました。年が近かったので弟のようなものです」


 エンザは慈しむ手つきで腹を撫でた。


「歩けぬうちは腹袋に入れて連れ歩いたものです。そのせいか歩けるようになってもしばらくはひっついて離れませんでしたね」


 赤子を腹袋に入れる、というエンザの発言に驚く。赤子を入れるベビーリュックみたいなものなのだろうか。


 こちらの表情を見て訝しんでいたエンザだったがあることに気づいたようだ。


「あぁ、長耳族エルフは赤子を前に抱いて育てるんです。体の構造として屈んでいる方が楽なんです」


 エンザの発言に更に首をかしげる。ゆったりとした服を着ているがサヤ達人間とそこまで差異があるように思えない。


 エンザが服の裾を捲る。露わになった脚は人のそれと形状が異なっていた。


 素足の先端には鋭い爪がついている。丸く円錐型の爪と短い指、それらはカンガルーを彷彿とさせた。服の裾から尻尾が見える。


「へぇ〜。本当に違うんですねぇ」


 関心の声を漏らしながら見つめていると尻尾がバシンバシンと地面を叩いた。どうやら見つめられて照れたらしい。服の乱れを直したエンザが椅子に座りなおす。


「話が逸れましたね。サヤさん、話したいというのは封印の間のことです」


 昨日スーゼに案内されて訪れた場所を思い出す。この洞穴の最深部にある鉄の扉のことだろう。サヤも居住まいを直す。


「あの場所は神殿の最深部に繋がっています。なぜ封印が揺らいだのかは分かりませんが……」

「精霊を鎮めるための祭り、その封印の間で行うんですか?」


 エンザは首を振った。


「そこに封印された精霊はオンウィーと言います。我々長耳族エルフは彼の好物であるクレヴァーツを捧げるという契約を交わしました」


 クレヴァーツ、たしかルチアの部屋で見たドレスの素材となったモンスターの名前だった。


「当初はオンウィーもその契約に納得し、我々は共生していました。ですが貪欲なオンウィーはついに我々に牙を剥きました」

「戦おうとは思わなかったんですか?」


 エンザは笑って首を振った。諦念の色が浮かぶ瞳を伏せる。


「伝承によると剣も矢も通じず、編み出した魔法も通じない。精霊とはそういうものなんです」

「だからルチアさんを犠牲にするんですか?」


 エンザは目をつぶり、ため息をつく。開けた目は少しつり上がっていた。


「ええ、そうです。そしてこのことは彼女も合意しています」


 サヤを正面から見据えたエンザは臆せず言い放つ。誤魔化すことも繕うこともしないその表情は一族の長としての覚悟の表れなのだろう。


「ルチア様と交流があるようですがくれぐれも祭りを邪魔なさりませぬようお願いします」

んびょおええええ

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