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平行線

 長い階段を登り、上に戻るとラントーザがラッタットの手綱を握って立っていた。ラッタットとラントーザの頭の上には雪がうっすら積もっている。


「外が吹雪き始めたところだよ。あの様子だと今日はここで一泊するしかないね」


 死体は処理しといたよ、と告げながらラントーザが肩の雪を払う。不穏な言葉にサヤの肩が跳ねる。


「どのみち今日下山するのは厳しいだろう」


 カインはラッタットから手際よく荷物を降ろし、焚き火の準備をする。周囲の地面を見渡し、黒く煤けた場所に設置を始めた。天井が高く、微かに風を感じるので焚き火をしても問題ないと判断したのだろう。


「そういえばお前、なんで死霊術の討伐を持ちかけたんだ?」

「え、俺?そういうこと聞いちゃう?」


 バッグを漁る手を止め、ラントーザが呆けた表情で聞き返す。


「お前ならとっととあの集落を見捨てて逃げ出すと思ったんだがどういう心変わりだ?」


 ラントーザは心当たりがあるのか、うめき声をあげながらバッグから毛布を引っ張り出す。


「別に逃げても良かったんだけどさ、死霊術師が高笑いしているのかと思うとムカッと来たんだよね」

「死霊術師に従ってたのにか?」

「うぐっ、あれはノーカン。俺の中では黒歴史だから掘り起こさないでッ!!」


 叫びながら耳を抑え、頭を左右に振りつつ毛布を被るラントーザ。その様子を呆れながら見つめるカインとサヤ。ひとしきり叫んだ後、ぼそりと呟いた。


「多分、俺は罪滅ぼしをしたかったんだ。赦されなくても誰かの役に立てばもしかしたらって……」


 ラントーザから視線を逸らし、取り出した毛布を抱きしめる。


「そうか」


 カインは特になにか言うわけでもなくそう回答した。焚き火に火が灯り、パチパチと言う音が響く。


「俺が答えたんだからそっちも答えてよ。君たちこそ関係ないって言って素通りしそうじゃん?」


 毛布から頭を出し、唇を尖らせるラントーザ。焚き火の上に設置した鍋に食材を放り込みながらカインがラントーザを一瞥する。


「力をつけられてから襲われるよりもこちらから仕掛けたほうが勝率は高いと判断したまでだ」


 ラントーザがこちらを見た。顔を逸らし、カインに助けを求める。調理に夢中なのかわざとなのかは分からないがこちらに背中を向けていた。


「サヤちゃんは?」

「わ、私も似たようなものです」


 観念して答えるとラントーザは首をひねる。


「んん?でもその割には死体の処理で動揺していたよね?」


 唇を指で叩きながらサヤの言動の矛盾を指摘した。正論と見られていたという事実に動揺し、言葉に詰まった。


「これ以上、被害が広がる前に対処した方がいいのかなって思ったので」


 そっか、と興味なさそうなラントーザの声を聞き追撃の手を逃れたことを知る。


 収納袋から食器を取り出し、地面に置く。何度も人が行き来したことによって地面は平らといえるほど凹凸や小石が少ない。これなら寝るのも楽そうだなと思いながらいつのまにか後ろに陣取ったラッタットにもたれかかる。ぢう、とくぐもった鳴き声を出すので慌てて上体を起こした。ブハッとラントーザが吹き出す。一瞥すると腹を抱えて笑っていた。


「初めて聞いたよラッタットのそんな鳴き声。ぢう、ぢうだって」


 ひーひーと呼吸しながら目元を拭う。そんなに面白い鳴き声だったのだろうか、カインの方を見れば彼も困惑した表情でラントーザを見つめていた。


「魔力が欠乏しているというのによくもまあふざけられるものだ」


 カインは呆れながらボウルにスープを配り始める。笑い転げるラントーザの背中を蹴り、スープボウルを渡した。ラントーザは笑いをこらえながらも受け取る。サヤもボウルを受け取りスプーンで食べ始める。カインは焚き火の前に胡座をかき、ケープを外して損傷具合を確かめていた。


「あれ、聖騎士くんは食べないの?」

「どうも腹が空かん。後で食べる」


 ふーん、と答えるラントーザ。聞いた割にはどうでも良さそうな態度である。


 サヤも特に食いつくような話題ではないので聞き流した。スープを冷まし、口に運び飲み込む。ふとどうでもいいことが頭をよぎった。


 あれ、そういえばカインが何かを食べているところ見たことないや。

不穏

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