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ダグラス

「《真空斬》!」


 ダグラスがそう叫んだ。大剣で何もない虚空を斬りあげる。空気を切り裂く音と共に切断された空気が真空の刃となってカインに襲いかかった。カインは足取り軽く飛び跳ねながら迫り来る刃を回避していく。

 原理は全く分からないが魔法が存在する世界だ。きっとあの大剣になにか仕掛けがあるんだろう。


「さすがは聖騎士カイン様、そう簡単には殺されてはくれませんよね」


 先程までの戯けたような口調と打って変わって生真面目さが伺える声音でダグラスが話し始めた。変わらず表情は虚であるが瞳はしっかりとカインを見据えている。


「准聖騎士のダグラスだったか、心までも堕ちたか?」

「いえ、いえ!決してそのようなことはありません」


 カインの問いかけに対して頭を振りながら否定するダグラス。振り下ろされる剣の勢いは増すばかりであり、ついにカインの服の裾を捕らえた。間一髪で体を捩り、皮膚を浅く切る程度ではあるがいずれ切り裂かれるのも時間の問題だろう。


「《魔力よ、衝撃を与え稲妻によって外敵を退け》」


 サヤは静かに詠唱し、背中を向けたダグラスに向けて魔法を打つ。唱えた衝撃で怯んだ体に電撃による痙攣を与える魔法だ。死んだ体であっても電撃による痙攣で隙も体勢を崩すという算段だったが、容易く大剣で防がれた。背後にいるサヤを見ることもなく剣の腹で受け止めたのである。


「よくやった、《我、火の寵愛を受けしもの。契約に従い、我が身に宿れ。炎の妖精、火竜サラマンダー!》」


 わずかな隙を逃さず好機とみたカインが剣を構え、呪文のようなものを唱えつつ接近する。ダグラスの胸部に突き立てたレイピアから炎が噴き出た。


「最大火力だ、《哀れな骸を這い、今赫炎でもってその魂を神の腕へと送らん》!」


 ダグラスの体を血のように真っ赤な炎が包み込む。踠き苦しみながらのたうちまわる様を眺める。断末魔、いや既に死したというのにおかしい表現だがそうとしか表せぬ叫喚が洞窟にこだまする。血と肉の焼ける匂いに吐き気を抑えつつサヤはあまりの眩しさに目を細めた。炎の勢いが弱まった頃、煙を上げながら黒焦げになったダグラスが動かなくなる。


「聖騎士くんって妖精と契約してたんだね。意外だなぁ。この様子なら死霊術師退治も楽そうだね」


 静寂を破って陽気に喋り出すラントーザ。ラッタットの影からひょっこり姿を現し、膝についた砂を払っている。ラントーザの顔を見たカインは目を逸らした。


「他に気配はないのか?」

「奥に一人、動く気配はないね」

「余裕綽々、魔王気取りの死霊術師め。この先は入り組んでるな、ラッタットは置いていく」


 忌々しそうに吐き捨てるカイン。その台詞を聞きながらサヤはラッタットに外に待機するように伝えるとラッタットは外に向かう途中何度かこちらを振り向いた。まるで捨て鼠のような瞳に良心が痛む。ごめんよ、あとでおやつあげようね。ラッタットに後ろ髪を引かれながらも死体を迂回しカインに近づく。


「他になにか策でもあるのかな?てっきり逃げ出す時間を稼いでいたのかなって思ったんだけど」


 敵の不可解な行動に違和感を覚えたサヤはカインに意見を求める。カインはこちらをチラリと見、視線を洞窟の奥に向ける。


「消耗させた所で叩くつもりなんだろう。それよりも貴様、さっさと魔法を使え」

「了解でぇす。じゃあ防御用の魔法陣を起動させるね」


 ポケットを弄って紙片をとりだす。三つの魔法陣に魔力を流し、それぞれに渡した。魔法陣の効果は空気の膜を周囲に展開する効果のようだ。カインもそう判断したらしく胸ポケットに仕舞い込む。


「この魔法陣が起動している限り俺の魔法を無効化できる。いいかい、絶対に俺がいいっていうまで解除しちゃダメだ。なにせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 普段とは打って変わって真顔になったラントーザ。その迫力に気圧され、カインとサヤは素直に頷く。ラントーザは掌を洞窟の奥に向け、長い詠唱を始めた。


「《我が生み出すのは生命を腐食する大気に揺蕩う死の煙。その煙でもって死の領域を創造し、この地を静寂で満たせ。不可知の毒エア・ポイズン》」


 目を凝らして初めて分かったことだが、ラントーザの掌から靄のようなものが放出されている。前に見た無色透明の毒の濃霧よりもったりとした動きのそれは地面を滑りながら洞窟の奥へ進む。


「無色透明な上に匂いもしない、特定の相手だけに作用するとは。これは厄介な毒だな……」


 ラントーザの毒を注視していたカイン。感心したように呟き、その頰を冷や汗が流れていく。呪文の詠唱が終わったラントーザが目を丸くした。


「え、もしかして俺の毒魔法を認めてくれたってこと?」

「うるさい、それぐらい対処できる」


 ねえねえとカインのケープを引っ張りながら話しかけるラントーザ。突き飛ばされても諦めずに話しかけに行くその姿勢にサヤはえらく感服した。突然、ラントーザの動きが止まる。


「……動いた。毒に気づいたみたいだ」

なんで戦う必要があるんですか?

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