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治療

話を分けました。

 大皿に乗せられた大きなマッシュルームをナイフとフォークを使いながら切り分ける。グレイビーソースで味付けされ、こんがりと焼かれた肉厚の身を口に運び、咀嚼する。


 さすが異世界、食材も常識を超えていくぜ。しかし、キノコに肉厚という表現もなかなか面白いな、などとどうでもいい感想をサヤは抱いていた。スコルは慣れた手つきで豆のスープをスプーンで掬い、口をつける。

 丁度昼食を食べ終わり、食後のティータイムを満喫している時だった。スコルの横に立てかけられた杖が震え、赤色の光を点滅させる。


「ふむ、来客じゃの。たしか予定はなかったはずなんじゃが……」


 椅子から立ち上がり、杖を手に取る。赤色の残像を残しながら宙に円を描くと、円の中心に別の風景が投影された。

 幼い少年を抱えた青年が映し出される。


「ここはスコルピィの塔じゃ。して、オヌシは何の用をもってこの塔を訪ねたか聞かせてもらえるかな?」


「先約もなく訪れて申し訳ありません。私はディーン村のトマト畑のトリスの息子、長男のコースです。弟のアルスが倒れて、医療魔術に詳しいというスコルピィ様のご助力を願います!」


 スコルの尋ねに対して焦ったように青年、コースは返答した。背中のアルスはコースの説明どおり首まで赤く呼吸も浅い。辛うじて片手で兄の首に腕を回している。意識は既にないのだろう、だらりと垂れ下がった手には力が入っていない。


「それはまずいのぅ。ひとまず中に入りなさい」


 スコルは杖で床を叩くと扉からカチャリと鍵が外れる音がした。コースはサヤや塔の内部に目を向けることなく指示された空き部屋のベッドにアルスを横たえる。スコルは杖を構え、呪文を唱える。


「《緩やかに、速やかに、そして厳かに。潤いを用いて熱を奪え》」


 杖の先から青い光がアルスに吸い込まれる。アルスの顔から赤みが消え、幾分表情が和らいだが呼吸は変わらず浅い。


「この様子じゃと|クライピオン(泣蠍)の毒じゃな」

「ああ、そういえばアルスは|クライピオン(泣蠍)が好きでよく眺めていました。近づくなっつったのに……」


 コースは納得した様子でアルスの顔を見る。要らん心配かけさせやがって、と悪態を吐いてはいるが先ほどの切羽詰まった様子とはうってかわって表情は柔らかい。


「幸いにも少し吸い込んだだけじゃな、どれすぐに治療しよう」


 スコルは杖を壁に立てかけ、アルスの横に移動する。掌をアルスの額に置き、目を閉じて集中する。スコルの魔力が掌からアルスの額を通じ、全身へと巡っていく。アルスが激しく咳き込み始めた。


「おお…これが呪文……」


 感心したようにコースは魔術を眺めていたが、アルスが咳き込み始めると背中をゆっくりさすっている。

 スコルが戸棚からラッパの形を模した器具を取り出し、アルスの口にいれる。

 ジュコーと器具が音を立てて空気と液体が吸い込まれる。やがて空気を吸い込む音だけになるとスコルは治療完了じゃなと明るい声でコースに伝えた。

 ありがとうございますと感謝を述べるコースにとうぜんのことをしたまでじゃと返答し、部屋を退出するスコル。

 寝ているアルスをのぞいて2人きりになるとチラチラとコースがこちらをみてくるが無視を決め込む。

 かなり気まずい思いをしていると気取られぬよう冷静な表情で、私スコルピィ様の助手ですという態度でいることが重要なのだ。自己紹介すればいいだけだというのはわかるが、タイミングを逃してしまった手前、自分からやるのはどうも気恥ずかしくて無理なのだ。

 数分ほどでアルスの呼吸は安定し、意識も回復した。今では昼食の余りを笑顔で平らげている。


「アルスを助けて頂きありがとうございました。そちらのお姉さんの好意に甘えて昼食まで頂いて感謝の言葉もー」

「よいよい、ワシらが勝手にしたことじゃ」


 スカルは感謝の言葉を述べるコースの言葉を遮り、人の良い笑みを浮かべる。コースはズボンのポケットから小さな皮袋を取り出す。ジャラジャラと硬貨がぶつかる音から推測するに、小銭入れだろう。


 すげぇ、まじで小銭入れを皮の小袋にいれるんだな。

 超感動したぜ、いいものを見た。


「本当にありがとうございます。スコルピィ様、こちらが今回の診察代ー」

「おっと、それは受け取れないのぅ。なにせ今回は診察の約束がなかったからのぅ」


 スカルはパチン★とコースにウインクを飛ばす。茶目っ気溢れるスマイルと悪戯っ子のような瞳を見たコースは面食らった様子で言葉に詰まる。


「で、ですが、治療していただいたのに対価を払わないのはー」

「だってワシてきとーにやっただけで治してないモン!その程度で治療費取るのはプライドが許さんわ!分かったらとっとと弟を連れて帰るが良い!!」


 なおも食い下がろうとするコースを杖で諌めると、漸くコースは治療費の支払いを断念した。アルスはコースの苦難を知ることもなく、部屋の中を興味深そうに眺め回していた。

 コースはアルスに声をかけ、軽くサヤにも会釈をし、何度も感謝の言葉を述べながら外に出て行った。アルスはコースに手を引かれながらもスコルとサヤに手を振り、足元の小石につまづいた。コースに怒られたことで手を振るのをやめ、前を向いて歩いていく。

 遠ざかる2人の背中を見守りながらサヤはスコルに話しかけた。


「意外とかっこいいところ、あるじゃないですかスコル先生♪」

「うるさいわい…まったく、あんな子供から金を取るわけなかろう。それよりも授業の続きをはじめるぞ」


 照れたように背中を向け、スコルは書物庫の方に歩き出す。サヤはニヤニヤとしながらもスコルの後を追いかけた。

ようやくルビを振る単語が出てきました。


あぁ〜脳内アドレナリン分泌が止まらないんじゃあ!!!


あ、感想や誤字脱字などお気軽にどぞ

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