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血と灰

生まれてこのかた剣も魔法も学んだことないのでよくわかりませんでした。争いのない日本はやっぱ最高やなって、先人の努力は無駄じゃなかったんやなって

 洞窟の天井に届かんばかりに後ろ足で立ち上がったその獣、妖精熊は唸り声を喉から響かせた。口から冷気が漏れ、爪は先の尖った氷に覆われつつある。


「勘付かれたみたいですね」


 サヤはポケットから魔法陣を取り出しラッタットの手綱を引っ張って距離を取る。先に攻撃を仕掛けたのはラントーザだった。


「《地面より隆起せよ、大地の牙。彼のものを貫け》」


 ラントーザの呪文に呼応して地面から岩が隆起する。隆起した岩は妖精熊の体を貫いた。蹌踉めきつつも前足を振り下ろす。


「うわっと危ない!!」


 横転しながら回避するラントーザ。爪が当たった地面はパキパキと音を立てて凍り始める。獲物を逃した妖精熊はバランスを崩して四足歩行に戻り、口を開けてラントーザに向き直る。岩に貫かれた体にはポッカリと穴が空き、肉や骨が露出していた。地面に血液は流れ出ていない。


「やはり死霊術の支配下にあるようだな。完全に肉体を破壊するしかあるまい」


 妖精熊の様子を見ながらカインが言った。レイピアを構え呪文を唱える。洞窟の大気が揺らめいた。温度が上昇したことで陽炎が発生しているようだ。


「《火球よ、獣を焼灼せよ。焔でもって生なきものに安らぎを与えん》」


 妖精熊を中心に空気が炸裂した。爆ぜる空気と熱気が周囲を襲う。サヤは思わず顔を腕で庇った。


「うっわあ、なんて出鱈目な火力」


 爆音が落ち着いた頃に関心した声でラントーザが呟いた。洞窟の壁には妖精熊の肉片が張り付いている。べちゃりと地面に落ちる。妖精熊のいた場所には黒ずんだ塊が転がっていた。動きはなく、辛うじてキラリと光る宝石だけが原型を留めている。


「ふん、他愛もない。サヤ、この熊の首元の宝石を切り取っておけ」

「わかった」


 熊の死骸を鼻で笑い、サヤに指図するカイン。ラントーザは再度呪文を使って周囲を探索している。支援と回復を任されているサヤに処理を頼んだのは適切な指示だ。


 首を振って嫌悪感を追い出し、熊に近く。収納袋からナイフを取り出し、熊の首元に突き立てた。その感触に嫌な記憶を思い出しかける。焼かれて炭化した毛皮と皮膚に意図も容易くナイフの刃先は食い込み、宝石を抉り出すことに成功した。宝石に付いた皮膚を指で外し、ナイフと共に収納袋にしまい込む。


 妖精に取り憑かれた生き物は宝石を体のどこかに生成する。その宝石は希少価値が高く、魔力との相性もいいらしい。これからの逃亡生活の役にたつだろう。手袋に付いた煤けた肉片を振って落とし、熊の死骸に背を向けた。その時周囲の気配を探っていたラントーザが叫んだ。


「熊だ、熊から音がした!」

「チッ、死体の中に隠れてたのかッ!!」


 カインの舌打ちと共に手首を勢いよく引かれる。首筋の一寸程を何かが風をきって通り抜けた。咄嗟の出来事だったが地面に手をつき、バク転で体勢を立て直す。


 炭化し黒ずんだ熊の死体、その腹部を大剣が貫いていた。その剣は洞窟の暗闇を切り取ったように漆黒に覆われ、剣の幅はサヤの肩幅は確実にあるだろう。上下に動き、熊の腹部を切り裂く。血に汚れた白い手袋が死体の傷を内部から押し拡げる。肉の裂ける音と骨が軋み、折れる音が洞窟内で反響する。耳を塞ぎたくなるような不快な残響に顔をしかめた。


「貴様は調査に向かった准聖騎士だな」


 熊の死骸から姿を現した男はカインに似た白い装束を身に纏っている。違いは刺繍だろうか。カインの服はケープに至るまで青い刺繍が施されている。それに対して准聖騎士の服は灰色の刺繍が施されているものの、外套は純白のままであった。最もそれも熊の血液や肉片がこびりついて汚れてしまっているが。


 カインの問いかけに対し准聖騎士は沈黙を保ったまま剣を構えた。身の丈ほどもある大剣だというのに片手で持ち上げている。もう片方の手は剣の柄を触れてはいるものの握っているわけではなさそうだ。


「フン、死霊術師に敗北した挙句その配下に成り下がったか。聖騎士の面汚しめ」


 剣を構え、吐き捨てるカイン。取り敢えず邪魔にならぬようサヤは下がった。ラッタットが背中に隠れる。最愛に盾にされる悲しみを感じつつも二人の様子を見守る。


 准聖騎士の瞳は虚でふらふらと周囲を見回している。正面に立つカインを見、横にいるラントーザから視線を彷徨わせ、カインの奥にいるサヤで視線を止める。


「人の工房に無断で入るなんてキミ達礼儀がなってないよ。おまけにペットのクマちゃんをこんなにぐちゃぐちゃにするなんて残酷にもほどがあるね」


 准聖騎士はぼんやりとした表情のまま口を開いた。喋りながらも一歩踏み出し剣を横に振るう。カインは剣をジャンプで回避し、剣を足場に准聖騎士の背後を取った。カインの突きを剣の腹で防ぐ。それでもなお准聖騎士は喋るのをやめない。


「そうそう、コイツは准聖騎士のダグラスくん。ダグラスくん、お客様をもてなしてあげて」


 准聖騎士のダグラスは口を閉じると剣を両手で握り、腰を落として構えを変更した。

爆発させるとか聖騎士はやっぱり違いますね。崩落とか敵の強襲とか対処できるんだろうなすごいなぁ尊敬しちゃうなぁ。今まで死霊術師に負けたことなんかないんだろうなぁ

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