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クマります

富士山登頂…高山病…物価…小銭を切らしたタイミングに排泄欲求…うっ頭が!!やめろ、もう登山は終わったんだ!やめろ、やめてくれええ!!

 銀嶺を昇り行く朝日が照らし出す。眼下に広がった雲はゆっくりと山の斜面を駆け上がっている。じきにここも雲に覆われるだろう。


 陽光と積雪の照り返しに目を細め、横を歩くラッタットの背中を撫でる。防寒着を纏い、魔法陣によって内部を温めているとはいえ外気に晒された頰はヒリヒリと痛む。荒く吐き出した息に取り囲まれながら重い足を上げた。前傾姿勢を維持したまま体重を移動させて登る。風が強まった。背後から雲が覆いかぶさり、明るかった周囲が一気に薄暗くなる。


「そろ、そろ休憩…しよっか……」


 肩で大きく息をしたラントーザが休憩を提案する。ゼエゼエと呼吸している顔は蒼白であり、膝に手をついている。魔法陣に魔力を流し、体調の回復を図っている。


「この程度で根をあげるとは鍛錬が足りてない。鍛え直せ」


 平地と変わらぬ様子のカイン。立ち止まって周囲を見渡し警戒している。この高山地帯で呼吸一つ乱さないとは化け物かな?


「鍛錬、とかそうい、う話じゃないです」


 立ち止まったというのに上がりきった息は落ち着く様子がない。深呼吸を何度か繰り返すが胸の奥に重しをつけたような息苦しさがある。頭も少しクラクラしてきた。高山特有の大気の薄さを実感しつつ収納袋から水筒を取り出し中身を飲む。肌を突き刺す寒さというのに身体は汗をかいている。


「ちゅう?」


 首をもたげこちらの様子を伺うラッタットを労ってナッツをあげる。ちゅうちゅうとナッツを齧るラッタットを見守りながら地面に座り込む。


 山登りを侮っていたわけではないけれど想像以上の過酷さに涙が出る。突発的な山谷風によってバランスが崩される。その風に押し上げられた雲に視界が覆われることもある。薄く積もった雪によって斜面を滑落しやすいのもあって慎重に歩くのは大変だった。


 山道を知っているラントーザが先頭を歩き、次に手の空いたサヤがラッタットの手綱を握っている。最後尾にいるカインが背後を警戒するという布陣で進んでいる。道中の敵や罠を警戒してのことだったがここまでそういった類には遭遇していない。


 日が昇るよりも早く出発したおかげで現在は山の9合目、3500m程にいる。あと1時間近く歩けば山頂に到着できるだろう。


 暫く休憩したおかげで胸の息苦しさが解消されたわけではないが呼吸が整いつつある。切れかかった魔法陣に魔力を流して再起動をかけ、眼下に広がる景色を見る。雲は通り過ぎ、絶景を眺めることができた。森の近くに見える村とキラキラと光る海。この山を越えた先には都市がいくつかあるらしい。


「おっけ、俺はもう大丈夫だよ。サヤちゃんはどう?」

「大丈夫だ」


 ラントーザに答えようとした口を閉じてカインを睨む。カインは腕を組み目はとっととしろと訴えている。ラントーザは肩をすくめるとリュックを背負い直し歩き出した。少し距離を置いてサヤも歩き出す。遅れて背後から足音が聞こえたのでカインも登ってきているのだろう。


 ◇◆◇◆


 想定より30分かかってようやく山頂が見えてきた。日は斜めに登っている。時刻は恐らく昼前といったところだろう。太陽に照らされて溶けかけた雪を踏みしめながら歩くとラントーザが岩に隠れた。手招きで呼び寄せるので近寄って同じく屈む。


「見えてきた、あの洞窟だ。これから洞窟に入るけど並び順を変えよう」


 ラントーザは自分を指し、次にカインを指す。


「ここまで他に痕跡はなかった。恐らく敵は内部で待ち構えていると思う。そこで戦える聖騎士くんが前線を張る。俺は偵察と可能であれば罠の設置、背後はラッタットに任せよう。サヤちゃんは支援と回復を頼む」


 サヤはギュッと拳を握る。洞窟の中にいる死霊術師を討伐しなければ大勢の人が殺されるだろう。数多の命と一人の命。危険を取り除くためとはいえこれから殺人に加担するのだ。加担した以上きっとその罪を背負うべきだろう。覚悟を決めて頷く。


 収納袋から捕獲用や回復効果を持つ魔法陣をいくつか取り出しポケットに忍ばせる。


 ラントーザが指を立て、自身の毒魔法の特性について説明を始めた。


「俺の魔法は設置と効果を発揮するまでに時間がかかる。その反面確実に敵を殺すことができる。風のない壁に囲まれた洞窟なら効果は倍増だ」

「毒魔法とかいうやつか。俺たちを巻き込まんだら死ぬと思え」


 苦笑するラントーザ。ずっと凄まれて耐えている彼にサヤは同情を禁じ得ない。憐れみの視線を向けつつも話の続きを促す。


「俺の魔法はかなり広域に範囲を及ぼす。勿論その対策はバッチリだ。魔法陣を用意したからそれを使うことになるんだけど、問題がある」

「問題ですか」


 困ったように両手を広げたラントーザ。その惚けた表情に殴りかかろうとするカインを嗜める。


「他の魔法陣と比べて維持するのに魔力を使うんだ。だからなるべくなら毒魔法を使ってから魔法陣を起動したい」

「分かりました。他になにか確認することはありますか?」


 他二人の顔を見る。特になさそうなので収納袋を背負い直す。音をたてないよう気をつけながら洞窟に向かって動き出した。


 ◆◇◆◇


 洞窟に接近し、入り口に描かれた魔法陣を観察する。上書きによる魔法陣の破壊だ。


「これは魔力伝達の阻害をする石灰かな?」


 ラントーザは白い塗料を触り、しげしげと観察している。石灰は確か学校の校庭で線を引くのに使われたりしていたんだったか。魔力伝達の阻害の効果があるのは知らなかったな。


「足跡が一つ、この洞窟に入ってからは出ていないな」


 カインが地面に膝をついて重々しく言った。言われた通り見てみると確かに洞窟の奥へと続く足跡が1組。つま先は暗闇に飲み込まれている。


風よ、音を拾え(聴覚拡張)


 ラントーザが呪文を唱える。呪文の内容から恐らく身体強化の一種だと推測する。


「洞窟の奥に一人の呼吸音、この足音と唸り声は…、獣だね。こちらに向かってる。妖精熊だ」


 一息ついたラントーザが呟く。先ほどの呪文で音を集め分析したのだろう。


「距離はどのくらいだ?」


 カインはレイピアを抜き、構える。洞窟の奥に目を凝らすとキラリと何かが光った。答えようとするラントーザを手で制する。


「後衛は下がってろ。敵のお出ましだ」


 暗闇から悠然と獣は姿を現した。白い体毛に覆われ、光のない瞳が3人を睨め付けた。

山岳信仰はやばいです人間やめてますよやつら

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