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JD死霊術師による異世界冒険記  作者: 清水薬子
海鳴りの狭間に君の歌声を
38/74

アリアとセシル

ノリで突き抜けていくのがこの小説です。深く考えれば考えるほど深淵に呑まれますよ

 どこまでも深い青色。きらきらと光る水面から顔を出して砂浜を眺める。砂浜の向こう、切り立った岩の上の木々は夕焼けのような赤色やら橙色が緑色の中に斑らにきらめいている。

 砂浜へと押し付ける波の力を使って仰向けになり、手を使って波の手から逃げる。陸地に背を向けて海水をパシャパシャと遊ぶ。待ち人の姿はまだない。


「ふんふん?ふんふ〜ん、ふふん?ふーん?」


 記憶を頼りに昨日あった少年のウタというのを発音してみる。喋るとも叫ぶとも違う発声方法だ。遠くに伝えるためか?それとも音階の違いで別の意味を持たせる暗号なのだろうか?


「こんにちはアリアちゃん!」


 じゃり、と砂が踏みしめられる音に振り向くと昨日の少年セシルがいた。隣に座り、アリアの顔を見る。


「遅いわよ、セシル!さあ、さっさと教えて!」


 未知の情報に胸が高鳴りがおさえられず、海水で張り付いた髪を乱雑に後ろに跳ね除けてセシルに詰め寄る。


「わ、分かったから。近いよアリアちゃん」


 ふんすふんすと鼻を鳴らすアリアから距離を取り、たどたどしくスオーン村に伝わる民謡を歌い出す。一言一句、手振り1つ見逃さまいとアリアは全神経を集中させた。


「こんな感じ……」


 胸の前で手をもじもじとさせ、目尻を下げるセシル。アリアは軽く咳き込み、喉奥の海水を吐き出すと息を吸い込む。桃色の唇を開き、高らかに民謡を歌った。音程はめちゃくちゃだが歌詞は正確だった。セシルは両手を叩いて喜んでいる。


「じゃあ、今度は一緒に歌ってみよう!」


 セシルの提案にアリアは首をかしげる。共にウタウことで初めて意味があるのだろうか?


「なんで一緒にウタウの?」

「一緒に歌うと楽しいから!」


 セシルはアリアの質問に驚いた様子を見せたもののすぐに回答した。特殊な発声を共に行うことでタノシクなるのか。


「タノシイ?」

「そう、楽しいんだよ!」


 セシルは民謡を歌い出す。アリアは呆気にとられながらも発声する。セシルの声に耳を傾けながら音程を合わせていく。半分を過ぎる頃には音程は完全にセシルの歌声と一致していた。


「すごい!こんなに早く上達するなんて、教えててとっても楽しいよ!!」


 歌い終わると興奮したようにセシルは手を上下に振り、足をバタバタと動かした。上達を喜んでいる。タノシイとはやりがいのようなものなのだろうか。


「これがタノシイのね!ウタウのはとってもタノシイ……」


 ウタウのはとってもタノシイと言えばなんとも言えない達成感が胸を満たしていく。きっとこの感覚もタノシイというものなのだろう。


「他に何かウタはないかしら?もっともっと知りたい!!」


 セシルに詰め寄れば申し訳なさそうにごめんね、と謝った。完璧に歌えるのはこの一曲だけだと言う。明日までには新しい歌を持ってくると慌てて説明したが、アリアは盛り上がってきた気持ちが萎えて行く。


「ん、待って?ねえ、私達でウタを作ればいいわ!そうだ、そうしましょ!私達の内緒のウタ!」


 ポカンとしたセシルの顔がみるみる喜びの色に染まっていく。


「そうか、一から作れば完璧になる!すごいやアリアちゃん、天才だよ!!」


 ふふん、と胸を張る。この不思議な少年に褒められると満更でもない気持ちになる。胸がぽかぽかとお日様に当たった時のようにあったかくなる。その日は陽が傾くまで二人で歌詞をどうするか語り合った。

>一から作れば完璧になる

いやその理屈はおかしい。落ち着けセシル。

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