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JD死霊術師による異世界冒険記  作者: 清水薬子
生と死の狭間で
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毒の濃霧ラントーザ

聖騎士くんがシャーロットを倒して必ず追いつくという約束信じ、もう一人を追いかけるサヤ。

相手を足止め出来れば必ず彼は来てくれる!だって、約束してくれたから!

今まで約束を破ったことがないもの、今回だって来てくれるわ!だからそれまで私が頑張らなくっちゃ!

 大丈夫かな、聖騎士くん。かなり死亡フラグ建築してたけど、今頃死んだりしてないよね?まあ、小説とか創作じゃないんだしそう簡単に殺されないか。

 自分を安心させる。そうだぞ、アイツは平然とスコルピィを圧倒し、人の関節を外し、妖精熊を討伐するようなヤツだ。骨折しても森を歩いてもいる!人でなしと堅物が仲良く手を繋いで歩いているような男だぞ。あの程度でくたばってくれるなら私はとっくに逃げてるさ。

 魔法陣の指し示す収納袋の位置は現在歩く距離で移動している。歩いたり走ったりしているが、どこに向かっているのだろう?


 風がやんだ。先ほどまでびゅうびゅうとうるさかった風は今や音一つなく、村の中心を少し超えた先にある住宅地の不気味な雰囲気が強調されている。息を止め、物陰から聞き耳をたてる。


 ことん、ことん、ぱさり。


 物が落ちる音に混ざってガサゴソとなにかを漁っているようだ。月が傾き、長い人影がばさばさと何かを上下に振っている。


「無いなぁ、見当たらない。確かにこの袋に入れてたのを見たから盗って貰ったのに……」


 低めの声から男性と察する。

 何かを探しているのか?胸元に入れていた本の存在を思い出す。薄いのでシャーロットには気づかれなかったことが幸いした。こいつらの狙いはこの本か!

 それにしても収納袋を既に解析していたとは、あまり悠長にしていられない。


「やっぱりどこにもないじゃあ、ないか…不味いなぁ、早く先に見つけないと……」


 宿屋から拝借してきたメモに魔法陣を書き出す。逃げられないように足止めする炎の檻、聖騎士が使っていたものだ。コツは教えてもらったので問題なくかける。


「全部、全部母さんがいないから上手くいかないんだ!畜生あのクソビッチ絶対ェゆるさねぇからなぁ!!」


 母さん?もしや先ほど遭遇したシャーロットのことか?相当複雑な家庭事情のようだ。お父さんがお母さんになるというのは年頃には衝撃的だろう。複雑な家庭だと非行に走りやすいとニュースでやってたな。しかし、見逃す理由にはならない。直ちに無力化して収納袋を奪還しなければ。許せボーイ、窃盗は犯罪なんだ。よし、描き終わった。


 収納袋を投げ捨て、地面に散乱した衣服をまくり始めた男。背中をこちらに向けたので忍び足で近寄り、魔力を流して丸めた魔法陣を一個投げつける。風がないため、綺麗な弧を描きながら男の背中に当たった。

 男が顔を上げる時には既に包囲は完了し、呆けた顔で周りを見ていた。


「おっと、この想定外はうれしいな」


 収納袋を拾い上げ、土埃を払う。勿論油断したわけではないが、男は無抵抗だ。先程叫んでいたので情緒不安定故に捕まえるのは難しいかと思っていたこともあり、やけに大人しい男を不気味に思う。


「君がどういうつもりでこれを盗んだのか知らないけど、返してもらうよ。私の傑作なんだ」


 念のため、フレンドリーに接する。荷物が無事ならそれでいい。警察かなにかに突き出すまで大人しくしているなら万々歳だ。


「怒って、ないの…?俺、盗んだのに」


 上目遣いでこちらを伺う男。瞳はこれからの処遇で不安に揺れている。少し同情心が湧いてきたが、悟られぬようにする。ここは我らが一級フラグ建築士堅物かっこつけ野郎聖騎士を見習って無言を貫く。


「怒鳴らないなんてアンタ、いい人だなぁ。俺、ラントーザ」


 ラントーザ?どこかで聞いた名前だな。記憶の底を漁る。


『ラントーザはワシの自慢の弟子じゃ』


 あぁ、スコルピィの弟子か。苦虫を噛み潰したような表情になるのを堪える。スコルピィ、アンタの弟子こんなに落ちぶれてるぞ。死者蘇生なんかに没頭するからだ。


『身内贔屓を差し引いても魔法に才能があったわい』


 油断しているわけではない。未だ無抵抗の男はぺちゃくちゃと聞いてもいないことを喋っている。


「俺は18年前の太陽暦98年、冬真っ盛りの残響の月に生まれてさ。父さんはパブで酒浸り、母さんは生活費に従兄弟に金を借りてたわけ」


 思い出せ、どんな魔法の才能だと言ってた?


『特に毒に関する知識は凄まじいものじゃったわ』


 視界の端に揺らめく紫の不定形を捉えた。やっぱり、時間稼ぎか!


「《魔力よ、我が身を強化せよ》!」


 背後に迫った霧を地面を転がりながら回避する。まずいな、紫霧に囲まれた。チラリとラントーザの手元を見る。爪の剥がれた指先と血のついた衣服。会話で稼いだ短時間の間に魔法陣を書き上げたのか。


「改めまして自己紹介を、毒の濃霧ポイズンフォッグのラントーザ。スコルピィ先生の弟子だから、君の兄弟子になるのかな?」


 炎の檻に囚われながらも不敵にこちらを見上げて笑っている。瞳は爛々と輝き、こちらを見つめている姿を見て冷や汗が背中を伝う。

 ラントーザが背中に手を回したので塀に飛び乗り、建物の上に跳躍する。


「させるか、《衝撃よ、弾き出せ》!」


 得意の呪文を詠唱し、ラントーザの頭を狙い撃つ。精々脳震盪ぐらいの衝撃にまで加減しているので脳髄をぶちまけることにはならないだろう。

 ラントーザは笑みを崩さず、両手を横にバッと広げた。何も、持ってない。両手とも何も持ってない。


「愚者は目に見えるものだけを信じる」


 息を吸い込んだ肺が激しく痙攣する。胸を押さえても痙攣は止まらず、足元のバランスを崩して落下する。


「こ、れ…これ、はッ!!」


 決して油断したわけではない。私達は周到に用意されて誘き出されたんだ。付かず離れずで追跡させ、呼吸を乱させ、頃合いを見計らってあえて捕まる。そしてあからさまに怪しい霧を警戒させた。全て無色透明な毒の濃霧ポイズンフォッグのために!

 間違いない、この男は明らかに何度も修羅場をくぐっている!


 ラントーザを閉じ込めていた炎は煙を上げながら消え、月明かりを背に立ち上がる。


「さて、消化試合といこうか」

いやぁ、なんて強キャラ溢れる二人なんでしょう。ときめきが抑えられませんね。ここからどうサヤ選手が巻き返すのか注目です!


目に見えぬ毒を使う天才魔法使いラントーザ。

でも、絶対聖騎士くんが来てくれるんだからそれまで耐え切って見せるわ。見てて、聖騎士くん!


次回、共倒れ

この忘れ物のガスマスク、誰のだろう?

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