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JD死霊術師による異世界冒険記  作者: 清水薬子
生と死の狭間で
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侵入者

丑三つ時、一つ部屋の中で眠る男女、間違いが起きないはずがなくー

 

 草木も眠る丑三つ時、ディーン村の宿屋ディーネの一等豪華な部屋、特別室のベッドの一つでサヤは目を瞑っている。内心では同室の聖騎士くんにたいして怒り心頭である。


『だれが貴様みたいなちんちくりんで色気のカケラもない女に手を出すか。まあ、どうしても気になるというならベランダで寝るんだな』


 男女一つ屋根の下で一泊するのは如何なものかと問うたサヤに対し、鼻で笑った聖騎士の顔面を殴りかけた。寸前で尋問や妖精熊のことを思い出し、理性で怒りを押さえつけたのである。言い返さないサヤを見て悦にいるその表情は将来絶対忘れないだろう。絶対復讐してやるからな、と決意を胸に秘める。


 誰かと同じ部屋で寝るのはいつぶりか。寝付けないので日本の頃の記憶を弄る。たしか大学に入ってすぐの頃、友達が泊まりに来たっけ。同じ学部で仲良くなって、レポートの参考資料を読んでたんだ。一人じゃすぐに怠けちゃうからお互い監視しようっていって。


『なんでこの判例だと正当防衛が認められないんだっけ?』


 授業中に寝てばかりいたから、私が教えてあげてたんだっけな…思えばいいように利用されてたなぁ。


『あぁ、不法侵入した甲に対して乙がナイフで刺したヤツでしょ。たしか声もかけず、明らかに素手の甲にナイフで刺したところが正当防衛としてはやり過ぎだとかなんとか。結果正当防衛は棄却、殺人で有罪』


 鞄から判例のコピーを引っ張り出して、蛍光ペンで引いた箇所を見せたんだっけ。


『そうなんだ、ありがと。助かるわぁ。人を殺すなんて怖いねぇ。そういえばさ、この前再犯率が高いってテレビでやっててさ。沙耶はどう思う?』


 よく喋る子だったな。なんて答えたっけ?


『うーん、どうだろ?…場合によりけりだけど、法律を守らない人間が道徳を守れるワケがない。特に故意で法を犯した人間は刑務所出てもトラブル起こすだろうから更生はすごく難しいんじゃないかな』


 そんな風に答えたっけな。自分で聞いてきた癖に興味なさそうにレポートに集中しだしたから呆れたんだっけ。日本のことを思い出したら寂しくなってきたな。これがホームシックってやつか。

 聖騎士の寝返る音に目を開ける。気が高ぶってるのかな、寝付けないや。昨日から色んな事が立て続けに起きたからな。

 召喚のこと、死者蘇生、聖騎士、妖精熊、死体の宴、死霊術、非日常にも程がある。なんて長い悪夢だろう。早く日本に帰りたいな。これがいっそ夢だったらどんなにいいだろうか。どうか目が覚めたとき、見慣れた部屋の天井だったらいいのにな。

 首を動かして、窓から覗く夜空を眺める。三つの月、結べば丁度正三角形。死んだ人間はお星様になるという話を聞いたが、スコルピィはリタの近くでお星様になれただろうか。

 視界が滲んできたので慌てて思考を停止する。嫌いなやつの側で泣くなんていうのは20歳目前のプライドが許さなかった。服の袖口で目元を拭う。


 ドサッ。


 室内の静寂が破られた。二つのベッドの間に何かが落下したのである。起き上がり、正体を確かめる。

 本だろうか、両開きに開かれた頁は月明かりに照らされ()()()()を床にこぼしている。


「さっきからうるさいぞこのアマ!いいから寝ろッ!!」


 聖騎士が寝惚け眼といった顔で起き上がり、サヤを叱りつける。


「いや違うッ!断じて私じゃない、本がいきなり落ちてきたんだ!()()()収納袋に入れたはずなのに!アンタだって見ただろ!!」


 不可解な現象にたまげながら聖騎士に反論し、本を拾う。絶対に収納袋に入れたはずだ。収納袋に入れた物は登録した魔力パターンを流さない限り取り出せない、そういう仕組みなのだ。


「おい、貴様。窓を開けたか?」


 ベッドから降り、机に置いてあるレイピアを手に持つ聖騎士。その表情は焦りが見える。


「最後に閉めたのを確認したのはアンタだ。私は窓に近付いちゃいない」


 室内を見渡す。確かに机に置いたはずの収納袋は消え、バルコニーのカーテンが風に揺れている。間違いない、何者かが収納袋を盗んだんだ。


「貴様、心当たりはあるか?」


 問いかける聖騎士に対し、首を横に降る。スコルピィの性格から言いふらすとは思えない。

 聖騎士はバルコニーのカーテンを横に引き、外を見る。深夜の時間帯に外出するような人間はおらず、無人の通りが月明かりに照らされていた。盛大な舌打ちは室内に響く。


「人影もない、追跡は難しいか」


 ぶつぶつ恨み言を呟く聖騎士を無視し、ベッドの脇に置かれたメモ帳とペンを取る。


「私の作った収納袋だ。窃盗に対するセキュリティは万全、2分待って」


 ザッザッ、とペンを走らせる。線を引き、文字を書き魔力を流して確かめる。筆圧を強めに書いたので下の紙はその跡をなぞる。メモの一枚を聖騎士に渡す。


「これは……」


 驚いた様子でこちらを見る聖騎士。まったく悪気はしないのでもっと悪態つかずに尊敬の眼差しで私を見てくれ、じゃなかった。時間もないのでブーツの紐を結びながら説明する。


「魔力を流せば大まかな位置が表示される。何が目的か説明して貰おうぜ」


 魔力を流した魔法陣は円を描き、北と南を表示する針と点滅する赤い光を描き出す。移動するペースから考えて歩いているのだろう。走れば追いつけそうだ。聖騎士と顔を合わせ、部屋を飛び出した。

なんてインテリジェンスの高い学生なんだ(小並感

このために友人から判例を読みました。よく分かりませんでした。



盗まれた収納袋を取り戻すため、夜の村を走るサヤと聖騎士。そこで待ち受ける強敵。次第に追い詰められる二人。



ここで倒れたら誰がレイピアの伏線を拾うんだ!負けないで、名も知らない聖騎士さん!

次回、聖騎士カイン、死す!

明日もお楽しみに!

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