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渾身の命乞い

前回のあらすじ


熱い気持ちのあまりサヤを押し倒す聖騎士。

だめよ、風紀を守るあなたが自らこんなこと…


でも、そんな目で見られたら拒めない…

 地面に跪き、ずきずきと痛む左肩から意識をそらすために目の前の男を見つめる。首に突きつけられた剣。彼がほんのちょっと押すか引けばたちまちサヤは鮮血を首から踊らせ、この世から強制退場するだろう。

馬鹿正直に異世界から召喚されましたと伝えてもこの男は同情もなくサヤを殺すだろう。頭の中で架空の話をでっちあげるしかない。


「私、スコルピィさんとは他人なんです」


 死の恐怖を堪え、震える唇を叱咤激励して発言する。話を聞いた聖騎士は片眉をあげる。続きを促されたのだと解釈して話を続ける。


「住み込みで魔法陣書くお仕事してみないかって誘われて……」


 聖騎士の表情は変わらず、更に確信に踏み込まないといけないらしい。言葉を慎重に選びながら編み込んで行く。


「魔法陣を研究して生活を豊かにしたい、と仰っていたのでその手助けをできればと」


 嘘は言っていない。

(死者蘇生の)魔法陣で(最愛のリタに会えない日々に別れを告げ、)生活を(心)豊かにしたい、全部言ってないだけで特に問題はない。

 男の瞳が揺れた。釣れた、関心を引いたのだ!!


「先ほどの魂を汚すとかいうのももしかしたらその魔法陣に起因しているのかもしれない」


 確信もなくテキトーに言ってみる。

 男はふむふむ、と相槌を打ちながら話を聞いていた。この調子でいけば丸め込めるかもしれない。


「なるほど、では目の前のあなたを殺せばその魔法陣の伝承は潰え、永劫に失われるということになるな。手間が省けた」


 がっでむ、この堅物聖騎士め。

 剣が僅かに動いて皮膚が浅く切れた。これは藪蛇だったか、不味い殺されそう。いや、まだだ。挽回すればチャンスになるはず!ここは私を殺すより生かしておいた方がいいですよと人畜無害アピールするんだ!


「まだその魔法陣、教えてもらってないんです」

「ふむ、ならば見逃す価値はあるか?」


 よし、よくぞ模範的な回答を返してくれた堅物聖騎士野郎!!

 その回答は想定済みで対策してるぜ!


「スコルピィが聖騎士様に処刑されるような人間だとは知りませんでした」


 模範的堅物聖騎士野郎は表情を変えることなく剣を突きつけている。頭の中ではさまざまな可能性を列挙しては否定しているんだろう。だが、考える時間は与えてはいけない。

 畳み掛けるなら動揺した今しかない!

 畳みかけようとするがその前に男が口を開く。


「だとしても、生かしておく理由にはならない」


 あ、これダメですね。元から生かしておくつもりゼロのお顔をしていらっしゃる。もとから説得なんて無理ゲーじゃんこれ。絶体絶命のピンチになすすべなく死を覚悟して目を閉じた。


 パサリ


聖騎士の背後で本が落ちる。目を開けて音の正体を探った。見知った本だ、たしか塔の崩落に巻き込まれたはずの『見聞録』。

 男は背後に軽くジャンプしてサヤと距離を取る。

 本は丁度送還の魔法陣の頁に開き、黒い液体がビショビショ溢れている。地面や葉の上を転がっていく液体をみて男の喉が動く。


「貴様の本か?」


 頷く。左肩がものすごく痛いが我慢する。


「その本は今、隠匿魔術の術式なのか呪いの類いかは分からないんですが中身が読めないんです」


 黒い液体を見て気分が悪くなったのだろう。

 男の顔が青ざめている。分かる、黒い液体が広がっていくのなんか不気味で気持ち悪いよね、と勝手にシンパシーを感じる。動揺の隙をついて華麗な土下座を決めた。


「私を殺さないでいてくれるなら荷物持ちとかやるんでお願いです殺さないでください」


 さらにお得情報を吊り下げることで堅物聖騎士野郎の購買意欲をそそる。


「そんなにお強いならいつだって私を殺せるじゃないですか?なら今殺すより利用してから殺した方が堅実じゃないですかね?」


 どうだ?お買い上げなるか?


 男がため息をついた。

 長い、長いため息。

 呆れて怒りを孕んだ顔には血管が浮かび上がり、ピクピクと痙攣している。剣を鞘に収めた。どうやら命乞いは成功したようだ。一命をとりとめたのである。


「貴様、誇りというものはないのか」


 元気よく肯定する。

 しかし、なんだがゲームで選択肢を間違えたようなそんな感触があるぞ。目の前の男がなぜ怒っているのか見当もつかない。もしかして私はこれから死ぬよりも恐ろしいルートを選択してしまったのだろうか。男はこちらを見る事なく口笛を吹く。鳥がパタパタと飛び、男の指に止まった。何かを呟くと空に放つ。

 

「あの、私サヤっていいます」


沈黙に耐えかね、サヤがついに自ら自己紹介した。その声に顔を向ける事なく男が回答する。


「自己紹介どうも。俺のことは聖騎士と呼んでくれ」


男は名前を名乗らずぶっきらぼうに返答した。サヤの背後に回り、左肩に手をかける。サヤは痛みと恐怖で情けない声をあげた。


「え、あの絞め技で殺すんですか?首締めは勘弁願いたいです」

「そんな趣味はない。早めに治さないと後に響くからな」


再度サヤの左肩から鈍い音が響く。二度目の痛みに叫び声をあげるサヤを呆れた目で聖騎士が見下ろした。


「立て、村に戻る」


 こちらを振り返らずに男は歩き出した。立ち上がりつつサヤは目の前の揺れる金髪を睨みつける。なにせ腹への膝蹴りや背中の肘打ち、加えて左肩の脱臼、挙句に首の出血は全部こいつのせいなのだ。謝罪されたことや関節を嵌めて貰ったことを忘れ、いやそもそも外す方がおかしいだろうと憤っていた。

 だが、サヤは大人だ。

 この無愛想堅物聖騎士野郎にもきっとなにかしら事情があったのだろう。そういうことにしておく。


「トロい。貴様もっと早く歩けんのか」


しておくつもりだったのだが、話しかけると不愉快だとでも言わんばかりの口調や態度に不満が募る。

 距離が離れるとわざわざ振り返るあたりが嫌みたらしい。トロトロ歩くな走れと目が釣り上がっている。人の関節外しておきながらそういう態度取るんだふーん、と侮蔑の眼差しで目の前の金髪尻尾を睨む。

 怖いので後ろからだが。それにしてもあの尻尾、千切れねーかな。そんなことを思いながら歩いていると木の根に躓き、盛大に転倒するサヤだった。

第1クールの閲覧、ありがとうございました!


今回は重大な発表があります。

第2クールの制作決定しました!

第2クールの制作を信じてまってもらった読者の期待に応えるため、鋭意制作してまいります!!




くそシリアストレーラー


無数の可能性から一つを選ぶ。

縋った希望の代償から目を背け、最愛は彼方へ飛び立った。

残されたものはおぞましき未来に怯えるのみ。

選択を成したものはその責任を果たさねばならない。


第2章、生と死の狭間で

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